歪んだ友情W 第3話
「…一緒に、…戦わないか…?」
勇介が発した言葉の後、しばしの沈黙が4人を包み込んだ。だが、その沈黙を最初に破ったのはドクター・ケンプこと、月形剣史だった。
「…な…な…な…!!」
俄かに顔を真っ赤にしたかと思うと勢いで立ち上がり、
「何を言っているッ!?」
と言ったかと思うと、
「…ッ!?…ぐう…ッ!!」
と、しかめっ面をしてその場に蹲った。
「剣史ッ!!」
勇介が剣史の体に触れようとしたその時、剣史が勇介の胸倉を掴んだ。
「勇介ッ!?」
その光景にめぐみが思わず声を上げる。
「…何を…、…言うのかと思えば…!!」
顔を真っ赤にし、ブルブルと震える体で目を血走らせ、剣史が勇介に向かって言った。だが、勇介は驚くこともなく、ただ静かに剣史の為すことを受け入れている。
「…オレは…ッ!!…貴様らと共闘する理由など、ないッ!!…それに、…オレは…ッ!!…ドクター・ケンプだッ!!…武装頭脳集団ボルトの中で最強の、天才的頭脳を持つ男なのだッ!!」
「…フッ!」
その時、勇介が不意に笑った。
「…なぁにがおかしいッ!?」
剣史が怒鳴る。その時、勇介の右手がスッと動き、剣史を指した。
「…その傷…、…ビアスにやられたんだろう…?」
「…ッ!!」
剣史がはっとなったように黙り込む。すると勇介は、
「…やっぱり、そうか…。…お前達は利用されていたに過ぎないんだな…」
と言った。
「…所詮、…ビアスにとってお前達は手駒としか考えられていなかったんだ。最初はお前とルイ、豪がビアスのもとへ招かれた。鉄也の兄の卓二と、純一の姉の麻理を殺してな…!」
静かに語りかけるように言う勇介。だが、その言葉の端々には怒りにも似た感情が溢れているのが分かった。
「…だが今は、豪が丈や鉄也、純一を洗脳したことによってビアスに気に入られ、俺達に大きなダメージを与えることすら出来なかったお前達はビアスに見限られ、不要の存在としてその存在自体を消そうとされた。その証拠が、ここにはいない毒島だ…!」
勇介の拳が握られ、ブルブルと震えている。
「…ドクター・アシュラは…」
その時、ドクター・マゼンダこと仙田ルイが話し始めた。
「…ビアス様…?…今、…何と…?」
ゴウウウン、ゴウウウンと言う唸り音を上げながら、宇宙空間を漂うヅノーベース。その大きな広間の中央で、ドクター・ケンプとドクター・マゼンダ、そして、ドクター・アシュラが呆然と佇んでいた。
「…聞こえなかったのか…?」
一段段差になったところには大教授ビアスが静かに佇み、侮蔑の眼差しで3人を見下ろしていた。そして、そんなビアスの横にはドクター・オブラーこと尾村豪が勝ち誇った笑みを浮かべ、目をギラギラと輝かせて立っていた。
「…お前達はもう用済みだ、と言ったのだ…」
「な、何故でございますかッ、ビアス様ッ!?」
顔を真っ青にしたケンプがビアスを見上げる。その横でマゼンダは呆然としたまま、微動だにしない。
「貴様らは私の願いを全く叶えようとしない。エリートがこの世を支配するのは当然だ。そのために私はお前達を呼んだ。…だが、…実際はどうだ…?」
そう言うとビアスは豪のもとへ静かに歩み寄り、
「お前達3人分の、いや、それ以上の働きをドクター・オブラーは果たしたのだぞ?…宿敵ライブマンの力を半減、いや、4分の1にも5分の1にもしたのだ。何も出来ない貴様達より、よほど良い働きをしたではないか…?」
と言った。
「…ビアス様…」
目をキラキラと輝かせて、嬉しそうに言う豪。
「…私は、…ドクター・オブラーを私の後継者としようと思う…」
「んなッ!?」
その時、それまで呆然としていたアシュラが我に返り、ようやく声を上げた。
「…たッ、…確かに、そいつはライブマンのうちの3人を洗脳した。…それはそれで認める。…だけどよぉッ、オレらのことを何も出来ない呼ばわりはどうかと思うんだがね…!」
「アシュラッ!!止めなさいッ!!」
ビアスの眉がピクリと動いたのが分かったマゼンダが悲鳴に近い声を上げた。
「あぁん?」
その時、アシュラがビアスから気を逸らした。その瞬間だった。
ドシュッ!!
