どっちもどっち 第16話
「おっはようッ、諸君ッッッッ!!!!」
ブルーマスク・アキラと、ブラックマスク・ケンタがお互いの想いを告白し合った翌日、姿レーシングクラブの一室に大きな声と共にケンタが入って来た。
「「「ケッ、ケンタああああッッッッ!!??」」」
レッドマスク・タケルとイエローマスク・ハルカ、そして、ピンクマスク・モモコが驚いて声を上げる。
「ちょッ、ちょっとッ、ケンタッ!!もう起きて大丈夫なのッ!?」
ハルカが慌ててケンタのもとへやって来た。
「おうッ!!もう、どうってことねぇよッ!!ほうら、この通りッッッッ!!!!」
とケンタは豪快に体を動かし始める。
「…はぁぁ、大した回復力だわ…!!」
モモコが唸るように言う。
「へへ〜ん。どんなもんだいッ!!」
ニコニコと笑うケンタの頬には大きめの絆創膏がまだ付いている。
「今までみんなに散々、心配かけたからなッ!!今日は、オレが食事の買い物に行って来るぜッ!!」
と、ハルカが持っていた買い物籠をひょいっと持ち上げた。
「あッ、僕も行くううううッッッッ!!!!」
その時、アキラがケンタのもとへ駆けて行き、ケンタの腕をギュッと掴んだ。
「…アキラ様…!!」
「「「アキラ様ああああッッッッ!!??」」」
またもやタケルとハルカ、モモコが素っ頓狂な声を上げた。その時、ケンタは、
「そうだよ?アキラはオレの…」
と、何を言っているんだと言う表情で3人を見ながら言いかけた。だがその途端、
「わああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と、アキラが思わずケンタの背中によじ登り、咄嗟にケンタの口を塞いでいたのだ。
「…ど、…どしたぁ、…アキラぁ…!?」
タケルが目をぱちくりさせながらアキラに尋ねる。
「ああああッッッッ!!!!…なッ、…何でもないよッッッッ!!!!気にしないでッッッッ!!!!」
アキラはニコッとすると、
「ほ、ほらッ、ケンタあッ!!…さ、さっさと行こうよッ!!…ぼッ、僕ッ、お腹減ったよォッ!!」
と言いながらケンタの腕を引っ張り、物凄い勢いで部屋を飛び出した。
「…ねぇ、…モモコぉ…」
静寂に包まれた姿レーシングクラブの一室で、ハルカがモモコを呼んだ。
「…何、…あの2人…?」
「…さぁ…。…って言うか、あの2人、あんなに仲良かったっけ?」
2人の女戦士が怪訝な顔を突き合わせている頃、その後ろでタケルがフッと笑みを浮かべていた。
「もぉッ、ケンタのバカああああッッッッ!!!!」
いつものスーパーへ向かう途中、アキラがブツブツとケンタに怒鳴り散らしている。
「何がですかッ!?だって、オレはアキラ様の奴隷なんでしょうッ!?だったら、アキラ様って呼ぶのが当たり前じゃないですかああああッッッッ!!!!」
ぷっと顔を膨らませて言うケンタ。
「だぁかぁらああああッッッッ!!!!」
アキラは瞬間的にケンタの前に行き、ケンタに抱き付いた。
「…ア、…アキ…ラ…様…?」
ケンタが少し戸惑ってアキラを呼ぶ。
「…僕のことを『様』付けで呼ぶのは…。…僕ら2人っきりに…、…なった時だけに…、…して…よ。…それ以外は、…こうやって、…外にいる時とか、…みんなの前では、…いつものケンタでいてよ…!」
するとケンタは、しがみ付いているアキラの腕を静かに離すと、アキラの前でしゃがみ込んだ。
「…いいのか?」
大きな犬が目の前にいるようだ、アキラはそんなことを感じていた。
「…うん。…その方が、…みんなにも分からなくていいから…」
ちょっと顔を真っ赤にして、アキラはケンタに言う。すると、ケンタはニッコリとして、
「…分かった!」
と言って立ち上がると、ケンタはアキラの頭をくしゃくしゃと撫でた。そして、
「アキラがその方がいいって言うのなら、それで構わねぇよ!」
と言った。
「…それよりも…」
「…?…どうした、アキラぁ?」
小さな犬が目の前で震えているように見える、ケンタはそんなことを感じていた。
「…怪我、…本当は、…無理してるんじゃ…、…ないの?」
本気で心配している瞳。ケンタは思わずアキラを抱き締めていた。
「…少しでも無理しなきゃ、…いつまでもみんなに心配はかけられねぇだろ?」
「でッ、でもッ!!」
ケンタの逞しい腕の中で、アキラが思わず見上げる。するとケンタは、
「大丈夫だッ!!心配すんなッ!!」
と、アキラの言葉を遮った。
「随分、良くなったと思うよ?体の痛みもかなり消えたしな!」
「…でも…。…もとはと言えば、僕のせいでこうなったわけだし…」
「だぁかぁらぁ。アキラのせいじゃないって!!」
ニッコリと微笑むケンタ。
「もう、気にすんなよ!!オレは本当に大丈夫だからさ!!アキラは、いつものアキラのままでいてくれれば、それでいいんだよ!!」
「…いつもの、…僕の…まま…?」
そう言うとアキラは横を見た。
「…あ…」
目の前にはお洒落なブランド物のお店がある。ショーウィンドーに飾られた服を見て、自分もタケルのようにかっこ良くなりたいと言い、ケンタに大笑いされたのを思い出した。
「…アキラ?」
ショーウィンドーをじっと見ているアキラに、ケンタが声を掛ける。そんなアキラの口元に微笑が浮かんだ。
「…うんッ!!」
「え?」
ケンタがきょとんとすると、アキラはケンタと向き合い、
「タケルはタケル。僕は僕、だもんねッッッッ!!!!」
と言った。
「…アキラぁ…ッ!!」
ケンタの目が潤む。
「さっ、ケンタぁッ!!さっさと買い物して帰ろうよッ!!僕、滅茶苦茶お腹減ったよぉッ!!」
アキラはそう言うと、ケンタの腕を引っ張り、大通りを駆け出した。アキラの目は、子供のようにキラキラと輝いていた。