そして僕らは大人になる 第30話

 

「メリークリスマアアアアスッッッッ!!!!

 カチャンッ、カチャンッ、とグラスが威勢のいい音を立てた。

「…って、おいッ!!

「んえ?」

 俺がツッコミを入れるのも無理はない。そんな俺をきょとんとした表情で見つめているコウ。口元がモグモグと動いている。

「…今日…、…クリスマス…、…だよな?」

「うん」

「…中国の新年…、…じゃないよな?」

「うん」

「だったら、何で餃子なんじゃああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 そうなんだ。今、俺達の目の前ではいろいろな種類の餃子がもうもうと湯気を立てていた。

「普通、クリスマスっつったら、唐揚げとかフライドチキンとか、ポテトとかだろうがッ!!んでもって、最後はケーキって言うのがお決まりのコースだろうがッ!!

 俺はゼエゼエと息を上がらせて言った。すると、コウは口の中でモグモグとしていたものを、ゴクンと言う音と共に大きく飲み込み、

「しょうがねえだろうッ!?亮さんが練習っつって包んでくれた餃子をタダでもらって来てやったんだからさあッ!!オレら、高校生はお金がないんだから、フライトチキンとか買いたくても買えないだろうッ!?

 と言った。

「…おい…!!

「何だよ!?

 冷静にツッコむ俺と、ぷぅっと頬を膨らませているコウ。

「…お前…。…バイト代はどうしたんだよ…?…確か、日給で貰えるっつってなかったか?」

 今月に入ってから、コウはアルバイトを始めていた。だから、俺と遊ぶ機会が少なくなり、結果として俺は小太郎と一線を越えてしまったのだけれど…。

 そして、コウが勤めているバイト先と言うのが中華料理屋。何でも、日給でバイト料を支払ってくれるらしく、コウが気に入ったからだ。

 …その気に入った、と言うのは、バイトだけではないことは確かだった。それが、コウの口から飛び出した「亮さん」と言う名前。コウ曰く、亮さんは23歳。日本一の餃子を作ることを目指し、コウが勤める中華料理屋でコック見習いとして働いている。おまけにイケメン、なんだそうだ。

「バイト代を貰ってるんなら、その金でフライドチキンとか買って来られるんじゃねぇのかよ!?

「はああああッッッッ!!!?

 俺がそう言った時、コウは物凄い声を上げた。

「…リ、…リキぃ?…お前、オレ一人の金でフライドチキンとか買って来させようと思ってたわけ!?

「あったりめぇだろッ!?俺ら、金なんて持ってねぇんだし。それに言い出しっぺはお前なんだしさぁ…」

「それはいくら何でも不公平じゃんかッ!!オレが友達とクリスマスパーティーをやるって言ったら、亮さんがタダでくれるって言ってくれたんだぜ!?それで十分じゃねぇかよッ!?

「いや、だからッ、それではクリスマス感が出ないって…」

 その時だった。

「美味しいいいいいいいいいッッッッッッッッ!!!!!!!!

 大きな声が聞こえ、幸せオーラが物凄い勢いで俺とコウを包み込んだ。

「…あ…」

「…小太郎…?」

 小太郎が目を潤ませ、満足気な表情で、いや、絶対満足顔で餃子をモグモグと食べていた。

「ねぇねぇッ!!力兄ちゃんもコウ兄ちゃんも、食べてみなよッ!!この餃子、中にいろいろな具材が入っているんだよッ!?

 その顔の幸せなことと言ったら…。

「…はぁぁ…」

 怒りを一気に削がれ、俺とコウは同時に溜め息を吐いていた。

 

「じゃああああんんんんッッッッ!!!!

 小太郎の一言で俺とコウの喧嘩も収まり、暫く餃子パーティーを楽しんでいた時だった。ちょっと席を外したコウが部屋へ戻って来るなり、俺と小太郎に袋に入ったものを投げ付けて来た。

「…ッッッッ!!!!…こッ、…これ…ッ!?

