そして僕らは大人になる 第22話
「…もう、…終わりにしないか…?」
そう言った時、コウの部屋の空気が凍り付いたような感覚がした。
「…リキ…?」
俺が大声を上げたせいもあるが、コウは目を見開いたまま、微動だにしない。俺は言葉を続けた。
「…俺は…、…申し訳ないけど、コウの気持ちには応えられない。…俺は、…恋愛感情としてお前を見ることは出来ない」
そこで俺は大きく息を吸い込んだ。
「…俺…、…やっぱり、女の子の方がいい。…今まで、…ズルズルと関係を続けて来ちまったけど…」
その時だった。
「…プッ!!」
突然、コウが吹き出したかと思うと、ゲラゲラと笑い始めたんだ。
「…コ…、…コウ…?」
今度は俺が驚く番だった。するとコウは、
「…な、…何を…、…今更、分かり切ったことを言い出すんだよ…!?」
と、顔を真っ赤にしてヒーヒーと息苦しそうにし、目には涙をいっぱい溜めて言った。
「…だだだ、…だって、お前…」
「アホ!!」
「…へ?」
さっきまでゲラゲラと笑い転げて苦しそうにしていたコウが、今は真面目な顔で俺を見つめている。
「そんなの、最初から分かってるよ。中学校を卒業した時に、お前にはフラれてるんだから…!!」
「…え?…あれ?」
俺の頭の中はすっかり混乱している。すると、コウは苦笑して、
「まぁ、リキのことだから、オレが傷付かないようにって、ずっと付き合ってくれていたのかなって思うけどね…。…それとも…!!」
と言うと、悪戯っぽく笑った。
「…な、…何だよ…ッ!?」
するとコウは、
「…何だかんだ言いながらも、本当は気持ちいいことが大好きなんだろッ!?」
と言うと、俺を物凄い勢いで押し倒して来たんだ。
「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
突然のことにバランスを崩し、俺は床の上に引っ繰り返った。
「…コッ、…コウ…ッ!?」
「…ありがと」
「…え?」
俺の体の上で、コウが俺を見つめている。その顔に俺はドキッとした。
「…コ…、…ウ…?」
今までに見たことがないような、優しい笑み。ちょっと恥ずかしそうにはにかんだような、そんな笑み。
「…リキが俺の幼馴染みで、…そんなリキを俺は好きになって…、…良かった…!!」
「…コウ…」
思わず両腕をコウの背中へ回した。するとコウは、
「こらこら、リキ!!そんなことされたら、俺、お前のこと、諦めきれなくなっちゃうよ?」
と言ったんだ。
「…あ、…わ、…悪りぃ…」
両腕をコウの背中から離す。その途端、
「ひっどおおおおいッ!!そんなにあっさりとアタシを捨てるのねッ!?」
と、コウが俄かにガバッと起き上がったかと思うと、顔を覆ってそう叫んだ。
「どッ、どっちなんだよッ!?」
俺までガバッと起き上がって、顔を真っ赤にして大声を上げた。するとコウは、
「なぁんてね、ウ・ソ!!」
と笑ったんだ。
「…コウ…」
「大丈夫だよ、リキ。今までみたいに、幼馴染みで、傍にいてくれればさ!!」
「…ああ!!」
俺は大きく頷く。
「でもね、今度のクリスマスは、一緒にいたいなぁって思うんだけど」
「…いいぜ?」
「ほんとに!?」
俺はニッコリと微笑むと、
「どうせ、今年もシングルベルだしさ、せっかくだから一緒にいようぜ!!」
と言ったのだった。
「ねぇねぇ、リキ兄ちゃん」
高校生になっても、小太郎は相変わらずの甘えん坊キャラだった。
(…コイツ、…本当に彼女がいるのか?)
「…アイツ、…もしかして、彼女出来たとか?」
前にコウに言われたことが、ずっと頭から離れないでいた。
授業が終わると、小太郎はさっさと家に帰って行く。学校では俺達3人で一緒にいるのに、授業が終わると、まるで関係がないかのようにさっさと帰って行っていたんだ。
「…このところ、コウ兄ちゃんとは一緒にいないんだね?」
「…何か、…コウが忙しいみたいでさ…」
そうなんだ。
「んじゃ、お先ッ!!」
このところ、コウは授業が終わると、物凄い勢いで帰って行く。
「…コウ?」
小太郎も怪訝そうにコウの後ろ姿を見送っていた。
「ねぇねぇ、リキ兄ちゃん」
「うん?」
じっと見つめる小太郎のその真剣な表情に、俺は一瞬、嫌な予感がした。そして、それはすぐに現実となった。
「リキ兄ちゃんとコウ兄ちゃん、付き合ってるの?」
「…はああああッッッッ!!!?」
思わず、顔を真っ赤にして大声を上げていた。だが、小太郎は真剣な表情そのもので、
「だってさ、クラス中の噂になってるよ?コウ兄ちゃんの、リキ兄ちゃんを見る視線がまるで恋人のようだ、って」
「…はぁぁぁぁ…!!」
やっぱりかぁ。確かに、コウの視線が何となく、恋する乙女って感じはしていたしなぁ…。
「…小太郎…」
「うん?」
「…この後、俺んちに来られるか?」
俺がそう尋ねると、
「え!?いいの!?」
と、俄かに顔を輝かせる。
「久しぶりだなぁッ、リキ兄ちゃんの家に行くの!!だって、リキ兄ちゃん、コウ兄ちゃんと付き合っているかもしれないって思ったから、オレ、遠慮しないとって思ってたし…!!」
「わああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
小太郎の口から出た言葉に、俺は顔を真っ赤にして悲鳴に近い叫び声を上げると、物凄い勢いで小太郎の口を塞いだ。
「んんんんんんんんッッッッッッッッ!!!!!!!!」
体の小さな小太郎をすっぽりと覆うように背後から覆い被さる俺。
「こッ、小太郎ッ!!とッ、取り敢えず、俺んちに来いよッ、なッ!?」
俺はそう言いながら、モガモガと暴れる小太郎を引っ張り、教室を出た。