歪んだ友情U 第2話
その頃、1台のオートバイが、ドクターオブラーこと尾村豪と、イエローライオンこと大原丈が住む家の前を通り過ぎようとしていた。
黒いヘルメットをかぶり、精悍な顔つきの眉間には皺が寄っている。矢野鉄也。丈と同じくライブマンのメンバーで、ブラックバイソンに変身する。
鉄也がその場所を通り掛かったのは偶然に過ぎなかった。まるで、何かの運命に導かれるかのように、その場所を通り過ぎようとしていたのである。
(…変だ…)
鉄也の心の中には、ある疑念が渦巻いていた。
(…このところ、グラントータスに近付く頭脳獣が多すぎるような気がする…)
グラントータス。鉄也達ライブマンが活動の拠点としている海亀型の巨大海底移動要塞基地だ。それはアカデミア島にある希望岬の沖1マイルの地点、海の奥深くに潜っていた。
(…そんなところを、ボルトが嗅ぎ付けて来たなんて…)
とは言え、科学アカデミアの最先端の科学技術を駆使して作り出したものであり、武装頭脳軍ボルトにも簡単には発見されないものになっていたはずなのに。
(…となれば、…誰が…?)
その時、鉄也の脳裏に3人の面影が浮かんだ。
(…まさか、…勇介さん…?)
レッドファルコン・天宮勇介。ライブマンのリーダー。だが、リーダーとは言え、ボルトの幹部であるドクターケンプこと月形剣史とは夢を語り合った仲だ。
(…それとも、…めぐみさん…?)
ブルードルフィン・岬めぐみ。勇介と同級生で優等生。だが、ボルトの幹部であるドクターマゼンダこと仙田ルイとはルームメイトだった。
(…それとも、…丈さん…?)
そして、イエローライオン・大原丈。勇介やめぐみと同級生。だが、ボルトの幹部であるドクターオブラーこと尾村豪の親友だった。
(…純一は、…ないな…)
フッと口元から笑みが零れる。グリーンサイ・相川純一。鉄也の相棒にして弟分だ。17歳と言う純粋な高校生。ボルトとは全く接点がない。
と、その時だった。
目の前が急に眩しい光に包まれた。と同時に、大きな爆発音が聞こえ、ふわりと体が宙に浮いたような感覚を覚えた。
「うわああああああッッッッッッ!!!!!!」
突然のことに悲鳴を上げ、背中を地面にしたたかに打ち付けた。
「…な…ッ…!?」
慌てて立ち上がり、黒いヘルメットを外した。
「…ジ、…ジンマーッ!?」
両腕を左右に真っ直ぐに伸ばし、片方の手にスティックを持った、ライム色の物体が数体、いや、何十体とガチャガチャと音を立てて突進して来る。そして、鉄也の顔面、腹を容赦なく殴り、殴っては離れ、殴っては離れを繰り返す。
「おごッ!!」
「ぐわッ!!」
「ああッ!!」
そのたびに鉄也の体はクルクルと回るように動き、鉄也は悲鳴を上げる。そのうち、ジンマーの1体が手に持っているスティックから紐状になったものを投げ付けた。そして、それは鉄也の首に巻き付いたのである。
「…うぐッ…!?」
首に巻き付いたものを引き離そうと、鉄也がそれに手を掛けたその時だった。そのジンマーが鉄也の首に巻き付いているものを大きく頭上へ引いたのである。
「…あ、…ううッ!?うわああああああッッッッッッ!!!!!!」
鉄也の体が宙を舞い、ジンマーの遥か後方へ放り投げられた。
「ぐあッ!!」
再び背中を地面にしたたかに打ち付け、鉄也が叫ぶ。
「…おのれ…ッ!!」
黒と白で彩られたシャツとズボンが砂埃を浴びて茶色に変色している。その時、鉄也が両腕に付けられたツインブレスを取り出した。
「行くぜッ!!ブラックバイソンッ!!」
鉄也が両腕に付けられたツインブレスをぶつけ合った瞬間、鉄也の体が光り、光沢のある鮮やかな黒と白であしらわれたスーツを身に纏っていた。
「うおおおおッッッッ!!!!」
ブラックバイソンに変身した鉄也が、文字通り、ジンマーに突進して行く。
「はぁッ!!だぁッ!!」
そして、とてつもない力でジンマーを薙ぎ倒して行くかに見えた。だが多勢に無勢、みるみるうちに鉄也は追い詰められて行き、気が付いた時には、何体ものジンマーがスティックから紐状になったものを投げ付け、それは鉄也の首や体、腕、足などに大きく纏わり付いていた。
「…くッ、…くそ…ッ!!…離せぇッ!!」
鉄也が必死にもがくが、その紐状になったものは数本が絡み付く状態になっており、もがけばもがくほど、それらは絡まり合い、余計に解けなくなって行った。
「…ッ!?」
その時、鉄也は血の気が引いて行くのを感じた。紐を握っているジンマー達の背後から、鉄也自身が倒したはずのジンマーがゆらゆらと起き上がり始めたのだ。そして、それらの頭部は完全に砕け散り、その中心部にはキラキラと光る熱源があった。そして、頭部が破壊されたジンマーはあっと言う間に鉄也を取り囲むと、その中心部から強烈な熱線を放出させたのである。
「!!!!」
焼け付くような光で最初は声が出なかった鉄也。だが、その光がやがて痛みに変わって行った時、
「…うう…ッ、…うわあッ!!ああッ!!ああッ!!ぐわああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
と言う絶叫と同時に、
バアアアアンンンンッッッッ!!!!ズガアアアアンンンンッッッッ!!!!ドガアアアアンンンンッッッッ!!!!
と言う爆発音が辺りに響いた。
「うがああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
ブラックバイソンのスーツの至る所が爆発し、白煙を上げる。辺り一帯にもくもくと煙が広がる。
「…あ…、…うう…ッ!!」
やがて、その煙の中からブラックバイソン姿の鉄也が現れ、鉄也の膝がガクンとなったかと思うと、ゆっくりと地面に崩れ込んだ。
「…う…、…あぁ…!!」
体中が痛い。意識が朦朧とする。そんな中でも、ジンマーのガチャガチャと言う足音が聞こえて来る。
(…もう、…ダメ…か…?)
鉄也が死を覚悟した、その時だった。
「だありゃああああああッッッッッッ!!!!!!」
聞き慣れた、威勢のいい声が鉄也の耳に響く。そして、体がグッと持ち上げられたような感覚を覚えた。
「大丈夫かッ、鉄也ッ!!」
ブラックバイソンのマスク越しに、鉄也の目がうっすらと開かれる。
「…丈…さん…?」
イエローライオンに変身している丈が、鉄也を抱き起こしていたのだ。
「今は取り敢えず、逃げるが勝ちだぜッ!!」
丈はそう言うと鉄也を片側に担ぎ、
「ライオンバズーカァッ!!」
と言う叫び声と共に一発のエネルギー弾を放った。