どっちもどっち 第15話
「…ケ、…ケ…ン…タ…ッッッッ!!??」
自分のせいで訓練中に重傷を負い、意識を失い、病室に運ばれていたブラックマスク・ケンタ。レッドマスク・タケルに酷いことを言われ、腹いせで思わず蹴り飛ばしたゴミ缶が病室の目の前だったと言うのだけで、ケンタが横たわっている病室へたまたま入り、様々な思いが交錯してケンタの横で泣いていたブルーマスク・アキラ。そんなアキラの頭の上にケンタがぽんと手を載せ、静かにアキラを見つめていたのだ。頭や顔、腕に巻かれた包帯が痛々しい。
「…ア、…キ…ラ…?」
小さな声で、ケンタが呟くように言う。
「…あ…!」
泣き顔は見せられない。そう思ったアキラは頭を上げ、グイッと袖口で涙を拭った。
「…き、…気が…付いた…んだね、…ケンタぁ…ッ!!良か…っ…たぁ…ッ!!」
その場に似つかわしくないほど、わざとらしく笑うアキラ。だが、ケンタは、
「…どした、アキラ…?…泣いて…いる…のか…?」
と聞いて来た。
「…え?…そッ、…そんなことないよッ!!」
目が腫れてしまっているのだろうか、それとも、頬に涙の跡があったのだろうか。アキラがぎこちなく笑う。すると、ケンタがもぞもぞと動き始め、肘を支点にして起き上がろうとし始めたのだ。
「…ケッ、ケンタぁッ!!…ダッ、ダメだよッ!!…ねッ、寝てないと…ッ!!」
アキラが慌ててケンタを止めようとする。だが、こんなに重傷を負っていても、ケンタの力はアキラのそれとの比ではなかった。あっと言う間にベッドの上に起き上がり、相変わらずの巨体でアキラを見下ろしていたのだ。そして、
「…タケルに、…何か、言われたのか?」
と聞いて来た。
「…え…ッ!?」
ドキッとした。こんな時、ケンタの洞察力は凄まじい。と言うか、自身の顔に出てしまっているのかな、とさえ、アキラは思っていた。
「…アキラ…。…オレで良かったら…。…話して…くれ…ない…か…?」
そう言えば、僕らは喧嘩している最中じゃなかったっけ、アキラはふとそんなことを思い出した。その時だった。
「…アキラが…。…オレのことを、…嫌っているのも…、…知ってる…」
ケンタが不意に言った。
「…ちッ、…ちが…ッ!!」
「いいんだ」
アキラが言いかけた言葉を遮るように、ケンタが話を続ける。
「…オレ、…バカだよな…。…嫌われてるって分かってるのに、…その思いを吹っ切ることが出来なくてさ…!…アキラを振り向かせたくて躍起になって…、…半ば、暴走までして、無理矢理、アキラを襲って…!!」
寂しそうに笑うケンタ。アキラの目に、再び涙が貯まり始めた。
「…この大怪我は、…そんなオレへの、神様が与えた罰なんだろうな…。…でもさ…!」
そう言うとケンタは、じっとアキラを見つめた。
「…オレはッ、それでもアキラが好きだッ!!」
「…ふ…ッ、…っく…ッ!!」
アキラの目から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。
「…ケ、…ンタ…!!」
姿レーシングクラブに入所してから、ずっと自分の面倒を見続けていてくれたケンタ。それは、アキラ達が光戦隊マスクマンになってからも、ずっと変わらないでいた。アキラの戦法を、陰ながら支えてくれていたケンタ。どんな時も、ケンタは自分の盾になってくれていた。自分を守る大きな背中、そして、優しい笑顔。
それを思った時、アキラの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「…僕…。…ぼ、…僕ぅ…ッ!!…どうしたらいいのか、…分かんないよぉッ!!」
ぐしぐしと嗚咽するアキラ。
