歪んだ友情V 第2話
「俺ッ、てっちゃんに会って話をして来るよッ!!」
しんと静まり返ったグラントータス内に、やや甲高い少年の声が響いた。
「てっちゃんが心の奥まで完全に洗脳なんかされるもんかッ!!てっちゃんはそんな弱い人間なんかじゃないッ!!」
そう言って部屋を飛び出そうとするこの少年、グリーンサイに変身する相川純一を、レッドファルコンに変身する天宮勇介が慌てて止めた。一人で行っても勝ち目はない、今は時期を見るしかない、そう説得を試みるも、純一は鼻息荒く、
「大丈夫ですッ!!僕が行っててっちゃんに話をすれば、きっと、てっちゃんは分かってくれるはずですッ!!」
と聞く耳を持たない。勇介の横で、ブルードルフィンに変身する岬めぐみがはらはらと涙を零していた。
「…俺がッ、…絶対に丈さんもてっちゃんも取り戻してみせますッ!!」
そう言うと純一は、勇介の制止をも振り切って飛び出して行った。
(…てっちゃん…!!)
寒々しい空の下、荒涼とした大地をジージャン、ジーパン姿の純一が物凄い勢いで走って行く。
(純一ッ!)
ブラックバイソンに変身する矢野鉄也の笑顔。キラキラと眩しくて、どんなことにでもへこたれず、敢然と立ち向かって行く鉄也。兄貴肌で、メソメソと泣いてばかりいる自分を守ってくれた、自分にとってのヒーローである鉄也。
(…てっちゃん…!!)
いつの間にか、純一の目には涙が溜まり始めていた。
(…てっちゃんは、…絶対に分かってくれるはずだ…!!)
ジージャンの袖で涙をグッと拭う。
(…てっちゃんは、…俺の…!!)
純一が鉄也に対して思う気持ち。それは友情を超えた思いがあったからだった。
鉄也の兄である矢野卓二と、純一の姉である相川麻理は、長い間、お互いに相思相愛の関係になっていた。そんな2人に周りも好意を持ち、既に親公認の仲になっていた。となれば、お互いの家を行き来し、まだ中学生だった鉄也と超学生だった純一もほぼ幼馴染みのように寝食を共にし、いつも一緒にいることが多かった。
「てっちゃん、てっちゃん!」
今日も喧しいほどに鉄也に纏わり付く純一。そんな純一にやれやれと苦笑しながらも、
「おい、純一ぃ。お前、いい加減に俺離れしろよぉ!」
と言った。
「それにお前、俺のことを呼ぶ時に、なんで、『てっちゃん』の『ち』を強調するんだ?普通なら『て』だろう?」
すると純一はう〜んと視線だけ空へ向けて、
「…分かんない!でも、『ち』を強調した方が言いやすいんだもの」
とニッコリとして言った。
「…フッ!」
ニコニコと純粋な眼差しで自分を見つめて来る純一にまんざらでもない鉄也は静かに笑うと、ゆっくりと純一を抱き寄せた。
「てっちゃん、だぁい好きッ!!」
純一はそう言うと、鉄也の体に両腕を回し、しっかりと抱き付いた。
「…甘えん坊…!」
鉄也は少しだけ照れたように顔を赤らめると、それでも純一の頭を静かに撫でた。
そんな2人の関係を、少しだけ変える出来事がこの後に起こった。
「てっちゃあんッ!!」
それは、鉄也が中学3年、純一が中学1年に進級した時のことだった。
「…てっちゃん?」
鉄也の家に遊びに来た純一。だが、鉄也の家は誰もいないのか、しんと静まり返っていた。
「…おっかしいなぁ…。…誰もいないのかな…?」
と、その時だった。
2階から女性の喘ぎ声のような音が聞こえて来た。
「てっちゃん、いるのかな?」
その声に誘われるかのように、純一はゆっくりと階段を上がって行く。
「…それにしても、…何だろう、…この声…?」
当時の純一には、性の知識など殆どなかった。クラスの数人がそんな話をする程度で、うぶだった純一には全く関係のないことだったのだ。
「…てっちゃんの部屋から聞こえる…」
階段の突き当たりに鉄也の部屋があり、女性の喘ぎ声はそこから聞こえて来ていた。と同時に、
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ…!!」
と言う荒々しい呼吸も聞こえて来た。
「…て…っちゃん…?」
今までに聞いたことのないような物音に妙に不安になる。いつの間にか、純一の足は動きを遅くし、出来るだけ足音を立てないようにしていた。
「…て…」
うっすらと開いた襖。そこから目をやった時、中の光景に純一は絶句した。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
鉄也が食い入るようにテレビを見ている。女性の喘ぎ声のような声はそこから聞こえて来ているようだった。
それよりも。
それを食い入るように見つめている鉄也の顔。真っ赤になり口を半分だけ開いている。その目はギラギラと野性味を帯びていた。
そして。
床に座り込んでいる鉄也の2本の足の付け根。胡坐をかいている鉄也のその部分に際立っている鉄也の男としての象徴・ペニス。それは中学3年のわりには大きく勃起し、先端はしっかりと剥け、赤黒く腫れ上がっていた。そして、鉄也はそれを物凄い勢いで上下に刺激していたのである。
「…う…、…あぁぁ…!」
純一が傍で見ていると言うことに全く気付かず、そんな醜態を見せ付けている鉄也。
「…て、…てっ…ちゃ…ん…!」
こんな淫らな鉄也を見るのは初めてだった。
(…何だろう、…この感覚…?)
いつの間にか、純一は自分の体が熱く火照っていることに気付いた。
「…痛ッ…!」
その時、純一は下半身に鈍い痛みを覚え、それを見た途端、凝然となった。
「…あ…あ…あ…!!」
純一の学生服、そのズボンの前部分が大きくテントを張っていた。
「…な、…何、…これ…?」
と、その時だった。
「…イクッ!!…ああッ、…イクイクイクッッッッ!!!!」
鉄也の叫び声を聞いたような気がした。思わずそっちへ目をやった純一。その瞬間、
ドビュッ!!ドビュドビュッッッッ!!!!ビュクビュクッッッッ!!!!
と言う鈍い音が聞こえ、鉄也のペニスの先端から真っ白な液体が飛び出したのを見た。
「てッ、てっちゃんッ!?」
思わず大声を上げていた。
「…え!?」
その声に思わず入口の方を見る鉄也。
「…じじじ、…純一ッ!?」
真っ赤になっていた顔を更に真っ赤にする鉄也。そして、
「…あ…、…うわああああッッッッ!!!!」
と叫んだかと思うと、物凄い勢いで股間を両手で覆ったのである。
「…てっ…ちゃ…ん…?」
呆然と鉄也を見下ろす純一。
2人の間を、何とも形容しがたい気まずい空気が流れているのは言うまでもなかった。