歪んだ友情W 第6話
真紅のドレスを引き裂き、そこにあった真っ赤なスイッチを押したマゼンダ。
ピッ、ピッ…。
乾いた高い音が一定のリズムを刻み、辺りに響き渡る。
「…あ…ッ!!…ぐ…う…うう…ッ!!」
その時、マゼンダの顔が苦痛に歪み始め、頭を押さえて呻き始めた。同時に、マゼンダの頭部、全身を機械化した彼女の唯一、残された人間の部分である頭部が光を帯び始めたのだ。
「…マッ、…マゼ…ン…ダ…!?」
その姿には、それまでライバルとして競い合い、勇介達ライブマンを苦しめて来たケンプでさえも、恐怖に声を震わせた。
「…あ…、…あああ…ッッッッ!!!!」
そのうち、マゼンダのパーマがかった髪の毛がボロボロと抜け落ち始め、暖色を帯びた皮膚がみるみるうちに銀色の冷たい金属に覆われて行く。
「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
そして、彼女が絶叫した瞬間、彼女の頭部を覆っていた光が一層強く輝いた。
「…い、…嫌ああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!ルイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ブルードルフィンのマスクをかぶったままのめぐみがマゼンダの人間の時の名前を呼び、金切り声を上げる。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
勇介は目の前の光景を目の当たりにし、絶句して何も言うことが出来ない。
「…」
勇介達の方を振り返ったマゼンダ。それまでの美貌を持ち合わせていた彼女の面影はどこにもなく、冷たい機械や回路が剥き出しになった、ロボマゼンダの姿がそこにはあった。
「…これが、…私の究極の姿…。…そして、…最期の姿…!…私はいつでも完全なメカになれるようにしておいたのだ…!」
真っ赤な左目が勇介、めぐみ、そしてケンプを無機質にじっと見つめている。
「…どうして…!?」
めぐみが涙をポロポロと零しながら、声を震わせて言う。
「…神様から頂いた大切な命を、…あなたはどうしてそこまで出来るの…ッ!?」
「それが真の天才だからよッ!!」
めぐみの言葉を遮るようにマゼンダが声を荒げる。
「大教授ビアス様の片腕となるべく、懸命に勉強して知識を詰め込み、ビアス様の下で必死に努力した!でも、あんな落ちこぼれに先を越された!!それだけじゃない!!落ちこぼれの烙印を押された私達はビアス様に今、まさに殺されようとしている!!しかも、ビアス様の片腕になったあの落ちこぼれにッ!!」
そう言いながらマゼンダは、やや離れたところでニタニタと不気味に笑っている豪を指さした。
「…それだけは…、…それだけは耐え切れないッ!!…あんな落ちこぼれに倒されるくらいなら…ッ!!」
そう言うとマゼンダは、
「うわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と叫びながら、豪が作り出した真っ黒に渦巻くひずみへ突進して行く。
「止めろオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!マゼンダアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!」
勇介が叫ぶ。ケンプは呆然とそれを見つめるだけだ。
「…フン!」
その光景を見ていた豪は一切慌てることはなく、ニヤニヤと見つめたまま、
「…愚かなことを…」
と言ったかと思うと、
「さあッ、オブラーホールッ!!愚かなマゼンダを飲み込めッ!!」
と、前方へ突き出している手のひらを少しずつ握り始めた。
「…オブラー…ホール…だと…!?」
勇介が声を上げる。その時だった。
「ああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
マゼンダが悲鳴に近い声を上げた。
「マゼンダアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ケンプが目を大きく見開いて目の前の光景を見つめている。さっきまで大きく口を開けていた真っ黒に渦巻くひずみにマゼンダが飛び込んだ途端、その口を閉じるかのようにゆっくりと萎縮し始めたのだ。
「やッ、止めろオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!豪オオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
勇介が傷だらけの体で飛び出して行く。と、そこに丈が立ちはだかった。
「退けええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!丈オオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
レッドファルコンの真っ赤なグローブに包まれた右拳を突き出す勇介。
ガシッ!!
その右拳を、イエローライオンの鮮やかな黄色のグローブに包まれた丈の左手が掴むと、グイッと引っ張った。
「うおッ!?」
それに釣られるようにして前のめりになる勇介。その視界に、丈の右手が見えた。そして、次の瞬間、
ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う鈍い音と同時に、その黄色の右拳が勇介の腹部、光沢を失い、土埃で茶色く変色している赤と白であしらわれたそこへ減り込んでいた。
「…ぐふ…ッ!?」
目を見開き、口を半開きにする勇介。
「…おいおい、勇介ェ…!」
丈はギラギラと光る目をしながら、勇介の体を引っ張り上げる。そして、背後で羽交い絞めするようにしたのだ。
「…はッ、…離せッ、馬鹿野郎オオオオッッッッ!!!!」
「まあまあ。ゆっくりと見届けようぜ…!」
丈はそう言うと、前方のマゼンダを見やる。
「…マゼンダの、…最期をよ…!」
「…ぐ…ッ、…うううう…ッッッッ!!!!」
マゼンダを取り込んだ真っ黒なひずみの入口が徐々に狭まって行く。
「逃げてええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!ルイイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!」
めぐみが絶叫する。
その時だった。
「…こッ、…こんなところで…ッ!!…アンタ達を死なせるわけには行かないのよッ!!」
「…ッ!?」
その言葉に、めぐみがはっとなって見つめる。
「…ルイ…?」
冷たい機械の彼女の顔。決して変わることがないと思われていた彼女の顔が、静かに微笑んでいるかのように見えた。
「…今頃になって気付いた…」
マゼンダが言う。
「…海…、…空…。…こんなにきれいなものだとは、…知らなかった…。…愚かなことだ…」
その時、マゼンダの体が輝き始めた。
「…なッ、何イイイイッッッッ!!??」
そしてそれは、遠くでひずみの渦を操っていた豪に変化をもたらしていた。
「…ぼッ、…僕のッ!!…オブラーホールが…ッ!?」
前方へ突き出している豪の右手がブルブルと震えている。
「…フフ…」
眩く輝くマゼンダの体。その彼女が少しだけ笑ったように思えた。
「…もう、…元には戻れない…。…もう…二度と…!!」
ヒィィィィンンンン…!!
その音と共に、マゼンダの体が一層、激しく輝き始めた。
「「「マゼンダアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!」」」
勇介、めぐみ、ケンプが絶叫する。
「…サヨ…ウ…ナ…ラ…!!」
次の瞬間、目を開けていられないほどの眩しい光が辺りを包み込んでいた。
「ひぎゃああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
同時に、豪の絶叫が辺りに響き渡った。
そして。
光が消えた時、そこにはあの真っ黒に渦巻くひずみも、マゼンダの姿もなかった。