歪んだ友情Ⅲ 第10話
ゴゴゴゴ…。
その場所から地響きが聞こえる。大爆発が起こったばかりのそこは砂塵がもくもくと舞い、視界を遮っていた。一寸先も見えない、そんな状態だった。
その爆音が少しずつ収まって行き、砂塵も少しずつ消えて行った頃だった。
…ガンッ!!…ガラン…!!
乾いた鈍い音が聞こえて、その砂塵の中から何かが転がり落ちて来た。
鮮やかな緑色の、サイを模ったマスク。その真っ黒なバイザー部分が粉々に割れ、中から剥き出しの回路が飛び出していた。
「…う…、…うぁぁ…」
やがて、その砂塵が消えた時、中から1人の少年・相川純一が姿を現した。
グリーンサイの、光沢のある鮮やかな白と緑の、純一の体付きをクッキリと浮かび上がらせているスーツは今や完全に砂埃と煤で汚れ、全体的に茶色く、ところどころに真っ黒な焦げ目を作り出していた。しかも、その焦げ目部分の生地は破れ、しゅうしゅうと言う煙と共にマスクと同じように回路が姿を現していたのだ。
そして、脱落したマスクから現れた純一の顔は煤汚れ、ところどころで出血と鬱血をしていた。
「…う…あ…!」
やがて、純一は小さく呻くように声を上げると、その場にゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「…ククク…!!」
そんな純一に対峙するかのように佇む一人の男・矢野鉄也。
ブラックバイソンの、光沢のある鮮やかな白と黒の、鉄也の体付きをクッキリと浮かび上がらせている。喧嘩っ早く、また、ボクシングをしていた鉄也。それゆえ、体中の筋肉がわりとしっかりと付いており、純一と比べると相当な差があった。
「…て、…て…っ…ちゃ…ん…」
朦朧とする意識の中で、純一は鉄也を見上げる。
「…もう終わりか…?」
そう言いながら、鉄也はゆっくりと歩いて来ると、ゆっくりと純一の目の前にしゃがみ込んだ。
「…て…っちゃ…ん…!!」
ぽろぽろと涙を零しながら、ブルブルと震える右腕を差し出そうとしたその時だった。
「…ッ!?」
その時、純一の視界に飛び込んで来たもの。しゃがみ込んだ鉄也のがっしりとした2本の太腿。その奥に息づく、鉄也の男としての象徴であるペニス。それが今、光沢のある鮮やかな白色のスーツの中でクッキリとその姿を現していた。
「…て…っちゃん…!!」
あの頃、何度も見た鉄也のペニス。それが今では、あの時の記憶からは想像出来ないほどに大きく勃起し、太く、また長く真っ直ぐに臍へ向かって伸び、鉄也の腰に巻かれているベルトをも押し上げていた。
その先端部分は大きく剥け、ビクンビクンと大きく脈打っている。そして、そこが光沢を失い、赤黒いそれがちらちらと見え隠れしているのが分かった。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
呆然とし、体が動かない純一。そんな純一を見下ろした鉄也は、
「…フッ!」
と笑うと、乱暴に純一の胸倉を掴んだ。
「…て…ッ、…て…っちゃ…ん…!!」
純一のグリーンサイのスーツの胸の部分の生地がくしゃくしゃになっている。
その時、鉄也が純一を掴んだまま、ゆっくりと立ち上がった。それに釣られるかのように、純一はズルズルと引き摺られながら、無理矢理立たされる格好になった。
「…て…、…っちゃ…!?」
純一の言葉が詰まる。その目が恐怖に怯えていた。
「…純一ぃ…!」
鉄也の瞳。ブラックバイソンのバイザー越しに見える鉄也はいつもの鉄也ではなかった。
いつもの優しい鉄也の瞳ではなく、今はギラギラと不気味な輝きを放っていたのだ。そして、その下に見え隠れしている鉄也の口元も大きく歪んでいたのを、純一は見逃さなかった。
「…てっちゃん…!!…どうして…ッ!?」
体だけではなく、声をも震わせながら純一が鉄也に尋ねる。すると鉄也は、やや怪訝な表情を浮かべて、
「…どうして…?」
と言ったものの、すぐにニヤリとし、
「お前をヤルためさ!」
と言い放った。
「…わ、…訳分かんないよッ、てっちゃあんッ!!」
そう叫んだ純一が、純一の胸倉を掴んでいる鉄也の右腕をその両腕でしっかりと掴んだ。
「…お願いだよ、…てっちゃん…!…いつもの、…いつもの優しいてっちゃんに戻ってくれよおおおおッッッッ!!!!」
やや甲高い、未だに少年のあどけなさを残す純一の悲痛な声が辺りに響き渡る。
その時だった。
「…純…一…」
不意に鉄也の純一を掴んでいた腕の力がフッと弱まったのが分かった。
「…てっちゃん…」
心の奥底までは操られてなんかいない、純一はその時、そう思っていた。
だが、この淡い期待は瞬時にして裏切られることとなった。
「…なんて、俺が元に戻るとでも思ったか?」
「…え?」
その時、純一は自分の体がふわりと浮いたような感覚を覚えた。
「…て…っちゃ…」
鉄也との距離が少しずつ開いて行く。純一の体が宙を舞っているのではなく、純一の体を鉄也が突き飛ばしたのだった。
その時、離れて行く鉄也の胸元で眩しい光弾が輝いたのが分かった。そして、次の瞬間、
パアアアアンンンンッッッッ!!!!
と言う軽快な音を立てたと思ったら、純一の腕に激痛が走った。
「…え?」
何が起こったのか、分からなかった。
その瞬間、
パアアアアンンンンッッッッ!!!!パアアアアンンンンッッッッ!!!!スパパパッッッッ!!!!
と、後から後からその光弾が純一の体にぶち当たり、軽快な音を立てながらスパークして行く。
「…て…っちゃん…!?」
「…ククク…!!」
鉄也がライブラスターを抜き、その銃口の照準を純一に合わせていたのである。
「…止めてよ…!!…てっちゃん…!!」
再び、ぽろぽろと涙を零す純一。だが鉄也は、
「心配すんなよ、純一ぃ。別にお前を殺したりはしないさ!」
と言いながら、ライブラスターの引き金を引き続ける。
パアアアアンンンンッッッッ!!!!パアアアアンンンンッッッッ!!!!
何度も何度も撃ち付けられる光弾。
「うぐッ!?」
「ああッ!!」
「ああああッッッッ!!!!」
やがて、その弾丸に弾かれるように、純一の体がビクン、ビクンと跳ね上がる。そして、
ズガアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う激しい衝撃音が聞こえた時、純一の体は遠くに吹き飛んでいた。
「…ククク…!!」
鉄也は相変わらずニタニタと笑い続けている。
「…お前を殺したりはしないさ…!」
意識を失い、地面に倒れ伏している純一につかつかと近付くと、鉄也は純一を肩に背負うようにして担ぎ上げた。
「…豪様の命令だからな…!」