「…わぁ…」

 俺が驚くのも無理はない。

 俺達が手にしていたもの。俺達のメンバーカラーの生地で作られたヒーローの全身タイツだったんだ。俺のものは黒色を基調とし、肩から胸にかけて金色の装甲のようなものがある。そして、手首とすねの部分には金色のデザインが施され、ベルトの中心部分には「王」と言う文字をあしらったものがあった。

 一方、小太郎はと言うと胸のあたりまで装甲に覆われ、その中心部分には明るい空色の星がかたどられていた。それ以外は全身、明るい空色を基調とした生地で覆われていたんだ。

「…ク、…クリスマス…プレゼント…、…だよ…」

 ちょっと顔を赤らめたコウがそう言った。

「…ッ!?…まッ、…まさか、お前…」

「いいんだよッ、別にッ!!オレがそうしたかったんだからさあッ!!

 そうなんだ。

 コウがクリスマスケーキやらフライドチキンを買えなかった理由。それは、日給を俺達の全身タイツにつぎ込んでいたからだった。

「…お…、…お…、…お前ッ、だったら最初からそう言えば…」

「言えるかッ、恥ずかしいわッ!!

「…何で…?」

 俺とコウが顔を真っ赤にしているのに対し、小太郎はきょとんとしている。

「…コウ兄ちゃん…。…オレ達のために、って言うか、これを買うためにバイトしてたんでしょ?」

 小太郎はニッコリすると、

「オレ、すっげぇ嬉しいよッ!!コウ兄ちゃんがオレ達のために、こんな素敵なプレゼントをくれたんだからッ!!

 と言ったんだ。

「…小太郎…」

 その言葉に、コウは顔を赤らめて照れる。

「…コウ…」

「うん?」

 俺はその時、顔から火が出るほど真っ赤になっていた。

「…ありがと…。…それから…、…悪かった…」

「…クックック…!!

 その時、コウは意地悪い笑みを浮かべていた。

「…リキぃ…?…この貸しは、高くつくからな…!!

「…は?」

「取り敢えずさッ、着替えようぜッ!!

 コウに言われるがまま、俺達は一斉に着替え始めた。

 初めて見る全身タイツ。テレビで芸能人が着ているのを見たことがあったが、自分で着るとなると話は違う。俺達は四苦八苦しながら、何とか、着替えてみた。

 

「…よしッ!!…行くぜッ!!

 俺はそう言うと、

「キングレンジャーッ!!

 と、黒い全身タイツに身を包み、自分で考え出したポーズを決める。

「キバレンジャーッ!!

 次はコウが、白い全身タイツに身を包み、自分で考え出したポーズを決める。そして、

「コグマスカイブルーッ!!

 と、最後は小太郎が、明るい空色の全身タイツに身を包み、同じように自分で考え出したポーズを決めたんだ。

「…って…、…言う…か…!!

 俺、顔が真っ赤。次の瞬間、

「うぅわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 と、両足を振り上げて叫んだ。

「…はっず…ッ!!…めっちゃ、ハズいんだけど…ッ!!

「あはははははははは…ッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その横で、小太郎が笑い転げている。

「…何これ…ッ!?…すっげぇ、楽しいんだけどおおおおッッッッ!!!!

「…マジか…」

「…フフッ!!…懐かしいだろう?」

 コウは満足げに頷いている。コウは白色を基調とし、俺達と同じように胸に装甲のようなものがあった。そのデザインと言うのが、コウらしいと言うか、中華って感じだった。

「小学生の頃を思い出すなぁ」

「…フフッ!!

 コウがそう言った時、小太郎が静かに微笑んだ。

「…しょうがねぇなぁ…」

 いつしか、俺の顔にも笑みが浮かんでいた。

「…で?…どうすんだ?」

 俺がそう言った時だった。不意にコウと小太郎が顔を見合わせ、ニヤリと笑ったかと思うと、

「こうするんだよッ!!

 と言い、一斉に俺に飛び掛かって来たのだった。

 

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