歪んだ友情W 第2話

 

 アカデミア島。その青々とした海。そこに突き出た岬・希望岬。そこから約1マイルほど離れたところに、大きな要塞が浮かんでいた。

 グラントータス。亀のようなずんぐりとした形をしているそこは今、まるで主を失ったもののように静かに佇み、無気力に波がぶつかって来るのを受け止めていた。

 その中の1室。団欒室のように大きな広間に、2人の男女が佇んでいた。

「…」

 ピッ、ピッ、と言う無気力な音を立てるモニターの方に向いてはいるものの、それを見ようとせず、ただ、虚ろな眼差しで涙をはらはらと流す女性。ブルードルフィン・岬めぐみ。

 めぐみから少し離れたところでは、1人の男性が時折、どんどんと激しくテーブルを殴り付けながら、無念と悔しさの表情を浮かべ、唇をグッと噛み締めていた。レッドファルコン・天宮勇介。

「…もう、…終わりね…」

 めぐみが呟くように言う。

「…丈も…、…鉄也も、…純一も…。…みんなボルトに捕まってしまった。…ううん、捕まったんじゃなくて、…洗脳されてしまったのよね…」

「言うなッ、めぐみッ!!

 めぐみの言葉に過敏に反応するかのように、勇介が怒鳴り付ける。だがめぐみも、

「だってそうでしょッ!?武装頭脳集団ボルトは恐ろしい集団だわ!私達は今まで、5人だったから頑張って来れた!5人の力を合わせたから、ボルトに打ち勝つことが出来たのよ!?でも、今は私と勇介だけ!私達2人でどうやって戦うって言うのよッ!?どうやってあの恐ろしい集団に打ち勝つことが出来るのよッ!?

 と負けじと言う。すると勇介は、

「だが、それでも俺達はやらなければならないんだッ!!

 と言い、めぐみの両肩を掴んだ。

「例え、丈と鉄也、純一がいなくなったとしても、例え、あいつらの命を奪うことになったとしてもだ!!俺達がこの世界を守らなかったら、誰がこの世界を守ると言うんだッ!?

 じっとめぐみを見つめる勇介。そんなめぐみの大きな瞳から溢れる涙。その大粒の涙は、げっそりとやつれためぐみの頬を伝う。勇介はニッコリと微笑むと、

「…めぐみ。…お前は頭がいいからな…」

 と言った。

「…何を、…言って…?」

 唐突に言われ、めぐみは言葉を失う。

「俺と丈は常に最下位争いをしていた。言ってしまえば、お前とは正反対な人間だ。だから、直情的に動く。思った通りに、何でも。だが、めぐみは頭がいいから、何でもいろいろ慎重に考えてしまうんだろうな。だから、そうやって悲観的にもなってしまう」

「…勇介…?」

 勇介の言うことがあまり理解出来ていないのか、めぐみはきょとんとした表情で勇介を見つめている。そんなめぐみの頭を、勇介はくしゃくしゃと撫でた。そして、

「さぁて!じゃあ、あいつらをお迎えに行きますかぁッ!!めぐみッ、行くぞッ!!

 と言うと、その部屋を飛び出した。

 

「…ッ!?勇介ッ!?

 外へ出て間もなくして、めぐみが勇介の腕を引っ張った。

「…ああ…」

 勇介も目の前の光景に気付いていたのだろう。厳しい表情をしてそこをじっと見つめる。

「…う…、…うう…ッ…!!

 2人の前から、1人の男がヨロヨロと歩いて来る。そんな彼の横には、同じようにヨロヨロと歩き、肩を担がれている女性がいた。

「…ケンプ…。…マゼンダ…!?

 かつての同級生であり、そして、殺戮の限りを尽くしてボルトへ渡ったドクター・ケンプとドクター・マゼンダが目の前から歩いて来る。だが、どう見てもおかしいことに、勇介とめぐみは気付いていた。その時だった。

「…ああッ!!

 不意にケンプが足をもつれさせて転んだ。

「…ッ!!

 と同時に、肩を担がれていたマゼンダもそれに合わせるかのようにして、無言のまま、倒れ込む。

「ケンプッ!!

「マゼンダッ!!

 勇介とめぐみが2人に駆け寄る。すると、ケンプと呼ばれた男はちらりと勇介を見ると、

「…フッ!」

 と自虐的に笑い、

「無様だろう?」

 と言った。彼の身を包んでいる青緑色の洋服はあちこちが破れ、彼の最も大切とする美しい顔にも傷があった。

「ビアス様に捨てられた途端、このざまだ…!」

「捨てられた?」

 勇介が思わず聞き返す。すると、今度はマゼンダが、

「私達はビアス様に見限られたのよ…!」

 と言った。マゼンダの深紅の洋服にもあちこちに裂け目があり、その顔にも傷があった。

「どう言うこと?」

 めぐみが聞き返すと、マゼンダは、

「豪が丈と鉄也、純一を洗脳し、自分の四天王としたからよ…!」

 と言った。

「…四天王って…、…人数が合わないじゃないか…?」

 勇介がそう言うと、ケンプは再びフンと笑い、

「貴様はやはりバカだな!」

 と言った。

「どう言う意味だッ!?

 勇介がムッとして問い掛けると、

「丈が2人いたのさ!」

 とケンプが言った。

「…は?」

 理解出来ず、思わずケンプに聞き返すと、ケンプは、

「豪が丈の精液を使って、頭脳獣ジョウヅノーを作り出したのさ!ジョウヅノーは丈そのものだ。見た目も、性格も、仕草も全てな!つまり、中身が全て同じだから、お前達の基地に入るためのセキュリティにも引っ掛からないってことだ!そして、本物の丈が最初にいなくなって以来、常にお前達の傍にいた丈は全てジョウヅノーだったってことさ!」

 と言い放った。

「…何…だって…!?

 勇介が言葉を失う。めぐみも信じられないと言う表情でケンプを見つめていた。

「…うう…ッ!!

 その時、マゼンダが口元を押さえ、呻き始めた。

「どうしたのッ、マゼンダッ!?

 めぐみがマゼンダの体に手を掛ける。するとマゼンダは、

「…汚らわしい…!…ジョウヅノーを作るため、丈の精液を採取する時の丈と豪は、まるで恋人のような関係だった。…お互いにお互いの体を重ね、お互いの性器を貪り合い…。…騙された丈も丈だ!…何故、豪が巧妙に仕組んだ罠だと気付かない…ッ!?

 と、ワナワナと体を震わせた。するとめぐみが、

「…それが、…2人の間柄だからよ…」

 と言った。

「優等生の豪と、落ちこぼれの丈。でも、豪はどこか弱くて、どこか守ってあげなきゃいけない、そう思わせる子だった。丈は丈で、豪に勉強を教えてもらったり、一緒に生活して行く中で、豪のことを親友に思い始めていた。豪のことは、自分が守りたいっていつも言っていたもの。お互いのない部分を尊敬し合い、お互いに絆を作り上げて行った。…でも…、…その関係が、どこかでおかしな方向へ進んでしまった…」

「なぁ、ケンプ、マゼンダ。…いや、月形にルイ」

 勇介が不意に2人を、しかも、本来の名前で呼んだ。

「…な…ッ!?

「…勇介…?」

 最初はムッとしていたケンプとマゼンダも、勇介の顔を見て言葉を失った。

 勇介はニッコリと、優しい笑みを浮かべていたのだ。

「…一緒に、…戦わないか…?」

 

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