歪んだ友情 第3話
「さぁ、入って」
静かな住宅街の一角に、尾村豪の家があった。
「…ここが、お前の生まれ育った家かぁ…」
イエローライオン・大原丈が感慨深げに言った。科学アカデミアでの豪は知ってはいたが、その実家までは知らなかったからだ。
「…おふくろさんは出かけてるのか?」
しんと静まり返っているのに気付いた丈が尋ねる。
「…多分ね…。…ここにいないんだから、買い物か何かだろ?」
豪はそう言いながらも部屋の奥へと入って行く。丈はきょろきょろと家の中を見回しながら、豪の後に従った。リビングのようなところには、豪が受賞したと思われる数々の賞状や盾が所狭しと置かれていた。
「どうしたの、丈?」
豪が振り返り、丈に尋ねた。すると丈は、
「さすが豪だなぁと思ってさ…」
と言った。
「え?」
豪が聞き返す。
「オレなんかと違って、やっぱり頭が良いんだなって思ってさ!」
「…あぁ…」
豪は、丈の目線の先にあるものを見て一言言った。
「そんなの、遠い昔のことだよ」
豪はそれらを一瞥すると、再び家の奥へと向かった。
「おい、待てよ、豪ッ!!」
丈は慌てて豪の後を追った。
「ここだよ」
リビングを抜けて地下へと続く階段を下りた丈と豪。
「…へぇ〜…!」
その部屋の内部を見た途端、丈は思わず声を上げた。
「…すっげぇなぁ…!!」
部屋には数々の実験道具、コンピューターが置かれていた。
「これ、お前が全部使っていたのか?」
丈が豪に思わず尋ねる。すると豪はフッと笑い、
「そうだよ。僕がボルトに入るまで、ここをラボにしていたんだ」
と言った。
「…ら、…ら…ぼ…?」
丈がきょとんとして豪に聞き返す。すると豪は、
「Laboratory。実験室のことだよ!!」
と苦笑した。
「…あ、…ああ〜!!…実験室のことね…!!」
丈が慌てて笑う。
「もう。丈ったら、そんな英単語も分からないのかい?」
「ちッ、ちげえよッ!!…ちょ、ちょっと聞き取れなかっただけだよッ!!」
顔を真っ赤にして不貞腐れる丈。
「…でも…」
豪が静かに言った。
「…でも、ここにあるものは、…もう、僕には必要ないんだ…」
豪がぽつりと呟いた。
「…僕は…。…もう…、…ボルトの一員でもない…。…ただの落ち零れなんだから…!」
次の瞬間、豪は丈に抱き締められていた。
「…じょ、…丈…!?」
驚いた豪は思わず丈を見上げた。
「…い、…痛いよ、…丈…!!」
丈の腕の力が強い。豪は丈の顔を見ようとした。だが丈は豪の肩に顔を乗せたまま、微動だにしなかった。
「…そんなこと言うなよ。まだ、やり直せるじゃねぇかよ!!」
丈が静かに言った。そして、
「ボルトでお前がドクター・オブラーでいた時は、その知識を悪い方向へ使ってしまった。でもこれからはそれを良い方向へ使うんだ!」
と言った。
「…良い…、…方向…?」
「そっ!!」
すると丈は豪と離れ、豪の両肩を掴み、やや前屈みになった。
「お前のウイルス学を使って、たくさんの人を病気から救ってやればいいんだよ!!いろんな病気に効くワクチンを作ったりさ!!」
「…たくさんの人を、…救う…?」
「まぁ、オレみてぇなバカにはよくは分かんねぇけどな!!」
丈が更にニヤリとして言った。次の瞬間、豪が丈に抱き付いた。
「…豪…?」
今度は丈が戸惑う番だった。豪の細い腕が、丈の背中をしっかりと掴んでいる。
「…少し、このままでいさせて…!」
豪の震える小さな声。丈の心臓がドキン、と早鐘を打った。
(…前にも、…確かこんなことが…)
おぼろげながら蘇って来る記憶。
「…前にも、こんなことがあったよね…?」
豪の声が聞こえた。
「…」
丈は何も言えず、ただ豪を抱き締め返している。
