そして僕らは大人になる 第2話

 

「行くぞおッ!!

 あれは小学校高学年の頃だっただろうか。休み時間になると外へ飛び出し、遊んでいた俺ら。

「キングレンジャーッ!!

 黒いジャージに身を包み、自分で考え出したポーズを決める俺。

「キバレンジャーッ!!

 白いジャージに身を包み、自分で考え出したポーズを決めるコウ。そして、

「コグマスカイブルーッ!!

 と、明るい空色のジャージに身を包み、同じように自分で考え出したポーズを決める小太郎。そして、

「とおおおおッッッッ!!!!

 と、やや高めの台の上から飛び降りた。

 そして、スタッ、とカッコ良く着地を決めた、はずだった。

「…わ…、…わわわ…ッッッッ!!!!!!??

 その時、俺は勢い余り、ヨロヨロと何歩か前へ進み、

「うわああああッッッッ!!!!

 と悲鳴を上げてその場にゴロゴロと転がった。

「だッ、大丈夫ッ、リキぃッ!?

 小太郎が慌てて駆け出して来る。

「…あ、…ああ。…失敗失敗」

 体中に付いた砂をぱんぱんと払いながら照れたように笑うと、

「リキでも転ぶことがあるんだね!」

 と、小太郎は目をキラキラと輝かせて言った。

「おいおい。俺だって普通の人間だぜ?転ぶことくらいあるよ」

 苦笑しながら言うと、

「これが本当の、『弘法も筆の誤り』だな!」

 と、コウが言った。

「…え?」

 俺と小太郎が目を点にしてコウを見つめる。するとコウは、

「…な、…何だよ!?

 と訝しげに声を上げた。

「…いや…。…コウのくせに、やけに難しい言葉を知ってるんだなって思ってさ…!」

 ちょっと意地悪のつもりでそう言うと、小太郎までが俺の隣りでコクコクと頷く。

「あのなあッ!!オレだって少しは知識があるのッ!!

 顔をぷっと膨らませてコウが言った。だがすぐにニヤリとして、

「それにしてもリキ。黒いジャージに砂がいっぱい付くと、何だか、エロくない?」

 と言って来たのだ。

「…どこが?」

 この頃から、コウにはゲイとしての素質があったんだと思う。砂埃がいっぱい付いた俺のことを、そんな目で見ていたのだから!俺が尋ねると、コウはニヤニヤとしながら、

「そのお尻の形とかさ、何か、エロを感じちゃうんだよね〜!」

 と言った。

「…よく、…分かんない…」

 その時、コウは小太郎がぼそっと呟いたのを聞き逃さなかった。

「それはお前がまだお子ちゃまだからッ!!

 ムキになって言うコウ。すると小太郎も顔を真っ赤にして、

「あー!コウに言われたくないよーだッ!!

 と、こちらもお子ちゃまムキダシで言い返す。

「…どっちもどっちだと思うけど…?」

 俺は2人に聞こえないように、横を向いて静かに言った。

 

 学校が終わると、俺達は誰かの家に集まっていた。今日はコウの家だった。

「よしッ!!じゃあ、今日はリキがヒーローな!!

 学校帰りのジャージ姿のまま、俺達は集まっている。

「フフッ!!今日こそ、ヒーローリキを倒してやるぜ!!

 コウがニヤニヤしながら言う。俺もそれに乗るように、

「どうかな?俺はそんなに簡単には倒せないぜ?」

 と言ってやった。

 その時だった。

「おりゃあッ!!

 突然、小太郎が背後から俺に抱き付いて来た。

「うわッ!!…ちょッ、…小太郎ッ!?

 ぎゅううう、と俺にしがみ付く小太郎。

「どッ、どうしたんだよッ、小太郎ッ!?

 俺がそう言うと、

「…リキの体、凄くあったかい…」

 と、俺の背後でウットリとした表情を浮かべている。

「どッ、どうしたんだよッ、小太郎ォッ!?

 確か、設定では小太郎は俺の仲間のはず。その時だった。

「フッフッフ…!!

 目の前のコウがニヤニヤと笑い、腕組みをしている。

「そいつはオレに洗脳されたのさ!そいつは、コグマスカイブルーはオレの言いなりだ!!給食のヨーグルトを、そいつに与えてなあッ!!

「なッ、何だとオオオオッッッッ!!!!!!??

 ヨーグルトはコウの大好物のはず。

「あ、でも、休んだ子の余った分だったから、ちゃんとコウも食べたんだよ?」

 その時、小太郎がわざわざご丁寧に解説をしてくれた。

「ウソッ!?俺、聞いてねえぞッ!?

 まさか、ヨーグルトが余っていたとは!するとコウが、

「だってリキ。お前、いろんな用事でバタバタと走り回ってたじゃない?」

 と言った。

「…あ…」

 そうだった。学級委員を務めている俺は、昼休みの間に片付けなければならないことがあって、給食も物凄い勢いで平らげ、バタバタと学校中を走り回っていたんだっけ。

「…く…っそ…オオオオ…ッッッッ!!!!こんな日に限って、ヨーグルトが余ってたなんてええええッッッッ!!!!

「…ククク…。残念だったなぁ、キングレンジャー!お前がいない間に、オレはコグマスカイブルーを誘き寄せ、ヨーグルトを与えた。その中には相手を洗脳する薬を入れておいたのさ!だから今、こうやってコグマスカイブルーはオレの言いなりなのさ!」

「…そしたら、小太郎がじゃんけんで勝ったのか?」

 俺が尋ねると、小太郎はふるふると首を左右に振り、

「コウが勝ったの。でも、コウが僕にくれたんだ!」

 と言った。

「お、おいおいッ、コウッ!!お前ッ、熱でもあるんじゃないのか!?大好物のヨーグルトを小太郎にあげるなんて!!

「ああッ、もうッ!!説明がめんどくせええええッッッッ!!!!

 コウが苛立って声を荒げる。

「余ってたのは、1個じゃないってことだよッ!!だからッ、オレもちゃんと2個食えたってことだよッ!!

「そ、それを先に言えええええッッッッ!!!!

 今度は俺が声を荒げた。

「うるせえッ!!

 その時、コウがニヤリとしたかと思うと、

「おいッ、コグマスカイブルーッ!!キングレンジャーを倒せッ!!

 と言った。すると、小太郎は、

「うんッ!!

 と言い、俄かにその細い右腕を俺の首に巻き付けた。

 

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