スティンガーの憂鬱 第10話
翌日も、俺達はジャークマターとの戦いに身を投じていた。だが、俺にとってその戦いは集中出来るものではなく、常にひやひやさせられていた。
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
コグマスカイブルーにスターチェンジしている小太郎が、いつもと違っていた。
「おりゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
いつもよりも力が入り、物凄い勢いでインダベーに突っ込んで行く。そして、ガッシリと組み付いたかと思うと、
「このこのこのこのおおおおッッッッ!!!!」
と、殴る蹴るの嵐を浴びせる。インダベーは悲鳴を上げ続け、攻撃どころか、頭を押さえて蹲ってしまっている。傍から見ている俺からすれば、インダベーがかわいそうに思えるほどだ。
「…ね、…ねぇ…、…スティンガー…」
カジキイエローにスターチェンジしているスパーダが俺のもとへやって来ると、その細長いバイザーの中で顔を引き攣らせて言った。
「…こ、…小太郎…。…今日は、何だか、様子が変じゃないかい?」
「…無理もないだろう」
俺は小さく溜め息を吐くと、小太郎の機嫌の悪さのもとを作ったヤツを見やった。
「おおッ!!小太郎ッ、今日は一段と張り切ってるじゃねえか!!」
シシレッドにスターチェンジしているラッキーだ。ラッキーは昨日、小太郎といかがわしいことをし、小太郎を泣かせていたのだ。すると小太郎は、
「張り切ってなんかいるもんかッ!!ただッ、機嫌が悪いだけだッ!!」
とストレートに言うと、
「誰のせいでこうなったかッ、自分の胸に聞いてみろよッ!!」
と言いながら、明るい空色のブーツに包まれたその右足を振り上げると、ラッキーのシシレッドの真っ赤なスーツに包まれた脛を蹴り上げていた。
「痛ってええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ラッキーが戦いの最中に大声を上げたものだから、他の面々が驚いてラッキーの方を振り向く。
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
そんなラッキーを放っておくように、小太郎はキュースピアを振り回し、インダベーの中へと突っ込んで行った。
「…なッ、…何なんだよオオオオッッッッ!!!!」
ラッキーの大声が辺りに響き渡った。
「…小太郎」
ジャークマターとの戦いを終え、俺達はオリオン号に戻って来た。
「…」
小太郎は自分自身の部屋で膝を抱え、ベッドの上に憮然としながら座り込んでいる。
「戦いに私情を挟むな。余計なことばかり考えていたら、戦いに集中出来ないだろう?」
まるで自分自身に言い聞かせているようだ。俺だって、兄・スコルピオがジャークマターの刺客となり、俺達を殺そうとした時にはその感情の狭間で大いに狂っていた。すると小太郎は、
「分かってるよッ、そんなことッ!!」
と、顔を真っ赤にし、目にいっぱい涙を溜め始めた。
「…でも…ッ!!…でも、オレッ!!…ラッキーにあんなことされて、…凄く、…恥ずかしくて…!!」
「…仕返ししたいか?」
俺は小太郎の横に座り、そう口にしていた。
「お前も、大人になりたいか?」
「…え?」
俺が尋ねると、小太郎はきょとんとした表情で俺を見ている。
「…お前が大人になりたい、小学校の友達と同じくらいいろんなことを知りたい、いや、それ以上になりたいと思うのなら…!」
その時、俺はニヤリとし、
「その時は、俺が手伝ってやる!!」
と言っていた。すると、小太郎は、
「…仕返しって、…何をするの?」
と聞いて来た。
「お前は、ラッキーに何がしてやりたい?」
逆に聞いてやる。すると小太郎はちょっと考え込み、
「…オレがされたことだけじゃなく、もっといろんなことをしてやりたい…!!…ラッキーのアソコが、使い物にならなくなるくらいに…!!」
と、怒りを滲ませた目付きで言った。
「…分かった」
俺はそう言うと立ち上がり、小太郎の頭の上にぽんと手を置いた。
「俺に任せておけ!」
「…兄貴…?」
小太郎はまた不思議そうな表情で俺を見つめている。そんな小太郎を優しく見下ろし、
「心配するな。別に悪に戻るわけじゃない。…だが、お前が笑ってくれるのなら、俺はいくらでも悪になる…!!」
と言い、小太郎の部屋を出た。
(…恥っず…!!)
自分でもなんてくさいセリフを吐いたんだと思っていた。どこかの星の歌手の曲が、ふっと頭の中に浮かんだのだ。
(…とは言え…)
俺一人がラッキーのもとへ行き、小太郎がお前に仕返しがしたいと言っている、と言ったところで、
「な、何言ってんだよッ!?オレは悪いことなんかしちゃいねえッ!!小太郎にエッチなことを教えてやっただけだ!!」
と言うに決まっている。
(…じゃあ、…誰かに協力してもらうか…?)
そう言ったところで、オウシブラックにスターチェンジするチャンプは、
「てめえッ!!てめえの正義の心はどこに行ったんだああああッッッッ!!!!」
と、いきなりキレるのが目に見えている。オオカミブルーにスターチェンジするガルは、
「おいおい、スティンガー。そんな子供の喧嘩に首を突っ込むなガル。なぁに、間を置けば、自然に仲直りしてるガル!」
と、面倒なことに首を突っ込みたがらない。テンビンゴールドにスターチェンジするバランスだったら、
「ああ、無理無理!ごめんネ〜、ボク、機械生命体っしょ?だからぁ、人間に何をしたら痛がるのかとか、ましてやエッチなことなんて分かんないし〜。それにボクは機械生命体だから、蹴ったりしたら、逆に小太郎の足の骨が折れちゃうんじゃないかなぁ〜」
などと、意味不明なことを言うに違いない。
ヘビツカイシルバーにスターチェンジするナーガは、問題外だ。
「…分からない…」
で終わり。
(…やっぱり…)
スパーダに頼むしかない。
(…仕方がない…)
俺は意を決すると、そっとキッチンに入り込んだ。
(…食事の準備中か。…ちょうどいい…!)
いい匂いを溢れさせているキッチン。そこに並ぶたくさんのお皿とそれに盛り付けられた料理。俺はその1つへ近寄ると、ポケットから小さな紙の包みを取り出す。
(…コイツで、スパーダを…!)
その中に入っている白い粉末。それを1つのお皿に盛り付けられたスープの中へ混ぜ込むと、急いでキッチンを飛び出していた。
(…すまん、スパーダ。…これも、…小太郎のためだ…!!)