そして僕らは大人になる 第5話

 

 コウの家を出た後、小太郎は俺の家に来ていた。

「…ひぐ…ッ!!…え…っぐ…ッ!!

 コウの家を出てから、小太郎は堰を切ったように泣き出し、えぐえぐといつまでもしゃくり上げていた。

「…おぉいぃ、小太郎ぉ…。…いつまでも泣くなよぉ…!」

 コウがちょっとからかっただけなのに、小太郎はそれが余程傷付いたのか、えぐえぐとしゃくり上げ、大きな瞳からはポロポロと大粒の涙を零していた。

「…だ、…だ…って…!…だって…!!

「コウがからかったことが、そんなに悔しかったのか?」

 俺が尋ねると、小太郎は、

「…それも…、…ある…けど…」

 と言うと、自分の気持ちを落ち着かせるように、少しだけ大きく深呼吸をした。

「…オレ、…本当に、…何にも知らないんだ…。…さっき、リキがコウにやられていた技だって知らないし…」

「うん」

 そりゃ、そうだろうな。それが小太郎のいいところ、と言うか、純粋なところ、と言うか…。電気アンマだって、コウとはよくやり合っていたけれど、小太郎のいる前じゃなかった。小太郎は初めて見たんじゃないかな。

「ねぇ、リキぃ」

「うん?」

 小太郎は俺の方へ向き直ると、

「さっき、コウが僕に言った言葉って何?」

 と聞いて来た。

「う゛ッ!?

 それを俺に聞くか!?

「…え、…え…っと…ぉ…」

 俺が言いよどんでいると、小太郎の表情が曇り、みるみるうちに瞳に大粒の涙が浮かび始めた。

「こッ、小太郎ッ!?

「…リキも…、…教えて…くれない…んだね…?…オレの、…お兄ちゃん…なのに…!!

「だああああッッッッ!!!!もうううううッッッッ!!!!

 そこで「お兄ちゃん」を出すなッ!!小太郎に「お兄ちゃん」と言われたら、何も言えなくなるだろうがッ!!

「…はぁぁぁ…(コウのやつううううッッッッ!!!!今度会ったら、絶対にシメてやるからなッ!!)」

 俺は大きく溜め息を吐いた。

「…いいのかなぁ、…こんなことを小太郎に教えて…」

 いくら小学校高学年とは言え、性の知識なんて人それぞれだし…。すると小太郎は、

「リキ兄ちゃんッ!!オレだって知りたいんだッ!!リキ兄ちゃんやコウ兄ちゃんが知っているのに、オレだけ知らないことがあるのは、絶対に嫌なんだッ!!

 と、顔を真っ赤にして真剣な眼差しで俺を見上げている。

「…分かった…」

 ここまで言われたら、ダメなものはダメとは言えない。

「ただしッ!!これは俺と小太郎だけの秘密だからなッ!!おじさんやおばさんに話したらダメだぞ!?

 俺も腹を括った。小太郎に念を押すように言うと、小太郎は目を輝かせ、

「うんッ!!父さんや母さんには絶対に言わないッ!!

 と、大きく頷いた。

「よし」

 俺はどっかりと座り直すと、

「まず。…セックス…だ」

 と言うと、

「簡単に言えば、本来は子供を作るための行為かな」

 と言ってやった。

「…子供…?」

 小太郎はきょとんとしていたが、

「だって、リキとコウでセックスしたって、子供は出来ないよ?」

 と言って来た。

 あ、それは小太郎も知っているんだ、って、当たり前か。

「本来は、って言っただろう?」

 オレはそう言うと、黒いジャージに包まれたオレのペニスをギュッと握り、

「コイツを、女性のお腹の中へ入れて、射精するんだ」

 と言った。

「…射精?」

 ウソぉ…。それも知らないのかよぉ…。だが、それを言うのはぐっと堪え、

「オレ達男子のタマの中で作られる精子が、女性の子宮の中で作られる卵子と結合して、女性の子宮の中で着床して細胞分裂を繰り返す。そして大きくなって子供になるんだ。でも、子供を作るだけがセックスじゃない。性の快楽を得るためにすることもセックスって言うんだぜ?」

 と言った。

「…性の…、…快楽…?」

「ああ。例えば、俺がさっき、コウにやられた電気アンマ。あれだって、股下を刺激されて、俺は気持ち良くてチンポが大きくなった。チンポが大きくなることを勃起って言うんだ。気持ちいいって言うことが、快楽って言うことなんだぜ?」

 俺はここで、少しだけ気になったことを声にしてみた。

「なぁ、小太郎」

「うん?」

「小太郎は自分のチンポがムズムズしたり、変な感覚になったことはないか?」

「…え…?」

 すると、小太郎はちょっとだけ顔を赤らめた。そして、

「…何かね…。…うつ伏せになって寝ていた時に、ちょっとだけ動いたんだ。…そしたら、ここがくすぐったいような、変な感覚になったことはあったよ。…それに、…朝、目が覚めるとここが大きくなっていることが良くあるんだ」

 と、自分の股間を指差しながら言った。

「ああ。くすぐったいような、変な感覚が快楽ってやつだ。それから、朝、大きくなっているのは勃起って言うんだ」

 良かった。小太郎も少しはそう言う経験があったか。

「で、その大きくなったチンポを手なんかで刺激してやると、快楽と共に、ここから精子が溢れ出る。それを射精って言うんだ。そうやって自分で快楽を得ることをオナニーって言うんだ。で、さっき、俺がコウの家でズボンと下着を脱がされた時、小太郎が漏らしたと思ったやつ。あれは精子が溢れ出る前の先走りってやつだ。ちゃんとした専門用語もあるらしいけど」

「…先走り?…そう言えば…」

 その時、小太郎が何かを思い出したかのように立ち上がると、明るい空色のジャージのウエストの部分に手をかけた。そして、

「えいッ!!

 と気合いを入れ、瞬く間に適度に日焼けした両足を見せたんだ。

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 俺の目の前で自身の性器を見せ付けている小太郎。その小さく萎んだそれが何だかかわいく見えた。よく見ると、その花の蕾のようになったそこに粘着質な液体が滲み出ていた。

「…さっき、リキ兄ちゃんがコウ兄ちゃんに技を掛けられていた時、オレのここがムズムズして、気が付いたら大きくなってた。それに、何だか冷たい感覚がしていたんだぁ…!」

 顔を赤らめ、でも目をキラキラと輝かせてそれを見ている小太郎。

「そっか。小太郎も興奮してたんだな!性の快楽を感じていたわけだ!」

 俺がそう言ったその時だった。

「ねえッ!!リキ兄ちゃんッ!!

 俺の目の前に座り込んだ小太郎。

(…嫌な、…予感…!)

 小太郎の目がキラキラと輝き、顔は赤らんだまま。でも鼻息が心なしか、荒いような気がした。

「リキ兄ちゃんッ!!オレにも電気アンマをやってよッ!!

 

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