歪んだ友情W 第7話
真っ青な空と波打つ広大な青い海は相変わらず、その自然の美しさを静かに湛えていた。例え、目の前で悲劇が起こっていようとも――。
「…いや…!」
ブルードルフィン・岬めぐみのイルカをあしらったマスクが消え、中から目を真っ赤にして泣き腫らしているめぐみの顔が現れた。
「いぃやああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
次の瞬間、めぐみの絶叫が辺り一面に響き渡った。
「嫌ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!嫌ああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!ルイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「…こッ、…こんなところで…ッ!!…アンタ達を死なせるわけには行かないのよッ!!」
全身をサイボーク化し、脳までもをメカにした究極の姿となったロボマゼンダ・仙田ルイが最期に言った言葉。
「…海…、…空…。…こんなにきれいなものだとは、…知らなかった…。…愚かなことだ…」
ドクターオブラー・尾村豪が作り出した真っ黒に渦巻くひずみの中で、マゼンダはその全てのエネルギーを放出し、そのひずみと共に消えて行ったのだ。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
恐獣ケンプと化した月形剣史は呆然とその光景を見やり、
「…マ…ゼ…ンダ…」
と呟くように言った。
「…何て…、…ことを…ッ!!」
イエローライオン・大原丈に羽交い絞めにされているレッドファルコン・天宮勇介の真っ赤なグローブに包まれた拳が、ギリギリと物凄い音を立てた。そして、次の瞬間、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と、顔を真っ赤にして絶叫したかと思うと、
「うわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と、丈が悲鳴を上げ、その体が宙を舞っていた。
「丈さんッ!?」
ブラックバイソン・矢野鉄也が慌てて丈に駆け寄る。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
前方を見ていたグリーンサイ・相川純一が怯えた声を上げる。
「…貴様ら…!!」
ゆらりと立ち上がった勇介。その顔面には血の雫が零れ、真っ赤になった目からは涙がポロポロと零れ落ちている。
「…よくも…、…よくも…マゼンダ…、…ルイ…を…!!」
と、その時だった。
「…クックック…!!」
丈、鉄也、純一の傍で蹲っていた豪が低く笑い始めた。そして、
「…ク…ッ、…ヒャーッハッハッハッハ…!!」
と、甲高い下衆な笑い声を上げ始めたのだ。
「丈様ッ!?」
丈と同じイエローライオンの姿のジョウヅノーが、狂ったように笑い始める豪の体を抱き締めるようにする。
「い、今すぐに手当てを…!!」
「うるさいッ!!」
次の瞬間、豪はジョウヅノーを突き飛ばしていた。
「…ごッ、…豪ッ!?…お前…ッ!?」
その時になって、勇介は豪の体に異変が起きていることに気付いた。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
豪の右手。真っ黒に渦巻くひずみを作り出したそれがぐにゃりと折れ曲がり、血だらけになっていたのだ。
「…正直、…マゼンダの力を侮ったよ…!!…でも…!!」
その時、豪は目をカッと見開き、不気味に光らせた。
「…アイツは僕のことを侮辱した挙句、僕のひずみを破壊して消え去った…!!…ク…ッ、…アヒャッ!!ヒャーッハッハッハッハ…!!」
狂ったように再び笑い始める豪。
「ザマアミロだッ!!僕が作り出したひずみは消すことが出来ても、僕は消すことが出来なかったんだあッ!!ヒャーッハハハハ…ッ!!」
「黙れええええッッッッ、豪オオオオッッッッ!!!!」
勇介が絶叫する。
「…そこまで墜ちたか、…豪…?」
その手にはファルコンセイバーが握られている。
「…昔のお前は虫一匹すら殺せなかった、心優しいヤツのはずだった。…剣史やルイがビアスに傾倒し、その狂気でこの地球を支配しようとした。だが、その中にも甘えがあった。いや、人間としての心が残っていた」
「…」
その言葉を聞きながら、恐獣ケンプは呆然としている。
「…勇介…」
めぐみははらはらと涙を零しながら、目の前の光景を見つめ続けている。
「…だが、…お前はどうだ…?」
「…な、…何だよ、…その目は…!?」
憐れみのような、同情のような、そんな瞳で豪を見つめている勇介。
「…いつの間に、…ビアスのようになったんだ?…人を殺して、…丈や鉄也、純一を支配して、何が楽しいんだ?」
「…うるさい…!!」
豪の顔は真っ赤になり、ブルブルと震えている。
「…もう、止めろ、豪…!!」
そう言いながら、勇介は豪に近付いて行く。
「…来るな…!!」
今度は、豪が後ずさり始めた。丈、鉄也、純一は呆然とその光景を見つめている。
「…来るな…!!…く、…来るなああああッッッッ!!!!」
「いい加減、目を覚ませッ、豪オオオオッッッッ!!!!」
勇介の怒鳴り声が辺り一面に響き渡った。
「いい加減にするのは、てめえだアアアアッッッッ!!!!勇介エエエエッッッッ!!!!」
勇介の真横からジョウヅノーが飛び掛って来る。
「…ッ!?」
勇介はそれをゴロゴロと転がりながら避ける。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
完全に震え上がっている豪。だが、ジョウヅノーはそんな豪の両肩を掴むと、
「しっかりしろッ、豪ッ!!お前は天才なんだッ!!あそこにいるケンプや、消えたマゼンダよりもッ!!お前はッ、ビアス様の片腕なんだぞッ!!」
と言った。
「…ッ!?」
その言葉に、ビクリとなる豪。
「…ご、…豪…ッ!!」
その時、勇介もめぐみも、そして、ケンプもその場の空気が変わったのが分かった。
「…クッ、…クックック…!!」
その時、俯いていた豪が再び笑い始めたのだった。