「…僕ぅ…。…タケルから、…ケンタとのことを…聞かれたんだ…。…そしたらタケルは…、…僕がタケルのことを好きじゃないとか、僕がタケルへ持っている『好き』って言う…気持ちは…、…恋愛感情としての『好き』じゃなくて…、…1人の男性として、…憧れとしての『好き』って言うことだとか…、…ズバズバ…ズバズバ…、…人が物凄く傷つくこと…ばっかり…、…言う…ん…だよッ!?」
嗚咽を必死に堪えながら、一気にまくし立てるように言うアキラ。そんなアキラの言うことを、一言一言、ケンタがじっと聞いている。するとアキラは、急にしゅんとなって、
「…そりゃ、…僕が持っている…、…タケルへの…感情って…。…恋愛感情…じゃない、…と思う…」
と言った。
「…ケンタが、…僕へ持っていてくれるような…。…泣きたく…なったり…、…胸が、…苦しく…なったり…するような…感情…じゃなくて…、…ただ、…カッコいい…なぁと思うような…、…羨望の眼差し…って言うか…、…そんな…感じ…。…いつも、…一緒に…いて欲しい…とか、…そんな…感情じゃ…ない…。…でもッ!!」
するとアキラが突然、真っ赤に泣き腫らした目でケンタを睨み付け、
「だからってッ!!あんな言い方しなくたっていいじゃないかああああッッッッ!!!!タケルなんてッ、最ッ低だよおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と言い、次の瞬間、顔をぐしゃぐしゃにして思わずケンタの胸へ飛び込んでいた。
「…タケル…」
ケンタの口元にフッと笑みが浮かぶ。そして、
「…あいつらしいな…」
と呟いた。
「…え?」
その言葉が聞こえたのか、アキラがケンタに聞き返す。するとケンタは、
「…いや、…何でもない…」
と言うと、小さな微笑を浮かべて、アキラから顔を逸らすように窓の外を見つめた。
「…それに…」
アキラがケンタの胸で続ける。
「…僕は、…ケンタへの思いも、…よく…分からないんだ…」
「え?」
今度はケンタが聞き返す番だった。
「…ケンタのことを考えても…。…やっぱり、…同じように胸が苦しくなったり…、…傍にいて欲しいって、…思うことがないんだ…。…でも…」
アキラはそこまで言うと、急に伏し目がちになった。
「…アキラ?」
その微妙な変化を感じ取ったケンタが、思わずアキラを覗き込む。
「…でも…。…ケンタはいつも、…ずっと僕のそばにいてくれた。…タケルよりも、…ずっと僕を見守っていてくれた。…ケンタが爆発事故に遭って、…大怪我をして意識を失った時、…急に寂しくなったんだ。…ケンタ、死んじゃイヤだ、…ずっと、…僕のそばにいて欲しいって、…そう思ったんだ…!!」
顔を真っ赤にして言うアキラ。そしてケンタも、同じようにして顔を真っ赤にし始めた。
「…ア、…アキラ…!?…そ、それって…!?」
ケンタの目が潤み始める。するとアキラは小さく頷くと、
「…まだ、…実感…ない…けど…」
と言い、ケンタをじっと見つめた。そして、はにかむような笑顔を見せ、
「…ケンタが、…好き…なのかも…しれない…!!」
と言ったのだ。
次の瞬間、アキラはケンタに強く抱き締められていた。
「…ケッ、…ケンタぁッ!!…く、…苦しいよおおおおッッッッ!!!!」
アキラがケンタの大きな腕の中でバタバタと暴れる。だが、それも無駄だと分かった途端、アキラは暴れるのを止めた。そして、
「…ったく…!!…これからケンタは、本っ当に僕の奴隷だかんねッ!!」
と悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。すると、ケンタはアキラを少しだけ離し、ニヤリとすると、
「おうッ!オレは、これからもずっと、アキラ様の奴隷ですッ!!」
と言い、チュッ、と言う音を立てて、アキラの額に口付けたのだった。