処刑!メガレッドU 第2話

 

「…え?」

 メガレッドにインストールしている健太は、そう言うのが精一杯だった。聞き間違いかとも思った。だが、自分の左横に、右足をぴったりと密着させ、光沢のある鮮やかな赤色のスーツに覆われた太腿に右手を置いている自分と同い年くらいの男は何かを確信したかのように勝ち誇った笑みを浮かべている。

「…は、…はは…!」

 乾いた笑いを見せる健太。

「…ひ、…人違いじゃないですか?…オレ、…あ、いや、僕はそんな名前じゃ…」

 するとその男は予想通りと言う顔をしてフンと鼻で笑うと、

「じゃあ、マスクを取ってよ!」

 と言った。

「…あ、…え、えっと、これはぁ…」

 健太が言い淀む。だがその男は、

「君が伊達健太君じゃなかったら、マスクを取ってくれたっていいじゃないか!」

 とますます調子に乗って言う。そして、健太の左太腿に載せていた手をゆっくりと動かし始めた。まるで健太の太腿を擦るかのように。

「…やッ、…止めて下さい…ッ!!

 ゾワゾワとした悪寒が背筋を駆け抜け、健太は思わず声を上げるとおもむろにソファから立ち上がった。

「…あ、…あの…。…弟さんや妹さんがいらっしゃらないのなら、…僕はこれで失礼します…!」

 と言い、そそくさとその部屋を出ようとした。するとその男は、

「別にいいよ、ひた隠しにしても!」

 と言うと、用意周到と言わんばかりに棚に置いてあったハンディカムを持って来た。そして、

「…ここに映ってるの、だぁれ?」

 と健太に見せ付けたのである。その瞬間、

「…ッ!!!!

 と健太の息が止まったのが分かった。

『インストール!3、3、5、Enter!』

 と言う威勢のいい掛け声がした。

「…な、…何だよ、…これ…!!

 しかもそこには、健太のみならず、クラスメイトで一緒にメガレンジャーとして戦っているメガブラック・遠藤耕一郎、メガブルー・並木瞬、メガイエロー・城ヶ崎千里、メガピンク・今村みくまでが映り込んでいたのである。そして、威勢のいい掛け声と共に全員の体が輝きを放ち、次の瞬間、それぞれがそれぞれの姿にインストールしていたのだった。

「…あ…あ…あ…!!

 健太の声が震え、ヨロヨロと後退りをする。

「これはね、たまたまこのハンディカムで録画をしていた時に撮影したスクープ映像なんだぁ!」

 男はニコニコとしながら、健太の目の前にやって来る。そして健太を見上げてニヤニヤしている。

「と言うか、健太。僕のこと、誰だか分からないのかい?」

「…え、…えっと…」

 健太が考え込んだ次の瞬間、

「…あ!」

 と大きな声を上げた。

「…おまッ、…お前…ッ!!…巧ッ!?

「…やっと気が付いたかい、健太!」

 いつの間にか自分のことを呼び捨てにしてやれやれと言う顔付きをした巧。すると巧は、手に持っていたハンディカムをゆっくりとテーブルの上に置いた。

 健太達のクラスの中で目立たないと言うより、存在感のない巧。席は後ろの方で、普段から誰とも行動をしない、気が付くとどこかへ消えている、そんな存在だった。それゆえ、健太達の記憶に全く残らないほどの存在だったのだ。

「お前ッ、その映像を消せッ!!

「と言うか、健太。自分が健太だって言うことを既に僕に言っているよね?」

 ニヤニヤしながら言う巧。

「…あ…」

 気が付けば、後戻り出来ないところまで来てしまっていた。巧が巧であることを思い出し、その際に巧が健太のことを名前で呼んでも、全く否定もしなかった健太。

「…く…ッ…!!

 今更、違うとも否定も出来ない。

「…はぁ…ッ!!

 健太は取り敢えず、大きく溜め息を吐いた。ここでカッとなっては巧の思うつぼだ。それに気付いたのか、巧は更にフフンと笑った。

「…なぁ、巧…」

「ん?」

「…お前、…弟や妹はいるのか?」

 何となく、巧の答えの予想は付いてはいたが、一応、聞いてみる。すると巧は最初はきょとんとしていたが、ニヤリとすると、

「そんなの、いるわけないだろ?」

 と言った。

「僕は一人っ子だよ!見て分かるかもしれないけど、僕の家は医者でね、金持ちなんだ。親父もお袋も、一度出かけたらなかなか帰って来ない。そして、メディア業界にも知り合いがたくさんいてね、ちょちょいっと細工をしたから、君がここに来ることになったんだよ」

 と言い、

「まぁ、小さな八百屋さんの跡取り息子には分からないかもしれないがね!」

 と言った。その瞬間だった。

「てめえッ!!

 今までグッと堪えていたものがとうとう溢れ出した。気が付けば、健太は巧の胸倉を掴み上げていた。

「…あ…あぁ…ッ!!

 苦しそうな表情を浮かべ、宙づりになっている巧。と思ったのも束の間、巧がニヤリと笑った。そして、

「…い、…いい…の…か…?」

 と言ったのだ。

「ああ!?

 怒り心頭の健太。

「…このまま、…暴力を振るえば、…メガレンジャーは、…正義のヒーローじゃなくなる…!…一般市民に暴力を揮う、…とんでもない集団、…ってことに、…なるんだぜ…?」

「…て…め…え…!!

 メガレッドのマスクの中で、健太の目が血走る。そして振り上げた右拳がブルブルと震え、真っ白なマスクでギリギリと音を立てた。

「…それに、…ハンディカムの、…映像は、…いくらでも、…バックアップがある…!!…僕を放して、…ハンディカムを、…ぶっ壊しても、…無駄だよ…!!

「…ッ!!

 苦しそうな表情を浮かべるその瞳の奥に、勝ち誇った輝きがあった。

「…分かった…」

 次の瞬間、健太は巧をゆっくりと下ろしていた。

「…オレは、…どうすれば、…いい…?」

 暫くゲホゲホと咳き込んでいた巧だったが、

「…ようやく分かったようだね、健太…!」

 と言い、改めて健太の目の前に立った。自分の頭1つ分背の低い巧を、静かに見下ろす健太。

「フフッ!!健太達がメガレンジャーだってこと、誰にも知られたくなかったら、僕の言う通りにするんだよ?」

 巧がそう言うと、

「…好きにしろ…!」

 と、健太は静かに言った。

「じゃあ…」

 健太の前で腕組みをして、じっと健太を見上げる巧。

「まず、そのマスクを取ってよ!」

「…」

 健太はゆっくりと目を閉じた。次の瞬間、健太の頭部が光ったかと思うと、マスクが外れていた。

「あはッ!やっぱり健太だぁ!」

 巧は笑ってそう言うと、嬉しそうに健太に抱き付いた。

「…たッ、巧ッ!?

 突然のことに戸惑いを隠せない健太。すると巧は、

「…健太。…僕には決して逆らえないこと、ちゃあんと覚えておいてよ?」

 と言った。そして、

「じゃあ、まずはぁ!」

 と言うと健太を見上げた。

「…忠誠の証として、僕のことを『巧様』って呼んでもらおうかな!」

 

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