機械の奴隷 第2話

 

 ブロロロロ…。

 軽快なエンジン音を立てながら、昌平のバイク・グリーンジェッターが閑静な住宅街を走る。

「…異常なし…っと…」

 常に視線を左右に気配りしながら、昌平はマスク越しに呟くように言った。

(いやいや、このままバラノイアも出て来ないでちょうだいッ!!

 心の中で、そんなふうに思ってみた。

 その時だった。

「…ん?」

 通り過ぎた公園のブランコに、1人の中学生が座り込んでいるのを見つけた。

「…あの子…」

 まだ太陽は空のてっぺんにある。そんな時間に公園でぽつんとしているなんて…。

 ブオオオオンンンンッッッッ!!!!

 その時、昌平はグリーンジェッターのハンドルを捻ると車体を大きく旋回させ、その公園の中へ入って行った。

「おーい、君ぃ!」

 昌平の声に気付いたのか、俯き加減で座っていたその子は顔を上げ、

「…あ…」

 と言った。

「どうしたんだぁ、こんな時間にぃ?学校サボったのかぁ?」

「…オーレンジャー…」

 緊張しているのか、固まってしまったのか、昌平から視線を外そうとしないその男の子。

「…?…どした?」

 ヘルメットを取ると、昌平は努めて明るく声を掛けた。だが、その男の子は、

「…るっせぇな…!」

 と呟くように悪態をついたのだ。そんなその少年に苦笑して、

「こらこら!」

 と昌平は言うと、ぽんと右手をその少年の頭の上に置いた。そして、

「ちゃんと学校には通わないとダメだぞぉ?義務教育なんだから」

 と言った。するとその少年は、

「余計な御世話だッ!!

 と言ったかと思うと、昌平の右手を振り解いた。

「うおッ!?

 その勢いに思わず気圧される昌平。その時、その少年はブランコから立ち上がると、

「人のことより、自分のことを心配しろよなッ!!

 と言ったかと思うと、その場から逃げるように一目散に駆け出し、あっと言う間に昌平から遠ざかって行った。

「…な、…何だぁ、あの子ぉ…?」

 昌平は呆気に取られていたが、不意にフッと笑い、

「…まぁ、中学生と言えば、難しい年頃だしぃ?ちょっと大人ぶってみたい気持ちも分かるしぃ?」

 と勝手に自己解釈し、

「…おおっと!オレもパトロールパトロール!」

 と、慌ててグリーンジェッターに跨るとヘルメットをかぶり直した。そして、

 ブオオオオンンンンッッッッ!!!!

 と大きな音を立てて、その場を立ち去った。

 

 翌日――。

「…まただ…」

 昨日と同じようにあの公園を通り過ぎた時だった。昨日、昌平に悪態をついたあの男の子が、またブランコに座り込んでいる。しかも、昨日と同じようにやや俯き加減で、時折、大きく溜め息を吐いて…。

「おーい、君ぃ!」

 ブオオオオン、とバイクのエンジンを響かせて、昌平は公園の中へ入って行った。

「どうしたんだよぉ、君ぃ!昨日もここにいたよな?」

「…るっせぇな…!」

 昨日と同じように悪態をつくその男の子。

「…学校で何かあったのか?」

 昌平が尋ねるも、その子はふるふると首を左右に振るだけだ。

「…あ!」

 と突然、昌平が大声を上げ、ぽんと右拳を左手のひらにぶつけた。そして、不意にニンマリとしたかと思うと、

「もしかしてもしかして!恋のお悩みかぁ?」

 と言ったのだ。その途端、その男の子はブランコから勢い良く立ち上がったかと思うと、

「べッ、別にッ!!そんなんじゃねえよッ!!

 と、顔を真っ赤にして怒鳴ったのだ。だが昌平はニマニマと笑いながら、

「そうかそうかぁ!そう言うお年頃だもんなぁ!」

 と言いながら、その子の左から右腕を伸ばし、その子の右肩をバンバンと叩いた。

「なッ、何を勝手に納得してんだよッ!!

 顔を真っ赤にして相変わらず怒鳴り続けるその男の子。だが、昌平はニコニコして全く意に介していないようだ。それどころか、

「どぉれ、お兄さんがお悩みを聞いてあげようじゃないか!」

 とまで言い出したのだ。

 すると、その男の子は漸く観念したのか、

「…はぁ…」

 と大きく溜め息を吐き、ブランコに再び座り込んだ。

「…まず、君の名前は?」

 昌平が尋ねると、

「オレの名前を聞くのなら、そっちから名前を名乗るのが普通だろう?」

 と言って来た。昌平は、

「…ふむ…」

 と言うと、

「オレは昌平。四日市昌平だ」

 と言った。するとその子は、

「…清史郎…」

 と言った。

「で、清史郎君。君はどうしてここにいたのかな?」

 昌平は清史郎の前にしゃがみ込み、穏やかな笑みを浮かべて尋ねてみた。すると清史郎は、

「…昌平さんの、…推測通りだよ…」

 と言うと、大きく溜め息を吐いた。そして、

「…オレさ、…中学3年生なんだけど、…まだ、誰とも付き合ったことないんだ…」

 と言ったのだった。

「…中学3年生?」

 中学3年生にしてはあどけない表情。背格好もさほど大きくない。正直、1年生くらいかと思っていた。すると清史郎は不意に不機嫌な表情になり、

「何だよッ!?

 と、昌平を睨み付けた。

「…あ、…いやいや…」

 昌平は笑うと、

「別に中学3年生だからって言って、急いで付き合わなくたっていいんじゃないのか?」

 と清史郎に言った。すると清史郎は、

「最近は早い子だと小学生で付き合ってんだぜッ!?

 と言い出したのだ。

「…小学生で?」

「そうだよッ!!良くニュースで聞くだろう?小学生で妊娠とか…」

「…あ、…あー…」

 確かに聞いたことがある。興味本位でクラスメートの男の子と性交してしまい、妊娠。親にも言うことが出来ずに独りで出産とか、親にばれた時には既に堕胎出来る期間ではなく、訴訟沙汰になるとか。

「…だ、…だけど、それとこれとは関係ないだろう?」

 ブンブンと首を左右に振り、昌平は清史郎に尋ねた。すると清史郎は大きく溜め息を吐き、

「大有りなんだよッ!!オレが、学校に行きたくないのとそれとは!」

 と顔を赤らめ、

「…オレ、…今、好きな女の子がいるんだよ…!」

 と言ったのだった。

 

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