歪んだ友情Ⅱ 第4話

 

 古びた民家。長い間、誰も住んでいないかのようにクモの巣や埃だらけの部屋の中で、ソファから少しだけ身を起こし、目の前で繰り広げられている光景を呆然と見つめていた。

 ブラックバイソン・矢野鉄也。そこには、絶対にあり得ない、信じられない光景が目の前に広がっていたのだ。

「…ど、…どうなってるんだ…!?

 思わず呟かずにはいられなかった。

 黒を基調とした上半身。光沢のある鮮やかな黒色のスーツ。その腕部分は光沢のある鮮やかな白い生地で覆われ、肩から臍へかけてV字を描くように白いラインが入っている。その間には、バイソンの顔があしらわれている。

 そして、下半身は、光沢のある真っ白な生地に覆われ、鉄也の足の肉付きをくっきりと浮かび上がらせていた。

「どうしたんだよぉ、鉄也ぁ?鳩が豆鉄砲食らったみてぇな顔して…!」

 部屋の入口に、一人の男性が佇んでいる。鉄也と同じようなデザインのスーツを身に纏っている。だが、彼の場合は黄色を基調としていた。そして、その明るい色は彼の体付きを鉄也以上にクッキリと浮かび上がらせていたのである。イエローライオン・大原丈。その顔は不気味なほどニヤニヤと笑みを浮かべ、目はギラギラと輝き、ワックスで固めた髪の毛が日の光を浴びて輝いた。

「…そ、…そんな…!!

 鉄也がそう言わざるを得ない状況がそこにはあった。そして、ゆっくりと足元の方を見やる。

「何だよぉ、鉄也ぁ?一体、どうしたって言うんだよ?」

 そこには、部屋の入口で立っているはずの丈が、鉄也に馬乗りになるかのように座っていたのだ。しかも、部屋の入口で立っている丈と同じように黄色を基調とした、光沢のあるスーツに身を包んでいたのだ。

 と、その時だった。

「ヒャーッハハハハ…!!

 突然、狂ったような笑い声が聞こえたかと思うと、鉄也や丈よりも遥かに背の低い男が、部屋の入口に立っている丈の背後から姿を現した。

「…ドクター…、…オブラー…ッ!!

 思わず睨み付ける鉄也。黒いスーツを身に纏い、首には白い蝶ネクタイをしている。ドクター・オブラーこと、尾村豪が勝ち誇った笑みを浮かべて立っていた。

「まんまと僕の罠に引っ掛かってくれたね、ブラックバイソン。いや、矢野鉄也ッ!!

「…罠…だと…?」

 冷や汗が流れる。だが、瞬時に全てが理解出来た。

「…そうか。…そう言うことだったのか…!」

「え?」

 鉄也の言葉に、豪が思わず聞き返す。

「この頃、グラントータスの周りで頭脳獣やジンマーの数が増えたことが気になっていたんだ!…そうか。…つまり、2人いる丈さんのうち、どちらかが洗脳された丈さんで、どちらかが頭脳獣ってことだなッ!?

 その言葉を聞いた豪は、

「…へぇ…!」

 と驚いた表情を見せた。

「…驚いたよ。…お前みたいな単細胞がこのトリックを暴くとはね…!」

「…何、…だと…!?

 怒りにブルブルと体を震わせる鉄也。だが、両足の上には丈がしっかりと伸し掛かっており、それよりも大量のジンマーに受けた攻撃の傷が痛んだ。

 すると豪はゆっくりと部屋の中へ入って来た。そして、部屋の入口に立っている丈に凭れ掛かり、

「…半分は当たりで、…半分は間違い、…かな…」

 と言った。そして、

「ねぇ、丈。こっちに来てよ」

 と言い、鉄也の足の上に座っていた丈を呼んだのだ。

「はい、豪様」

 そう言った丈の言葉に、思わず体を凍り付かせる鉄也。

「…じょ、…丈…さん…!」

 その言葉に、

「…何だよ、…鉄也…?」

 と丈が面倒そうな顔付きで振り返った。

「…どう言う、…ことですか…?…『豪様』…って…?」

 すると丈は鼻でフンと笑うと、

「決まってんだろ?」

 と言い、豪の肩をぐっと抱き寄せた。そして、

「豪はオレの大切なご主人様、ってことだよ!」

 と言った。

「…そ、…そん…な…!!

 何かが音を立てて崩れて行くのが分かった。まさか、自分の目の前で背信行為が行われていたなんて…!

「フン」

 その時、豪が静かにそう言い、丈の腕をゆっくりと振り解いた。そして、静かに丈の背後へ移動し、

「丈はね、僕の大切な人になったんだよ。僕だけを守ってくれる、僕だけのヒーローに、ね!」

 と言い、両腕を丈の腹へと回した。

「そうそう。君に言うのを忘れていたよ」

「…言い忘れていた、…こと…?」

 ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる豪に、鉄也が思わず聞き返す。

「さっきの君の推理についてさ。『半分は当たりで、半分は間違い』と言ったよね?」

 その言葉をじっと聞いている鉄也。

「まず、どちらかが頭脳獣って言うのは正解だよ。でも、僕も正直、どちらが頭脳獣だったか、見分けが付かないんだ」

「…な、…んだと…!?

 鉄也の頭の中が少しずつ混乱して行く。

「確かに、頭脳獣を作り出すコアは使った。でも、本来は動物とか植物とか、機械とか、人間以外のものを材料にして作るからすぐに頭脳獣と見分けが付く。でも今回はそうじゃない」

 すると豪は、丈の腹へ回していた右手をゆっくりと下へ移動し始める。

「…や、…止め…ろ…!!

 鉄也の視線が、豪の手の動きに合わせるかのように動き、鉄也はブルブルと拳を震わせて、呻くようにそう言った。と同時に、

「んッ!!

 と言う声を上げ、丈がビクリと体を跳ねらせた。

「…ご、…豪…様…ッ!?

 顔を赤らめ、背後にいる豪へ振り返る丈。

「フフッ!!

 豪の右手が、白いスーツの下に息づくふくよかな膨らみを静かに揉みしだいていたのだ。

「…は、…恥ずかしい…です…!」

 そう言いながらも、丈のペニスは急速に勃起して行く。

「いいじゃない、丈。あの単細胞に、僕達の愛を見せ付けてやろうよ!」

「…止めろ…ッ!!

 目を見開き、きょときょとと忙しなく瞳を動かす鉄也。すると豪は、

「丈は洗脳されたんじゃない。自らの意志で、僕の奴隷になることを選んだ。だから、『洗脳された』と言うのは間違いだね。そして、ここから出て来る丈のDNAがたくさん詰まった精液を採取し、もう1人の丈を作り出したと言うわけだよ!だから、行動パターンも、性格も全て本物と同じなんだ!実際に、お前達の基地のセキュリティチェックも通過していたわけだろ?つまり、どちらかは頭脳獣であっても、頭脳獣ではないようなものなんだよ!!

 と言い、大声で笑い始めたのだ。

「止めろオオオオッッッッ!!!!

 その言葉に、鉄也は思わず耳を塞ぐ。

「…そ、…そんなこと、…あるもんか…ッ!!…丈さんは、…洗脳されてなんか、…いない…ッ!!

 鉄也が豪を睨み付ける。

「…丈さんは、…きっと、…いつもの丈さんに戻るはずだあああッッッ!!!!

 そう叫んだ鉄也が立ち上がり、豪へ飛び掛かろうとした時だった。

 空間がぐにゃりと歪んだように思え、次の瞬間、鉄也は床へ倒れていた。

 

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