どっちもどっち 第12話
「…話してくれないか、…ケンタとのこと…」
爆発の重傷を負ったブラックマスク・ケンタの寝ている部屋の前で、レッドマスク・タケルがブルーマスク・アキラに静かに語りかけた。
「…え…?」
アキラは、タケルが何を言っているのか、最初は理解出来なかった。しかし、それが何を意味しているのか分かった時、顔が真っ赤になったと同時に、熱く火照ったのが分かった。
「…え、…えっと…ぉ…!!…な、…何の…、…こ…と…?」
ぎこちない笑みを浮かべてタケルを見るアキラ。タケルが、ケンタとのことを知っているわけがない。すると、タケルは小さく溜め息を吐いて、
「…ケンタから聞いたんだ…」
と言った。
「しゃ、喋ったのッ!?ケンタがッ!?」
アキラはその小さな体で思わずタケルに詰め寄っていた。
「…あ、…あぁ…!!」
アキラのあまりの勢いに押されたのか、タケルが体を仰け反らせて頷いた。
「…ウッソぉ…ッッッッ!!??」
よくもまぁ、自分の性癖を暴露するようなことを、仲間であり、リーダーであるタケルに話せたものだと呆れるやら驚くやら。アキラが目を見開いて、口をパクパクとさせていると、
「…数日前、…だったかな…?…ケンタが、…ありえないって言うくらいしゅんとなってさ…、…オレのところへ来たんだ…」
と静かに語り始めた。
「『…ど、どうしたんだよ、ケンタぁッ!?…な、何だか、元気ないなぁ?』って尋ねたら、あのデカい図体でいきなり泣き出してさ…」
「…ふ…、…っく…ッ!!…うぇぇぇぇ…ッッッッ!!!!」
タケルの部屋に入って来るや否や、ケンタは顔をぐしゃぐしゃにして泣き始めた。
「どッ、どうしたんだよッ、ケンタぁッッッッ!!??」
いつもの穏やかな、ムードメーカーのケンタらしくない。その場に突っ立ったままおいおいと大声を上げて泣くケンタに、タケルはただただ圧倒されていた。
「…お、…おい、ケンタッ!!」
自分よりも大きく、ガッシリとしたケンタの両肩を掴むと、近くにあった椅子に何とか座らせた。
「…っくッ!!…ひぐ…ッ!!…うぇぇぇぇ…ッッッッ!!!!」
子供のように泣きじゃくるケンタ。今まで、こんなケンタを見たことはなかった。
「…い、…一体、何があったんだよ?」
タケル自身も困惑していた。どこから聞けばいいのか、また、どうやったら、いつもの温厚なケンタに落ち着くのか。すると、
「…アキラが…!」
と、ケンタがしゃくり上げながら呟いた。
「…アキラ?」
「…アキラに…」
「…アキラに?」
「…フラれた…」
「…何だ、フラれたのか…。…って、フラれたああああああああッッッッッッッッ!!!!!!??」
最初は笑っていたタケルだったが、その言葉を理解した途端、目を驚くほど見開いてケンタに詰め寄った。
「…うぐ…ッ!!…ひっく…ッ!!」
タケルが大声で「フラれた」と言ったせいか、ケンタの細い目から更に大粒の涙がぼとぼとと溢れ出した。
「…どッ、…どう言うことだよッ、ケンタあッ!?」
タケルもやはり同属のようだ。ケンタが発した言葉に、ケンタ以上に動揺し、ケンタに詰め寄っている自分がいる。
「…オレ…!!…オレぇ…ッ!!」
ひくひくとしゃくり上げながら、ケンタが言った。
「…アキラが、…好きなんだ…!!」
「…で?」
どのくらい経っただろう。ようやく泣き止んだケンタに心を落ち着かせてもらうために、ハーブティーを差し出したタケル。
「…ありがとう…」
目を腫らし、充血させてケンタがタケルに言った。
「…で?…ケンタは、…ア、…アキラが好き…、…なのか?」
必死に冷静に努めようとするタケル。
「…うん。…オレ、…気が付いたら、…アキラが好きになってた…!」
「…そ、…その、…好き…って…言うのは…?」
タケルが頬を引き攣らせながらケンタに問い掛けると、ケンタはゆっくりとタケルを見上げ、顔を真っ赤にし、
「…うん。…恋愛感情…だと、…思う」
と言った。そして、右手を心臓の部分へやり、
「…アキラのことを考えると、…ここが滅茶苦茶苦しいんだ…!」
と言った。
「…アキラ、…高校生で、まだまだ遊びたい盛りだろうに、…あの小さな体に、地球の未来を乗っけてさ…。…それなのに、やたら強くてさ。…なのに、時々、オレ達に見せて来る、あの無邪気な笑顔とかさ。…あぁ、アキラは、まだ本当は誰かに甘えたいんだなって、そう思えてさ…」
いつの間にか、ケンタは優しい笑みを浮かべて話をしていた。
「…そんなアキラを見ていたらさ…。…何だか、…物凄く守ってやりたい気持ちになってさ…。…でも、…アキラは…」
そう言うとケンタは、チラリとタケルを見た。
「?」
きょとんとするタケル。するとケンタは、
「…アキラはさ、…お前が好きみたいなんだよ…」
と言った。
「…」
暫しの間、タケルはその場で固まっていたが、やがて、目を見開き、
「ええええええええッッッッッッッッ!!!!????」
と素っ頓狂な声を上げた。
「…ちょ、…ちょちょちょちょッッッッ!!!!…ちょっと待ったぁッ!!」
体をガタガタと震わせ、腰掛けていた椅子を思い切りひっくり返さんが勢いでタケルが立ち上がる。
「…アアアア、アキラが…ッ!!…オオオオ、…オレを好きだなんて…ッッッッ!!!!…んまッ、…まっさかああああッッッッ!!!!」
「…多分、そうだと思うぜ?」
ケンタがややムスッとした表情で言う。
「…お前のことが憧れだとか、カッコいいとか。…何を着ても似合うとか、…お洒落だとか…!!」
「…そ、…それで?」
やや気持ちを落ち着かせて、ケンタに言うタケル。
「…それで、…って。…それだけだよ…!!」
不貞腐れたように言うケンタ。
「…なぁんだ…」
その時、タケルには全てが分かった。
「…何だよ…?」
訝しむような眼差しでタケルを見つめるケンタ。だが、タケルはニッコリと微笑んでこう言った。
「…アキラは、オレのことは好きじゃない」