歪んだ友情U 第3話
「…う…、…うぅ…ッ!!」
ジンマーに酷くやられたブラックバイソン・矢野鉄也。傷が痛むのか、時折、呻き声を上げながら歩く。
「鉄也ッ、もう少しだからなッ!!」
そんな鉄也に肩を貸し、同じように歩くイエローライオン・大原丈。そして1軒の民家に入ると、ソファに鉄也を座らせた。
「…ここ…は…?」
ブラックバイソンに変身した鉄也がそのマスク越しに、同じようにイエローライオンに変身している丈を見上げる。すると丈は窓際へゆっくりと歩いて行ったかと思うと、スッと指を動かした。そして、
「…埃がかなり積もってる…。…空き家みてぇだ…」
と言った。
鉄也もゆっくりとぐるりと周りを見回す。あちこちにクモの巣が張られ、廃れた家。もう何年も、人の気配がなさそうなことが窺えた。
その時、丈がゆっくりと鉄也の方へ振り向き、イエローライオンのマスクを静かに外した。
「お前もマスクを取れよ。暑いだろ?」
「…はい…」
すると鉄也は、ブラックバイソンのマスクに手をかけ、ゆっくりと脱いだ。
「うわっちゃー…!」
そんな鉄也の顔を見た丈が、自身の顔をしかめてそう言った。
「随分、こっぴどくやられたもんだなぁ…!」
丈はそう言いながら、鉄也の全身を舐めるように見回す。
幼さを残すその顔には青あざが出来ていた。そして、ブラックバイソンのスーツの上半身、光沢のある鮮やかな黒い部分には引っ掻き傷や斬られた跡があり、ところどころ焦げていた。そして下半身の、光沢のある鮮やかな白い部分は砂埃で茶色に変色していた。
「…丈さん…」
「ん?」
俯き加減に丈を呼ぶ鉄也。
「…ありがとう…ございました…。…俺を、…助けてくれて…」
「いいってことよ!」
鉄也は膝の上に置いた拳を固く握り、ブルブルと震わせている。いつもの生意気な鉄也じゃない、丈は笑って鉄也の横に座り、肩を抱いた。
「…ねぇ、…丈さん…」
「今度は何だよ?」
不意に鉄也がじっと丈の顔を見つめる。
「…おかしいと思いませんか?」
「何が?」
鉄也が不意に発した言葉に、丈はきょとんとする。
「…このところ、ボルトがまるでグラントータスの在り処を知ったかのように、その周りで動くことが多くなったじゃないですか?」
すると丈は、ちょっと考え込むかのように視線を天井へ向け、
「…まぁ、…確かに…」
と言った。すると鉄也は、丈とは逆に俯き加減になり、
「…疑いたくないけど、…もしかしたら…!」
と言ったその時だった。
「ちょっと待てよッ!!」
突然、上から丈の大声が聞こえ、物凄い勢いで胸倉を掴まれていた。
「じょッ、丈さんッ!?」
あまりにも突然のことに驚く鉄也。目の前には顔を真っ赤にした丈が、自分を睨み付けている。
「…おめえはッ!!…オレ達の誰かが、ボルトと内通しているって言うのかッ!?」
「…あ、…あ…あ…あ…!!」
恐怖に口をパクパクさせるしか出来ない鉄也。
「確かにッ、オレや勇介、めぐみはオブラーやケンプ、マゼンダと同級生だった。言い換えれば、昔は友達だったさ!でもなッ、今は違うッ!!あいつらは人間の命を何とも思っちゃいねぇんだッ!!そんなヤツらッ、もう友達でも何でもねぇッ!!」
「おッ、落ち着いて下さいッ、丈さんッ!!」
鉄也はそう言うのが精一杯だった。少しずつ、丈の手の力が緩んで行く。すると鉄也はゆっくりと丈の腕を取り、
「…すみませんでした…」
と言った。すると丈も、
「…オレも、…悪かった…。…つい、カッとなっちまって…!」
と言い、寂しそうに笑った。そして、
「…怒鳴ったら、喉が渇いちまった…!…何か、飲み物持って来らぁ…!」
と言うと立ち上がり、一人その部屋を出て行った。
「お待たせ!」
暫くすると丈は2つの紙コップを持って戻って来た。
「どこへ行っていたんですか?」
片方の紙コップを渡されて、鉄也が丈へ尋ねる。すると丈は、
「すぐ近くに公園があったろ?そこに行って水道を汲んで来た」
と言った。
「…変身…したままで?」
怪訝そうに見上げる鉄也。
「…あ…」
すると丈は自分の姿を見回し、声を上げた。そして、
「…忘れてたぜ…!」
と言い、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「…丈さんらしいや!」
そう言った鉄也の顔にも笑みが浮かんだ。
「飲めよ!お前も、喉が渇いたろ?」
丈がそう言うと、
「いただきます!」
と鉄也が言い、紙コップに入っていた水を何の疑いもなしに一気に飲み干した。
「…落ち着いたか?」
鉄也が水を飲み干したのを見届け、丈がどすんと鉄也の横へ腰を下ろす。すると鉄也は、
「…はい…」
と言い、笑みを浮かべた。
その時だった。
不意に丈が真顔になり、鉄也をじっと見つめたのだ。
「…丈…さん…?」
その顔にドキッとする鉄也。
「…鉄也…!」
丈の顔が少しずつ近づいて来る。
「…じょッ、…丈…さん…?」
丈の両腕が、鉄也の両肩を掴み、ゆっくりと押し倒して行く。
「…う、…ウソ…でしょ…!?」
ゆっくりとソファに倒れて行く自分。そんな鉄也の上に、丈が伸し掛かる。上半身が黄色と黒の、下半身が白のスーツを身に纏った、筋肉質な体格の男2人がソファの上で折り重なる光景は、どこから見ても異様としか言い様がなかった。
「…鉄也…ッ!!…鉄也ッ!!」
首元に顔を埋め、呻くような声を上げる丈。
「…やッ、…止めろオオオオッッッッ!!!!」
咄嗟に力を振り絞り、丈を自身の上から押し上げる。
「…どッ、…どうしたんですかッ、丈さんッ!!」
顔を真っ赤にし、荒く呼吸をする鉄也。丈は鉄也の上で馬乗りになるような格好になっている。その時だった。
「あ〜あ、もう少しだったのにぃ…」
部屋の入口から声が聞こえ、その主を認めた瞬間、鉄也が言葉を失った。
「…バッ、…バカな…ッ!?」
光沢のある鮮やかな黄色と白であしらわれたスーツを身に纏った男がいる。だが今、その男は自分の上に馬乗りになっているはず!
「…丈さんが…、…2人ッ!?」