どっちもどっち 第1話
「イメージチェンジいいいいッッッッ!!!?」
とある昼下がり。静かな住宅街に素っ頓狂な声が響いた。
住宅街の一角に、大きな敷地を持つ研究所のような建物があった。姿レーシング。数々のF1レースに出場し、その見事なまでのチームワークで様々な賞を受賞していた。そこには5人の若者と1人の中年男性が住んでいたのだが、彼らには秘密があった。姿レーシングチームの一員であると言うのは表の姿であり、彼らは地底帝国チューブの魔の手から地上を守る光戦隊マスクマンであった。F1マシーンのドライバーであるレッドマスク・タケル、メカニック担当のブラックマスク・ケンタ、お調子者の高校生のブルーマスク・アキラ、男勝りのイエローマスク・ハルカ、真面目で優しいピンクマスク・モモコ。そして、オーナーで5人の司令官である姿三十郎。
素っ頓狂な声を上げたのは、その中のブラックマスク・ケンタだった。
「…お、…お前が、…イメージ…チェンジ…!?」
21歳で体が比較的がっしりとした、三枚目顔なケンタが目を何度も瞬かせる。
「うんッ!!」
そんなケンタの目の前で鼻息荒く意気込んでいるのが、ブルーマスク・アキラ。アキラは16歳の高校生。学校へはここから通っていた。だが、マスクマンとなってからはゆっくりと学校にも行けない日々が続いていた。
「ねぇねぇッ、ケンタぁッ!!」
アキラがケンタの元へ駆け寄る。
「んなッ、何だよッ!?」
子犬のように飛び付いて来るアキラに対して、ケンタは思わず仰け反る。するとアキラはちょっとウットリした表情をして、
「タケルってさぁ、カッコいいよねぇ…!!」
と言ったのだ。
「…はぁ!?」
ケンタが変な声を上げるのも無理はない。23歳で、マスクマンのリーダーでもあるレッドマスク・タケルのことをアキラは「カッコいい」と言ったのだ。
「背は高いしさぁ、スラッとしてるしさぁ…!!戦っている時のタケルって、同じ男から見ても、惚れ惚れするよねッ!!」
「…は、…はぁ…」
どっぷりと自分の世界に浸っているアキラを見て、ケンタは曖昧に返事をするしか出来ないでいる。
「それにぃ、普段着のタケルも凄くおしゃれでさ!!何か、本当にカッコいいし!!」
その時、アキラがクルリとケンタに背を向けたかと思うと、右拳を握り、
「…僕も…、…タケルみたいに…。…あんなふうになりたいんだよねぇ…!!」
と言った。
「…プッ!!」
その途端、ケンタが火が点いたように大声で笑い始めた。いや、笑うと言うよりも、爆笑していると言った方がいいだろうか。
「…え?…ケ、…ケンタ…?」
当然のことながら、アキラは呆然とする。するとケンタは、
「…お、…お前が…ッ!!…面白いことを…、…言うから…、…だろうが…ッ!!」
と、顔を真っ赤にし、ヒーヒーと息を上がらせ、目からは涙を零している。
「ダッ、ダメだああああッッッッ!!!!…笑い死に…するウウウウッッッッ!!!!」
「なッ、何だよおッ!?どうしてそこまで笑うんだよおおおおッッッッ!!!!」
アキラが顔を真っ赤にしてケンタに問いかける。暫くするとケンタは荒い息をしながら、
「…お、…お前…。…鏡、見たこと、あるのか?」
と聞いて来た。そして笑いを必死に堪えながら、
「…その小っちぇえ身長で…、…子供っぽくて…、…その声で…!!…タケルみたいになりたい…だぁ…!?」
と言ったが、とうとう我慢し切れなくなったのか、再び大爆笑を始めた。
「ありえねええええッッッッ!!!!似合わなさすぎるぜええええッッッッ!!!!」
ケンタはそう叫びながら地面に引っ繰り返り、足をバタバタとさせている。
「ああッ、もうッ!!そこまで笑わなくたっていいだろうッ!?」
アキラがぷぅっと膨れっ面をする。だが、すぐにニヤリとすると、
「ケンタだって人のこと、言えないだろうッ!?」
と言った。
「…何だよ…?」
ピタリと笑うのを止めて起き上がったケンタが、フフンと笑い、仁王立ちしているアキラの顔をじっと見た。すると、アキラはケンタの顔に自身の顔を突き合わせ、
「ケンタなんか、女の子の前ではてんでダメなくせにッ!!」
と言い放った。
「…んなッ!?」
今度はケンタが顔を真っ赤にする番だった。するとアキラはニヤニヤしながら、
「…女の子には全く免疫がないしい、すぐに真っ赤になってさぁ、何も話せなくなってさあ!!…タケルよりも体が大きいくせに、ただ、大きいだけで何の役にも立ちやしない。それにぃ、僕、知ってるんだぜ!?」
と言った。
「?」
ケンタはきょとんとしている。するとアキラは、
「ケンタ、立ってよ!」
と言う。
「何だよ、アキラ?」
おもむろに立ち上がるケンタ。すると、アキラはケンタの股間をジーパン越しにいきなりギュッと握ったのである。
「ふあッ!?」
突然のことに変な声を上げ、腰をくの字に曲げるケンタ。そして、顔を真っ赤にして、
「…な…、…何…すんだよッ!?…アキラあ…ッ!!」
と言った。
「へっへーんだッ!!ケンタのここってすっげぇデッケェんだよな!!まるで焼き物のアソコみたいにブラブラしてて!!」
「…なッ!?…なッ!?」
ケンタは突然のことに顔を真っ赤にし、口をパクパクさせている。
「…でもさぁ、何の役にも立ってないんだよねぇ!!…せいぜい、自分の右手が恋人ってとこかぁ!!あ〜あ、ここがかわいそうッ!!」
「…お、…お…!!」
ケンタが体をブルブルと震わせた。次の瞬間、アキラを凄い勢いで締め上げたのだ。
「うわああああッッッッ!!!!くッ、苦しいよッ、ケンタああああッッッッ!!!!」
「るっせええええッッッッ!!!!お前に言われたくないねッ、ガキのくせにいいいいッッッッ!!!!」
「…うどの大木に…、…言われたくないよッ!!…僕はッ、僕はああああッッッッ!!!!」
ケンタの束縛から逃れようと懸命に体を動かすアキラ。だが、力の差は歴然で、どう頑張ってもケンタからは逃れられない。
「…絶対にッ!!諦めないもんねええええッッッッ!!!!」
アキラの甲高い叫び声が建物中に響き渡った。