「…科学アカデミアで一緒に勉強していた頃だった。僕は海で、溺れた子犬を助けようとして思わず飛び込んだんだ。でも僕は泳げなかった。溺れるって思った時、丈が助けてくれた。その時も、こうやって抱き合ったよね?」
そうだった。
焚き火を焚き、寒がる豪を丈は思わず抱き締めた。
「…あの時のことを、僕は後悔なんかしていないんだ…!」
「え?」
丈は驚いて豪を見下ろす。その時、丈の心臓は再びドキンと早鐘を打った。
豪は泣いていた。
「僕が獣人オブラーになった時、丈には『あれは俺の許しがたい汚点だ!!』なんて言ったけど、あれはケンプやマゼンダが見ていたからそう言ったんだ!!本当はそんなこと、これっぽっちも思っちゃいない!!子犬を助けたかったのは、本当に僕の一心だったんだ!!」
「分かったッ!!分かったからッ!!」
ひどく興奮する豪を、何とか押し止めようと、丈は思わず声を上げた。
「…丈…」
すると丈はニッコリとして、
「…誰もお前のこと、疑っちゃいないさ!きっとそんなこったろうと思ってたぜ!」
と言った。
「…じょ、…丈…?」
「心配すんなって!お前のことは、オレが必ず守ってやっからさ!!」
屈託のない笑顔で言う丈。
「…うんッ!!」
豪も思わずにっこりと微笑んだ。そして涙を拭った。
「…じゃあ、僕のお願いを聞いてくれるかな?」
さっきまでの暗い顔はどこにもなかった。豪が丈を見上げて言う。
「…ったくぅ、すぐこれだもんなぁ…!!」
丈がやれやれと苦笑する。
「いいだろ?科学アカデミアにいた時はいつもこうだったんだから!!」
豪が思わず膨れる。
「しゃあねぇなぁッ!!」
丈はそう言うと豪の足元に跪いた。
「お願いとは何でしょうか、豪様?」
「フフッ!!」
豪が思わず笑う。そして、
「ねぇ、丈。まず、イエローライオンに変身してよ!」
と言った。
「…変…身…?」
丈が訝しげに尋ねる。すると豪はコクンと頷いて、
「丈が変身した姿、凄くカッコいいんだもの。僕、ゆっくりと見てみたくてさ!!」
と言った。
「分ぁったよッ!!」
そう言うと丈は立ち上がり、ポーズを構えた。
「行くぜッ!!イエローライオンッ!!」
ツインブレスをぶつけた瞬間、丈の体が輝き、イエローライオンに変身していたのだった。しかし、マスクは付けてはいなかった。
「…丈…。…また、…抱き付いても…いいかい…?」
豪がちょっと頬を赤らめて言う。
「豪が正気に戻ってくれたんだ。オレは何だって言うことを聞くぜ!!」
丈はそう言うと大きく両手を広げた。次の瞬間、豪がゆっくりと近付き、丈の背中へ腕を回した。
「…豪…」
丈は静かに豪の頭を撫でる。
「…丈…」
豪は静かに目を閉じ、ゆっくりと丈の背中を撫で始めた。そして、その手をゆっくりと下ろして行き、丈の尻をそっと撫で始めた。
「…あ…ッ!!」
丈が不意に声を上げる。豪が静かに見上げている。
「…ご…、…う…?」
「あの時と変わらないね、丈のお尻。ぷりんとしてるよ…!」
あの時。
子犬を助けようと海に飛び込み、寒さに震えていた豪を、丈は思わず抱き締めた。だがその時、2人の間には友情を越えた何かが芽生え始め、越えてはならない一線を越えてしまっていた――。
「あの頃よりも引き締まったかな?」
そう言うと豪は、丈を見上げた。
「…」
丈は何も言わず、ただじっと豪を見つめている。
「…丈…」
豪の言葉に釣られるように、丈の顔が豪に近付く。
「…ん…」
豪が甘い吐息を漏らす。丈と豪の唇が、静かに触れ合っていたのだ。
…チュッ、…クチュッ…!!
時折、淫猥な音が響く。
「んんッ!!」
不意に丈が声を上げ、眉間にしわを寄せて、体をピクリと反応させた。
「…ご、…豪…様…?」
豪の右手が、丈の股間を包み込んでいたのだ。
「…もうこんなに大きい…!」
豪が頬を赤らめて微笑む。
丈のペニスは今、光沢のある真っ白なスーツの中で、その形をくっきりと浮かび上がらせていた。