歪んだ友情V 第9話

 

「…う…、…あぁぁ…!!

 グリーンサイに変身した純一。光沢のある鮮やかな白と緑の生地であしらわれたそのスーツは、今や土埃と爆発による焦げ目によって変色し、しゅうしゅうと煙を立ち上らせていた。

 ぐったりと地面に横たわるそんな純一の目の前に、ザッと土を蹴りながら無言で立った男。

 光沢のある鮮やかな白と黒の生地であしらわれた、純一のグリーンサイのスーツの同じ材質のスーツを着ている。

「…て…、…てっ…ちゃ…ん…!」

 ブラックバイソンに変身した鉄也が肩幅よりもやや広めに足を開き、静かに純一を見下ろしていた。

「…ッ!!

 その時、純一は鉄也に抱き付きたい衝動に駆られた。だが、その反面、鉄也から逃げなければいけない、警戒しなければいけないと言う動物的本能が心のどこかに働いていた。

「…て…っちゃ…ん…」

 ゆっくり、本当にゆっくりと純一は起き上がる。だが、そんな純一に対して、鉄也は無言のまま、微動だにせず、立っているだけだった。普段だったら、

「大丈夫かッ、純一ッ!!

 と血相を変えて抱き起こしてくれたりするのに。

(…やっぱり、…てっちゃんは…!)

 そんなやるせない思いが込み上げて来て、純一の目に再び涙が滲んだ。とは言え、グリーンサイのマスクに覆われているので、それを鉄也に見られることはなかったが。

「…てっちゃん…!」

 ヨロヨロと立ち上がると、

「…てっちゃん…。…グラントータスに、…帰ろうよ…。…勇介さんも、…恵さんも、…みんな、…待ってるよ…?」

 と、努めて明るく、優しく声をかけた。だが、鉄也は微動だにしない。

「…ねぇ、…て…っちゃ…」

 ドゴオオオオッッッッ!!!!

 その時、鈍い音が辺りに響き渡った。そして、

「…あ…、…が…ッ!!

 と言う純一の呻き声が小さく聞こえた。

「…て…っちゃ…ん…!」

 鉄也のブラックバイソンの、濃い黒色のグローブ。その右手が拳状に握られ、それが純一のグリーンサイの鮮やかな緑色のスーツの腹部に減り込んでいた。

「…て…っちゃん…!…どうして…!?

 本当に一瞬だった。純一が鉄也にグラントータスへ帰ろうと言った時、鉄也の右手がギリギリと音を立てて握られた。そして、あっと言う間に純一の腹部に減り込んでいたのである。

「…て…っちゃ…!」

 純一が鉄也の名前を呼ぼうとしたその時だった。

「…ライブラスター…!」

 鉄也の低く冷たい声が聞こえた次の瞬間、鉄也の右手が純一の腹部から離れたかと思うと右腰に取り付けられているホルスターに手を掛け、そこからライブラスターを抜いた。

 バシュウウウウウウウウッッッッッッッッ!!!!!!!!

 超高熱の熱線が銃口から放たれる。

「…あ…あ…あ…あ…!!

 その熱線の勢いで、純一の体が少しずつ押され始める。

「…て…、…て…っちゃ…」

 鉄也の名前を呼ぼうとしたその時だった。

 ズガアアアアアアアアンンンンンンンン!!!!!!!!

 ライブラスターの熱線に耐えかねたのか、純一のスーツがスパークし、大きな衝撃音と共に爆発を起こした。

「うわああああッッッッ!!!!

 純一が悲鳴を上げ、背後へ吹き飛ぶ。

「…うう…ッ、…て…っちゃ…!!

 と、その時だった。

 鉄也が物凄い勢いで駆け出して来た。

「…バイソンロッド…!」

 鉄也の右手がポウッと妖しく光ったかと思うと、そこから長槍が飛び出した。前後双方に刃があり、それが冷たく輝いていた。

「…止めてよ…!」

 純一の声が震える。いや、正確には体も小さく震えていた。

「…止めてよ、…てっちゃん…!!

 起き上がるものの、鉄也のバイソンロッドを防御するようなものもない。

「はああああッッッッ!!!!

 鉄也が唸り声を上げたのと同時に、バイソンロッドも唸りを上げて純一に牙を向ける。

「止めてよッ、てっちゃんッ!!

 だが、鉄也の腕は一向に止まろうとしない。

 ズバッ!!ズババババッッッッ!!!!

 バイソンロッドの鋭い刃先が純一を切り裂いて行く。

「あぐッ!!

「ああッ!!

「ああああッッッッ!!!!

 そのたびに純一は悲鳴を上げ、体を仰け反らせたり、背後へひっくり返ったりする。

「オラオラオラアアアアッッッッ!!!!

 それでも鉄也の攻撃は止まらない。バイソンロッドの冷たい切っ先が純一の体中を切り裂いて行く。

「…や、…止めて…ッ!!…止めて…ったら…ッ!!…てっちゃああああんんんんッッッッ!!!!

 純一の甲高い叫び声が辺りにこだまする。

 その時、不意に鉄也が純一と間合いを取った。

(来るッ!!

 心のどこかで覚悟を決める。

 その時、鉄也のバイソンロッドの2つの刃は既に眩しいくらいの光を宿らせていた。

「…食らえ…!」

 ブラックバイソンのバイザーがギラリと光ったように見えた次の瞬間、

「バイソンスパークッ!!

 と、鉄也が叫んだかと思うと、バイソンロッドを大きく振り翳した。

「はああああッッッッ!!!!

 そして、そこから眩しいエネルギー弾が1発、純一に向かって放たれた。

 ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!ズガアアアアアアアアンンンンンンンン!!!!!!!!

 激しい衝撃音が聞こえた次の瞬間、

「うぐわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と純一の悲鳴が聞こえ、その体が大きく宙を舞い、直後、激しく地面へ叩き付けられた。

「…う…、…うぅ…ッ!!

 分かっていたはずだった。どんなに鉄也に声をかけても、何をしても鉄也の心には響かないと言うことを。

(…それでも…、…僕は…!)

 地面に倒れ伏した純一。その右手がギリギリと音を立てて握られる。

「…それでも僕はああああッッッッ!!!!

 そう叫ぶと、

「サイカッターッ!!

 と、ブーメラン状の武器を鉄也に向かって投げ付けた。だが、

「フンッ!!

 と鉄也は呆気ないほどにあっさりとそれらを薙ぎ捨てた。そして、

「はああああッッッッ!!!!

 と再び叫んだかと思うと、バイソンロッドのもう片方に凝縮されていたエネルギー弾を純一に放ったのだ。

 ズババババッッッッ!!!!ズバアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 そのエネルギー弾は純一の体にぶち当たり、その瞬間、激しい大爆発が起きた。

「ひぎゃああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 純一の絶叫が耳を劈き、同時に純一の体だけではなく、辺りにも爆発が起こり、その砂塵の中に純一が見えなくなった。

 

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