どっちもどっち 第13話
「…アキラは…。…オレのことは好きじゃない…!」
レッドマスク・タケルが言い放った言葉が、長い沈黙を誘ったように思えた。いや、実際にそのくらい長い沈黙が2人を包み込んでいたのだ。
「…?」
無言のまま、目をぱちぱちさせるブラックマスク・ケンタ。そんなケンタに、
「大丈夫だ、ケンタ。アキラは、オレのことが好きなんじゃない…!」
と言って静かに微笑んでみせた。
「…ど、…どう言うことだよ…?」
ケンタは理解不能と言った表情でタケルを見つめている。
(…ま、まぁ、普段から運動大好きな筋肉バカじゃ、理解出来なくて当たり前か…)
タケルはそう言いかけてぐっと堪えた。そして、
「…アキラがオレに持ち合わせている感情は、恋愛感情としての『好き』じゃない。…1人の男性として、…憧れのような『好き』って言う意味だよ」
と、優しく言った。
「…わ、…分かんねぇよ…」
ケンタがぶっきらぼうに言う。そして、
「…オレへの同情だったら…、…止めてくれ…よ…?…自分にはイアル姫がいるから、まるでアキラを要らないかのようにオレに押し付けようとするのなら…!」
「バァカッ!!」
ケンタの言葉を遮るかのように、タケルがケンタの頭を引っ叩いた。
「痛てッ!!…なッ、何すんだよぉッ、タケルぅぅぅぅッッッッ!!!?」
頬を膨らませて、ケンタがタケルを睨み付ける。
「…タ、…タケル…?」
それでもタケルは静かに微笑み続けている。ケンタが戸惑いの表情を見せるのも無理はなかった。
「…さっき、お前も言ったろ?」
「…?」
タケルに引っ叩かれた部分を擦りながら、タケルを見つめるケンタ。
「…アキラは、オレに対して何て言ったって?」
「…だ、…だから…ッ!!」
ケンタが顔をぷっと膨らませたまま、言葉を続ける。
「…お前のことが憧れだとか、…カッコいいとか…!!…何を着ても似合うとか、…お洒落だとか…!!」
「…じゃあ、その中に、アキラがオレのことを考えると胸が苦しいとか、そんな言葉はあったか?」
「…い、…いや、…ない…」
一瞬、言葉の尻が弱くなるケンタ。だが、
「でッ、でもッ!!ただ言わなかっただけってことも考えられるだろうッ!?」
と大声で言った。すると、
「じゃあ、アキラの言動を1つ1つ思い出してみろよ?」
とタケルが言ったかと思うと、ケンタに近付き、その股間をジーパン越しに思い切り握り締めた。
「んぎゃああああッッッッ!!!!」
突然の激痛に悲鳴を上げるケンタ。
「うわッ、デッケェッ!!」
手の中にあるあまりのボリュームと感触に思わず声を上げるタケル。
「…うおおおお…ッッッッ!!!!」
ケンタは両手で股間を押さえ、蹲って呻いている。そして、
「…なっ、…何すんだよォッ、…タケルううううッッッッ!!!!」
と、目尻に涙を滲ませながら、恨めしそうにタケルを見上げた。タケルはニヤニヤしながら、
「アキラがオレのことを口にした時、アキラのここは大きくなってたか?」
と、ケンタに尋ねていた。するとケンタは、暫く考え込むような仕草を見せ、
「…あ…」
と、急に何かを思い出したかのように声を上げた。
「…い、…いや…、…大きく…なって…なかった…」
「…だろ?」
タケルはそう言うと、ケンタの腰の辺りをとんとんと叩く。
「あうううう…ッッッッ!!!!」
情けない声を上げるケンタ。
「…確かに、…オレにはイアル姫、…美緒がいるよ…。…でも…!」
そう言うとタケルは、静かに窓の外を眺め始めた。
「…オレ達の恋が成就することはない…!」
「…え…?」
男性しか味わえない独特の痛みが少し和らいで、ケンタがタケルを見上げる。その時のタケルの表情を、ケンタは忘れることはないだろう。どこか寂しげで、どこか切ない表情をしていた。タケルでもこんな表情をするのかと、ケンタの方が驚くほどだった。
「…イアル姫は、地底帝国チューブが滅んだ後、きっと先頭に立ち、地底王国を復興する。地上の人間と、地底の人間が争わないための、平和な世界を築こうとするはずだ…!…そこに、オレはいられない…!いや、いてはいけないんだ!!」
「…タケル…」
ケンタがゆっくりと立ち上がり、タケルの背中を見た。
「だからさ!!」
クルリとケンタの方を向いたタケルは、ケンタの両肩に手をかけた。
「成就する恋があるのなら、とことんぶつかって行けばいいんだよッ、ケンタッ!!」
ニッコリと微笑むと、
「頑張れ、ケンタ!!」
と八重歯を見せながら言った。
「…タケル…。…サンキュ!」
ケンタは目を潤ませながらそう言うと、タケルの部屋を出て行った。
ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!
物凄い大きな音が聞こえたかと思った次の瞬間、
「痛ってええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と言う叫び声。
「…うおおおお…ッッッッ!!!!」
回想録から現実に戻ったタケルが、頭を抱えて唸り声を上げていた。
「…はぁ…ッ!!…はぁ…ッ!!」
その頭上には、ブルーマスク・アキラが荒い息をしながら、体をブルブルと震わせて立っている。
「…ア…、…アキ…ラ…ぁ…ッッッッ!!!!」
目尻に涙を滲ませながらタケルが見上げる。
「…酷いよ…ッ!!」
アキラの目に涙が浮かんでいる。
「…さらっとカッコよく言ってるわりには、物凄く傷付く言い方するんだねッ、タケルってッ!!」
アキラの頬に、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。そして、
「…最っ低…ッ!!」
と言い、部屋の入口へ向かって歩き始めた。
「…ア…キ…ラ…?」
タケルがアキラを呼ぶと、アキラはクルリと振り返り、
「…タケルなんかッ!!…大っ嫌いだああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と叫んでその部屋を飛び出した。