鈍い音が聞こえ、アシュラの体がビクンと跳ね、その場に硬直した。
「…あ…、…ご…!!」
目を大きく見開き、小刻みに体を震わせている。その胸には、1本の鋭い刃のようなものが突き刺さっていた。
「…ッ!?」
その光景に、マゼンダは言葉を失い、
「…あ…あ…あ…あ…!!」
と、ケンプは声にならない声を上げている。
「…ビ…ア…ス…!!…てんめ…え…ッ!!」
アシュラが辛うじて声を上げる。するとビアスはフンと鼻で笑うと、
「…私の用済みと言う言葉は、…用のないものはこの世から完全に消す、…と言う意味だ…!」
と言ったかと思うと、目をカッと見開いた。その瞬間、
バリバリバリバリッッッッ!!!!
と言う激しい電撃が、アシュラの体から発せられた。
「ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
その電撃の中でもがき苦しむアシュラ。そして、
「…おッ、…おんのれええええッッッッ!!!!ビアスううううううううッッッッッッッッ!!!!!!!!ひがああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と言う断末魔の悲鳴がそこに広がったその瞬間、
ドオオオオオオオオンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う大きな爆発音と共に、アシュラの体が爆散したのだった。
「…ひぃ…ッ!!」
マゼンダが悲鳴を上げる。
「…さぁ、…次はどっちかな…?」
ビアスが冷ややかな視線をマゼンダとケンプに投げ掛けた。
「…あぁ…、…あぁぁ…!!」
ケンプは腰を抜かし、マゼンダは目にいっぱい涙を浮かべている。そして、
「…ううッ!!…うぅわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と言う絶叫を上げ、ケンプとマゼンダは逃げ出した。
「ジンマーッ!!ヤツらを消せッ!!」
ビアスがそう言うと、大量の機械生命体・ジンマーがケンプとマゼンダの後を追うように走り出した。
「…酷い…!」
めぐみが目に涙を溜めて呟くように言う。
「…ビアス…!…命を何だと思ってるんだ…ッ!?」
勇介の拳がギリギリと音を立てて握られた。
「おいッ、剣史ッ!!」
その時、勇介は剣史の肩をしっかりと掴んだ。
「今は敵味方は関係ないッ!!お前も1人の人間なら、生きたいと思うのが当然じゃないのかッ!?だったらどうするッ!?命を狙われているのなら、自分で立ち向かって行くしかないだろうッ!?お前には、俺を震え上がらせた能力があるだろうッ!?」
「…勇…介…?」
すると、めぐみがルイの手を取り、剣史の手に重ねた。そして、勇介の手も一緒に添え、
「みんなで一緒に頑張りましょ!このアカデミア島で一緒に過ごした、あの頃のように…」
と言った。その顔はキラキラと眩しいほどの笑顔をたたえている。
「…めぐみ…」
ルイの目が潤んだ。その時だった。
「悪いけど、その願いは僕達が消させてもらうよ!」
その瞬間、勇介、めぐみ、剣史、ルイははっとなってその声のした方を見た。
「…ククク…!!」
そこにはドクター・オブラーこと尾村豪と、イエローライオンこと大原丈、彼のコピー体であるジョウヅノー、ブラックバイソンこと矢野鉄也、そして、グリーンサイこと相川純一が立っていたのだった。