どっちもどっち 第17話
「おっはようッ!!」
それから数日が経った。
「…ぶっ!!」
朝の静かなひと時、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいたレッドマスク・タケルが、元気な声と共に部屋に入って来た者を認めた瞬間、思い切りコーヒーを吹き出した。ブルーマスク・アキラがニコニコ顔で部屋へ入って来たのだ。
「「「あッ、アキラああああッッッッ!!??」」」
タケルの声と一緒に、一気に眠気を吹き飛ばすような、キーンと耳を劈く悲鳴にも似た声。
「どどど、どうしたのよッ、その格好ッ!?」
ピンクマスク・モモコが慌ててアキラの元へ駆け寄り、驚いてアキラの頭からつま先まで何度も何度も見上げたり見下ろしたりする。
「…えへへ〜…!!」
ちょっとはにかんだ笑顔でタケル達を見るアキラ。
「何かさ、イメージチェンジしたくなってさ…!」
そう言いながら、アキラはポリポリと頭を掻く。
水兵のような、白を基調とした両肩から胸にかけては青いセーラーがある服。そして、下半身は白いジーパン、真っ白なスニーカー。
「あぁ〜んッッッッ♥♥♥♥」
と突然、艶のある声が聞こえたかと思うと、イエローマスク・ハルカが駆け寄り、アキラを思い切り抱き締めたのだ。
「わあッ!!ちょッ、ちょっとッ、ハルカぁッ!?」
「きゃああああんんんんッッッッ!!!!かぅわいいッッッッ♥♥♥♥アキラったら、罪深い子だわぁ!!お姉さん、母性本能をくすぐられそうッ!!」
「あッ、暑苦しいよオオオオッッッッ!!!!」
アキラがハルカを引き離そうとするが、ハルカの腕の力が物凄い。
「…やれやれ…、…って、ど、どうしたんだよッ、ケンタぁッ!?」
苦笑していたタケルが、隣りにいたブラックマスク・ケンタを見て驚いて声を上げた。
「…あ、…んん…!!」
ケンタは顔を真っ赤にし、体をもじもじさせている。
「…ど、…どうしたんだよ、…腹でも痛いのか…?」
下腹部を押さえ、腰をくの字に折り曲げていることが意味するものは、同じ男なら分かるはずだ。だが、タケルはすっとぼけた質問をして来る。
「…あ、…い、…いや…」
相変わらず下腹部を押さえ、もじもじと動くケンタ。
「どうしたんだよ、ケンタぁ?不気味だぞ?」
ここまでの状況になっているのに、まだ、そんなすっとぼけた質問をして来るかと、ケンタはタケルに飛び掛りたい衝動に駆られた。
「…ケンタ?」
ハルカに抱き締められていたアキラがケンタを認め、声をかける。
「…ア、…アキ…ラ…!!」
ぎこちなく笑うケンタ。両手は相変わらず下腹部を押さえている。
「…ちょッ、ちょっとぉッ、ケンタぁッ!!」
その時だった。モモコが悲鳴に近い声を上げた。
「ケンタぁッ!!鼻血ッッッッ!!!!」
次の瞬間、タケル、アキラ、ハルカの目が一斉にケンタに注がれた。
「…え?」
ケンタは、下腹部を押さえていた片手を鼻へ持って行き、そっと拭った。そして、指に付いた真っ赤なものを見た瞬間、
「…ぬおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と雄叫びに近い声を上げ、
「…もうッ、無理イイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と叫ぶと、物凄い勢いでアキラ、ハルカ、モモコの元へ突進する。
「「キャアッ!!」」
ハルカとモモコが小さく悲鳴を上げる。
「ケッ、ケンタぁッ!?」
物凄い勢いで3人の間をすり抜け、部屋を飛び出して行ったケンタ。
「まッ、待ってよぉッ、ケンタぁッ!!」
アキラはそう叫ぶと、急いで部屋を飛び出し、ケンタの後を追った。
「…ねぇ…。…モモコぉ…」
嵐のように過ぎ去ったケンタとアキラの通り過ぎた、開け放されたドアを見ながら、ハルカがモモコに声をかける。
「…あれって…」
「…間違いないわね…!」
モモコが右手を顎の下へやる。
「…あの2人、…そう言う関係だったのね…!」
「やっぱりッ!?やっぱりそう思うでしょぉッ!?」
ハルカが目を輝かせる。すると、モモコは大きく頷いて、
「当ったり前じゃないッ!!ケンタのあの様子と言い、アキラのあのはにかんだ笑顔と言い…!!」
と言い、ニヤニヤと口元を歪ませた。
「意外な2人がくっついちゃった…てか!?」
「「きゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」」
「…女って怖えぇ…!!」
狂喜乱舞するハルカとモモコの後ろで、タケルがボソッと呟く。だが、すぐに穏やかな笑みを浮かべると、
「…頑張れよ…!!…ケンタ、…アキラ…!!」
と呟いたのだった。
「ケンタぁッ!!大丈夫ぅッ!?」
アキラはそのまま、ケンタの部屋へやって来た。
「…う、…うぅ…ッ!!」
ベッドの上で相変わらず下腹部を押さえた状態で体を折り曲げているケンタが呻いていた。
「ねぇッ、ケンタってばぁッ!!こっち向いてくれなきゃ、何があったのか分かんないだろッ!?」
そう言いながら、アキラはケンタを何とかして自分の方へ向かせようとした。
「ああッ!!おッ、お止め下さいッ!!アキラ様ぁッ、…見ないで…ッ!!」
そう叫びながら必死に抵抗するケンタ。
「じゃあ、腕ずくでもこっちに向かせるからなッ!!」
アキラはそう言うと、ケンタの両の脇腹をぐっと掴んだ。
「…ッ!?」
その瞬間、ケンタの体がビクンと跳ねる。
「行っくぞぉッ!!」
次の瞬間、ケンタの脇腹を掴んでいるアキラの指が小刻みに動き始め、ケンタの脇腹をくすぐり始めたのだ。
「…あッ!?…ああッ!!ああッ!!ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!」
ケンタの体がブルブルと震え、もぞもぞとベッドの上で暴れ始める。そして、
「ぎゃははははははははッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と大声で笑い始め、その反動でゴロンとベッドの上に転がった。
「…あッ!!」
「…あぁ…ッ!!」
アキラ絶句。そして、ケンタも顔を真っ赤にして言葉を失った。
「…ケ、…ケン…タ…!?」
ケンタの擦り切れたジーパン。その股間部分が大きく盛り上がっていた。