歪んだ友情V 第8話
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
どのくらい走っただろう。途中、物凄く苦しかった呼吸も、今はすっかり慣れてしまったかのように楽に呼吸が出来る。とは言え、ずっと走り続けているので呼吸が上がっていると言えば上がっているのだが。
(…てっちゃん…)
ジーンズ姿の相川純一が走り続ける。
純一達のリーダーであるレッドファルコン・天宮勇介がどんなに止めても、お姉さんキャラのブルードルフィン・岬めぐみがどんなに涙を流しても、純一の心は揺らがなかった。
(…それでも、…僕は…ッ!!)
行方不明、いや、頭脳武装集団ボルトの幹部の一人・Dr.オブラーに洗脳されてしまった、純一が最も尊敬すべき男・ブラックバイソンに変身する矢野鉄也と、自分達のサブリーダーであり、頼もしいパワーファイター系のイエローライオン・大原丈を取り戻すべく、純一はただ一人、荒涼とした大地を走り続けていた。
「…あれは…!?」
ザザザザッッッッ!!!!ガチャガチャガチャガチャッッッッ!!!!
金属音を響かせて、人間のような姿のロボットがうようよといる。全身ライム色で片手にスティックのような武器を持ち、両腕を肩の高さで真横に伸ばして駆けて来る。
「…ジッ、…ジンマーッ!?」
敵対する武装頭脳集団ボルトの最下級兵。力のレベル的には大したものではなかったが、それが大勢いるのだ。多勢に無勢とはこのことだと純一は思った。
だが、今更後には引けない。クルリと背中を向けて逃げ出すわけにも行かない。
(…僕が…ッ、…てっちゃんと丈さんを助けるんだッ!!)
キッと目付きを変えると、純一はツインブレスを構えた。そして、
「グリーンサイッ!!」
と手首部分を胸のところでクロスさせた。すると純一の体は眩い光に包まれ、そのまま光の弾丸となってジンマーの大群の中へ突っ込んで行った。
ドガッ!!バシバシッ!!ドガガガッッッッ!!!!
光の弾丸となった純一がジンマーを次々と弾き飛ばして行く。弾き飛ばされたジンマーは宙を舞ったかと思うと地面に体を強打し、もともとロボットの彼らはその衝撃で五体がばらばらに弾け飛んだ。
「やあッ!!はあッ!!いいやッ!!」
やがてその実体が現れた時、純一は光沢のある鮮やかな緑と白のスーツ姿のグリーンサイへと変身していた。
「…く…、…くそ…ッ!!」
だが、多勢に無勢。一人では体力の限界に近く、次第に押され始める。それを見切ったのか、ジンマーの動きが加速度を増したように思えた。そして、
ズバンッ!!ズババババッッッッ!!!!スパアアアアンンンンッッッッ!!!!
と言う音と共に、純一のグリーンサイのスーツにジンマーが持っているスティック型の武器がぶつかり、その鋭利な爪で引っ掻く。
「うわあッ!!」
「ああッ!!
そのたびにスーツはスパークし、火花が飛び散る。そして純一は体を仰け反らせ、悲鳴を上げる。そして、ジンマーの1体の目がギラリと光った時だった。
「…何ッ!?」
そのジンマーの体が真っ赤に光り始め、ピピピピ、と言う甲高い音が聞こえたのだ。
「ヤバいッ!!」
咄嗟の判断で純一は前方へ大きく跳んだ。まさにその瞬間、
ドオオオオオオオオンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う物凄い地響きを伴ってそのジンマーが自爆した。
「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
純一の甲高い声が辺りに響き、爆風で体が吹き飛ぶ。そして、地面に激しく叩き付けられ、
「ぐわッ!!」
と短い悲鳴を上げて転がった。
「…お…ッ、…おのれ…ッ!!」
砂埃で全身が茶色く薄汚れている。それでも純一は何とかして立ち上がると、
「サイカッターッ!!」
と両手にV字型のブーメランを取り出した。
「食らえええええッッッッ!!!!」
そして、エネルギーを集中させ、
「はああああッッッッ!!!!」
と気合いを入れてそれを放った。
ザシュッ!!ザシュザシュッッッッ!!!!ズババババッッッッ!!!!
明るい緑色に光ったそれらはくるくるとジンマーの大群の周りを、まるでそれらを翻弄するかのように動き、隙に乗じてジンマー達をズタズタに切り裂いて行く。そして、
ドオオオオオオオオンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う物凄い音を立て、ジンマーを巻き込むようにして大爆発を起こしたのだった。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
体中で大きく呼吸をしているのか、純一の光沢のある鮮やかな緑と白のスーツがキラキラと太陽の光に照らされて輝く。
「…や…った…か…?」
もくもくと砂塵が舞い、目の前が見えない。
と、その時だった。
1体のジンマーが物凄い勢いで飛び出して来たのだ。
「…な…ッ!?」
純一が驚く間もなく、そのジンマーはガッシリと純一にしがみ付いた。そして、みるみるうちに体が真っ赤に光り始めたのだ。
「…ッ!?」
次に待ち受ける展開が分かり、
「…はッ、…離せッ!!…離せったら…ッ!!」
と純一が体中に力を込めてそのジンマーを振り解こうとする。だが、そのジンマーは純一の両腕までもをしっかりと抱き止めてしまい、全くと言っていいほどに身動きが取れない。
そのうち、ピピピピ、と言う、あの忌まわしい音が聞こえて来た。
「はッ、離せええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
純一が絶叫する。その瞬間、
ドオオオオオオオオンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う物凄い音を響かせながら、純一にしがみ付いていたジンマーが自爆した。
「ぐうわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
純一の甲高い悲鳴が辺り一面に響き渡り、純一がいた辺りが砂塵にまみれる。
やがて、その砂塵が収まった時、
「…あ…あ…あ…、…あぁぁ…!!」
と声を震わせながら、純一はブルブルと体を震わせて立っていた。
しゅうしゅうとスーツからは煙が立ち上り、ところどころ焦げていた。光沢のある鮮やかな白色のズボンは今やすっかり砂塵にまみれ、茶色く変色していた。
「…う…、…あぁ…!!」
その時、純一の膝がガクンと折れたかと思うと、ゆっくりと前のめりに地面へ倒れ伏した。
「…うう…!!」
グリーンサイの濃い緑色のグローブがギリギリと音を立てて握られる。
(…やっぱり、…僕だけでは敵わなかった…!)
悔しさでマスクの中の目に涙が滲んだ。と、その時だった。
…ザッ!!
土を蹴るような音がした。
「…?」
その方向をゆっくりと見やる純一。その瞬間、
「…ッ!?」
と目を大きく見開き、呆然となった。