歪んだ友情W 第11話
「…う…ん…」
眩しい光が差し込んで来た。勇介はその光に目をしょぼしょぼとさせていたが、
「…ここは…どこだ…?」
と言った途端、自分の置かれている状況に一気に覚醒した。
「んなッ、何だッ、これッ!?」
ぐるりと自分の体を見回す。まず、目に飛び込んで来たのは自身の手首と足首が、太く真っ黒な鉄の塊によって拘束されていたことだった。それから、勇介自身は未だにレッドファルコンに変身したままで、そのスーツはあちこちが焦げ、回路が剥き出しになったままだった。そして、大きな鉄の台の上に、まさに大の字に横たえられていることも分かった。
「…ん…ッ、…んん…ッ!!」
懸命に手首と足首を動かすが、それらを拘束している鉄の塊はびくともしない。
その時だった。
「目が覚めたようだね」
若々しい、若干、高めの声が聞こえ、勇介ははっとなってその方向を振り向く。
「…純一…。…丈…、…鉄也…ッ!!」
そこには、イエローライオンに変身した丈とジョウヅノー、ブラックバイソンに変身した鉄也、グリーンサイに変身した純一が目をギラギラさせ、勇介を嘲笑うかのようにニヤニヤと笑みを浮かべて立っていた。声を上げたのは純一だった。
「…お前ら…、…完全に豪の下僕となったのか…!?…多くの人がボルトに殺された。鉄也ッ、純一ッ!!お前らの兄さんと姉さん、…卓二や麻理がボルトに殺されたのを忘れたのかッ!!」
すると、丈が苦笑し、
「やれやれ。相変わらず暑苦しいねぇ、勇介は…!」
と言うと勇介が拘束されている台に近付き、黄色のブーツに包まれた右足を上げたかと思うと、勇介の腹部目がけていきなり振り下ろしたのだ。
ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う鈍い音が聞こえたその時、
「…ぐふ…ッ!?」
と、勇介は目を大きく見開き、体を少しだけV字に折り曲げた。
「…オレ達は自分達の意思で豪に従っているだけだ。豪の下僕になったとか、変なこと言うなよなッ!!」
「…ぐ…、…おお…ッ!!」
腹に力を入れて、丈の右足が減り込むのを何とかして防ぐ勇介。
「…じょ…お…おおおお…ッッッッ!!!!」
「べっつにぃ〜?アニキが殺されたのは、もう過去のことだし?」
その言葉が聞こえた時、勇介は自分が丈達から突き離されたような、絶望のような感覚を味わっていた。
「…て、…鉄也…。…お前、…本気でそれを言っているのか?…豪に、…操られているからだろ?」
絶望のような感覚を味わいながら、それでも一縷の望みに賭ける勇介。だが、それは程なくして、絶望の確信へと変わった。
「僕も姉ちゃんが殺されたこと、もう何とも思ってないよ。それに勇介さん、よく言ってたろ?前を向け、って!」
「…鉄也…、…純一…!」
悲しみと怒りが同時に湧き起こる。拘束されている手を握り締め、ブルブルと震わせた。だが、自身を拘束している鉄の塊はびくともしない。まるで、丈と鉄也、純一のどす黒い感情に支配された心がどっしりと両手両足に伸し掛かっているようにも思えた。
「残念だったな、勇介!」
ジョウヅノーがやって来ると、勇介に目線を合わせるかのように腰を落とした。
「豪様の力は完璧さ!何てったって、大教授ビアス様の後継者となられたのだから。…そして…」
その時、不意にジョウヅノーの右手が伸びたかと思うと、
「んあッ!?」
と突然、勇介が素っ頓狂な声を上げ、体をビクリと跳ねらせた。
「…どッ、…どこ触ってやがるッ!?」
ジョウヅノーの黄色いグローブで包まれた右手が、勇介のがっしりとした2本の足の付け根部分にふくよかな膨らみを形成している、勇介の男としての象徴であるペニスと、その下に息づく2つの球体を優しく包み込んでいたのである。
「…ククク…。…お前のここから溢れ出るエネルギーを使い、…頭脳獣をもう1体作り出すのさ!…それが、豪様の望みだからな!」
「…な…んだと…!?」
突然、屈辱的なことを言われ、困惑と怒りで顔が真っ赤になる。
「…だッ、誰がそんなことをさせるかッ!!」
そう言いながら、勇介は懸命に体を揺さぶる。だが、勇介を拘束している鉄の塊は一向に動くことがなく、勇介が寝かされている鉄の台だけがガタガタと音を立てていた。
「…ち、…ちっくしょおおおおッッッッ!!!!…はッ、…離せええええッッッッ!!!!」
その時だった。
「お、豪!」
丈が明るい声を上げる。いつの間にか、豪が帰って来ていた。
「…ど、…どうしたんだよ、豪…?」
顔を真っ青にし俯き、ブルブルと体を震わせている豪。
「…豪…」
勇介が声を上げると、豪はゆっくりと勇介の方を振り向いた。その怯えた表情が、妙に引っ掛かった。
「…ケンプは、…剣史はどうした…?」
すると豪は、
「…死んだよ…」
とぽつりと言った。すると、
「…プッ!!…ククク…、…アハッ!!…アーヒャッヒャッヒャッヒャ…!!」
と狂ったように笑い始めた。
「…ヤツは、…ケンプはビアス様に殺されたんだ!!」
「ど、どう言うことだッ!?」
勇介が怒鳴る。すると豪はフンと笑い、
「言った通りさ!ヤツは最後の最後でビアス様を裏切ったのさ!」
と言った。
「…裏…切った…?」
豪の言ったことが理解出来ず、勇介は思わず聞き返す。すると豪は、
「そうさ。僕がヤツに放った呪縛を無理矢理引き千切ろうとした。そこで僕がビアス様に助けを求めたのさ。そしたら、ビアス様はヅノーベースから怒りの鉄槌をヤツに下して下さったと言うわけさ!」
と、天井を見上げてウットリとした表情を浮かべた。まるで、宇宙空間にいるビアスを心底、心酔するかのような表情で。
「その時、ヤツは断末魔の声を上げた。『…オレや、…ライブマンが倒れたとしても…ッ!!…いつか必ず、…お前に報いが来るッ!!』ってね。それがビアス様の逆鱗に触れたってわけさ!」
「…悲しいな…」
勇介がポツリと零し、不思議そうな表情で見つめる豪。
「…ケンプは…、…剣史は最後の最後に人間に戻ったんだ。…ビアスに見限られ、殺されると分かった時、自分がやって来た愚かな行為に気付いた。そして、オレ達ライブマンがいなくなったとしても、きっと、正義の心を持ったヤツがビアスやお前の野望を打ち砕いてくれると信じて散って行ったんだ」
その目は真っ赤に充血し、豪を睨み付けていた。そして、
「…豪ッ!!ビアスッ!!…オレは絶対にッ!!…絶対に負けんッ!!負けるわけには行かないんだッ!!」
と大声で叫んだのだった。