どっちもどっち 第10話
「…え?」
どのくらい静まり返っていただろう。どのくらい経ったのか分からないほど、長い時間だったように思う。その沈黙を破ったのは、ブルーマスクにオーラチェンジしたアキラだった。
「…い、…今…、…何て…、…言った…!?」
アキラが呆然とした表情で、目の前にいるブラックマスクにオーラチェンジしているケンタに尋ねた。
「…だッ、…だから…ッ!!」
顔をピンク色にし、ケンタが視線をウロウロさせて呟くように言い始めた。
そんなケンタの顔。アキラの口に含ませた、自身のペニスから放った淫猥な液体を吐き出され、顔中に滴らせている。そして、図体に似合わないほど顔を真っ赤にしているため、顔が「ピンク色」になっているのだ。
「…だから…ッ!!…好き…、…なんだよ…!!」
「あん!?聞こえないよッ!!」
こちらも顔を真っ赤にさせて、イライラしながら言うアキラ。
「だからぁッ!!」
堪え切れなくなったのか、ケンタが座り込んだまま、アキラの腰に手を回し、アキラの下半身にがっしりとしがみ付いた。
「ちょッ、ちょっとッ!!ケ、ケンタあッ!?」
ケンタの顔の前にはアキラの股間。ケンタの愛撫で勃起し、絶頂へ導かれたそこは今はすっかり萎んでいるものの、ぐっしょりと濡れて異臭を放っていた。
「お前が本気で好きなんだよッ、アキラああああッッッッ!!!!」
そう言うとケンタは、アキラの股間に再び顔を擦り付け始めた。
「…あッ!?…ああッ!!」
ケンタの鼻やゴツゴツした顔がアキラの敏感なところを刺激し、そのたびにアキラが艶かしい声を上げる。
「…やッ、…ヤダッ!!…ケッ、…ケンタぁ…ッ!!」
ピクピクと体が小刻みに揺れる。アキラの股間のそれが少しずつ熱を帯び始めた。
「…アキラ…ッ!!…アキラぁ…ッ!!アキラああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
堪え切れなくなったケンタが、アキラの股間を口に入れようとしたその時だった。
「…いッ、…いい加減にぃッ!!」
アキラの右腕が物凄い勢いで振り上がったかと思った瞬間、
「しろオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
とその右腕を、アキラに組み付いているケンタの脳天へ振り下ろしたのだ。次の瞬間、
ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う鈍い音が響いたかと思った瞬間、
「うごッ!?」
と言うケンタの声。そして、
「ぐうおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と、アキラの体から弾かれるように仰け反り、断末魔の悲鳴を上げるかのごとく大声を上げ、頭を抱えてゴロゴロとベッドの上に転がった。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
ケンタの束縛から抜け出し、ぴょんとベッドの上から飛び降りたアキラは、荒い息をしてケンタを睨み付けている。
「…ア、…アキラ…ぁ…ッ!!」
頭を押さえながら、目に涙を浮かべてケンタがのそのそと起き上がる。
「…ちょっと待ってよッ、ケンタぁッ!!」
顔を真っ赤にしたアキラがケンタに怒鳴り付けるように言う。
「いくら俺が好きだからって…。…こんなの、…こんなの、…困るよッ!!」
アキラも困惑していた。次の言葉がなかなか出て来ない。
「…僕とケンタは…!!…地底帝国チューブと戦うために結成されたマスクマンなんだッ!!…僕はブルーマスクで、ケンタはブラックマスク!!」
何を当然のことを言っているんだと周りが聞いていれば突っ込みたくなるだろう。
「僕らはッ、チューブと戦うために選ばれた戦士で、仲間なんだッ!!ただ、それだけの関係だよッ!!」
「…!?」
アキラがそう言い放った瞬間、ケンタが泣きそうな顔をし始めた。
「んなッ!?…なッ、何だよッ!?…なんで泣きそうになってるんだよッ!?」
それはそうだろう。アキラは気付いていないが、アキラはケンタの告白を、自分達はただ仲間と言う関係だけだとバッサリと切り捨てたのだから。
「…ア、…アキラ…様…ぁ…!!」
「しかも、アキラ『様』になってるし!!もうッ、訳分かんないよぉッ!!」
そう言うとアキラは、ぐしぐしと泣きじゃくっているケンタをそのままにして、部屋を飛び出した。
(…とは言え…)
アキラは一度、変身を解除した。
「こんなぐちょぐちょの状態では、みんなのもとへ戻れないしね…」
ブルーマスクのスーツには、自身が飛ばした淫猥な液体がそこかしこに飛び散り、乾燥して固まっていたのだ。
「…はぁぁぁぁ…!!」
自室に戻ると、アキラは大きく溜め息を吐いた。そして、
「…あ〜あ…」
と大声を上げて、そのままベッドへ倒れ込んだ。
「…ケンタが…、…僕のこと…」
そんな素振りは見せたことがなかった。いつも明るくてムードメーカーで、みんなを和ませてくれる存在のケンタ。メンバーの中で一番力持ちで、どんな時もそのパワーで戦って来たケンタ。それなのに。
「…ケンタが、…僕のことを、…好き…?」
思い出すだけで顔が熱くなる。
「…うわ…ッ!!」
ケンタにされたことを思い出し、アキラは更に顔を真っ赤にさせた。
「…ああッ、…もうッ!!」
大声を上げてアキラはベッドの上に起き上がると、枕をギュッと抱き締めた。
「…そりゃ、…タケルはさ、…憧れだよ?…何をやっても凄くカッコいいし、…スタイルもいいし。…地底城のイアル姫といい関係だし。…でも…」
タケルはあくまでも自分自身の憧れでしかない。ましてや、タケルだって自分と同じ男なのだ。
「…同性に、…恋愛感情なんて…、…持つはずがないよ…!…でも…」
ケンタはそんな同性である自分自身に恋愛感情を持っている。
「…ケンタは、…僕が、…好き…?」
考えれば考えるほど、ますます訳が分からなくなって来る。
「…ああッ、…もうッ!!」
再び叫ぶと、
「どうしたらいいのかッ、…もうッ、分かんないよおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と、抱きかかえていた枕を思い切り入口へ投げ飛ばしたのだった。