大義名分 第1話
ゆらゆらと揺らめく亜空間・不思議界。まるで水の中に液体を入れ、静かに掻き混ぜたかのようなマーブル上の光の線がいくつも走っている。
ゴウウウウンンンン、ゴウウウウンンンン…。
その中を、黒い大きな要塞が静かに漂っていた。不思議宮殿。
「うううう~むうううう…!!」
その大広間になった奥の部分にの菱形の赤い壁のようなところにしっかりと嵌め込まれたかのように、とてつもなく巨大な顔が鎮座していた。大帝王クビライ。
「ぐうううう…ッッッッ!!!!」
真っ赤に光る目。その目は左右に1つずつだけではなく、額の中心部にもある。そして、その下には鋭い牙のような歯が。
「おのれ、忌々しいシャイダーめ!!」
クビライは、大地をも震わせるような低い声で唸り声を上げた。
「幾度も幾度も我々の地球侵略を阻止しおって…!!」
「大帝王クビライ様ッ!!こうなれば、もう手段を選ばず、地球を破壊しましょうッ!!」
顔に真っ赤な痣のようなものがある全身黒ずくめの男・ヘスラー指揮官が鼻息荒く言った。
その時だった。
「それはなりませんッ!!」
柔らかいが凛とした声の持ち主が2人の間に割って入った。全身白いドレスのようなものを身に纏い、その頭には角の付いた大きな丸い冠を被っている。神官ポー。
「…ポー…」
「地球は美しいまま、おじい様に差し上げなければならないのですッ!!」
「いつまで生温いことを言っているッ!?最早、一刻の猶予もならんのだッ!!シャイダーめのいる地球を一刻も早く侵略し、この全宇宙をクビライ様が支配する世界へと変えるのだッ!!」
男性なのか、女性なのか分からない、中世的な風貌のポーを静かに見つめるクビライとは正反対に、ヘスラーはイライラを隠せず、ポーにまで食って掛かる。
「なりませんッ!!地球はまさに宇宙のオパール。あの暗黒の世界に浮かぶ、青く美しい星なのです!!私はそれを破壊することなく、美しいまま、おじい様に差し上げたいのです!!」
「だが、シャイダーめがいるではないかッ!!」
ヘスラーが目を見開き、ポーに怒鳴る。その時だった。
「…ポーよ。…何か、…策があるのか…?」
クビライが尋ねると、ポーはその長い睫毛の瞳を俯き加減にし、
「…シャイダーを精神的に追い詰めるのです…」
と言った。
「だが、どうやって!?」
幾度となく煮え湯を飲まされて来たヘスラーはまだまだ信じられないと言った表情をしている。するとポーは、
「フーマの大義名分をお忘れですか?」
と言った。
「地球侵略に対しては、戦闘によって星を傷付けることなく、美しいまま乗っ取るため、人間の心を闇で覆い、内面から支配すること。これが、地球侵略の我々フーマの大義名分だったはずです!!」
するとポーはクルリとクビライの方へ振り向くと、
「おじい様ッ、不思議獣をッ!!」
と言った。その瞬間、クビライの口から巨大な卵が放たれ、それはクビライの目から放たれる妖しい光線によって温められ、ビシビシと言う音と共に殻にひびが入った。
「ヒイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!」
けたたましい叫び声を上げ、1体の不思議獣がその中から現れる。全身を触手のようなものが覆い、体はドロドロとした粘液のようなものに包まれている。
「…なッ、…何だッ、これは…ッ!?」
ヘスラーが眉を顰める。だがポーは平然と、
「不思議獣ヌメヌメです」
と言った。
「この不思議獣を使い、シャイダーめを必ずや、血祭りにしてご覧に入れます。…そして…」
ポーはチラリと大広間の入口を見たかと思うと、
「おいでなさいッ、地獄の使者達よッ!!」
と大声を上げた。すると、スゥッとその扉が左右に開き、そこから5人の若者が入って来た。身軽な服装を身に纏い、女性に人気があるであろう美少年と言った風貌だ。
「…ギャル軍団が、男にでもなったのか?」
ヘスラーが首を傾げると、
「ヘスラー様。我々は先程からヘスラー様のお傍に…。それに、我々はあんなにも子供ではございません…!!」
と、黒い服を身に纏った長身の女性・ギャル1がうんざり気味に言った。その後ろには、紫色の服を身に纏ったギャル2、赤色の服を身に纏ったギャル3、黄緑色の服を身に纏ったギャル4、そして、ピンク色の服を身に纏ったギャル5が控えていた。
「こやつらは私が密かに訓練を施していたフーマ5戦士。攻撃性に優れ、その力と団結力で、必ずや、シャイダーめを圧倒することでしょう」
するとその5戦士のうち、赤色の服を身に纏った少年が、
「フーマ5戦士が一、ジンッ!!」
と、剣を振り翳す。続いて、緑色の服を身に纏った少年が、
「フーマ5戦士が一、ダイッ!!」
と、ナックルを構える。そして、青色の服を身に纏った少年が、
「フーマ5戦士が一、ブンッ!!」
と、身軽に飛び上がってポーズを決める。そして、水色の服を身に纏った少年が、
「フーマ5戦士が一、ダンッ!!」
と、槍を振り回す。最後に、黄色の服を身に纏った少年が、
「フーマ5戦士が一、ボーイッ!!」
と、ダガーを構えた。
「…おお…!!」
その時、クビライの目は細くなっていた。
「どいつもいい面構えをしておる。その悪意に満ちた眼差しと笑み、どれも楽しみだ…!!」
「はい、おじい様。彼らは元はと言えば、戦闘員ミラクラー。その中から群を抜いて攻撃力が高かった者を選抜し、私の妖術とフーマの力によって強化改造し、シャイダーを葬るための戦士としたのです」
「…それで…。…その者達をどうすると言うのだ?」
気に入らないのか、ヘスラーはムスッとした表情でポーに尋ねる。するとポーは、
「この者達をシャイダーに近付けるのです。彼は子供好きで、優しさが取り得の人間。その優しさが、命取りになることを、身を以って教えて差し上げます」
「やってみるが良い、ポーよ。この作戦の指揮は全権、お前に任せよう」
「ありがとうございます、おじい様」
するとポーは、フーマ5戦士の方を振り向き、
「さぁ、お前達。そして、不思議獣ヌメヌメ!!行くのですッ!!シャイダーめを徹底的に陵辱して差し上げなさいッ!!」
「「「「「はッ!!」」」」」
「ヒイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!」
次の瞬間、5人と1体の姿はその場から消えていた。
大帝王クビライ指揮する不思議界フーマ。暗黒宇宙最大にして最悪の宇宙犯罪組織。全銀河規模で侵略を図るほどの戦力を有しており、その力で次々と銀河系を消滅させて来た。
実はこのフーマと地球とは浅からぬ縁があった。1万2千年前、太平洋上にあったムー大陸。実は、そこはフーマの植民地でもあったのだ。大帝王クビライはそのムー帝国の支配者でもあった。
そして、大帝王クビライとシャイダーとも浅からぬ縁があった。1万2千年前、クビライは戦士シャイダーとの戦いで首と胴が切り離されてしまったのだ。そのため、現在のクビライは不思議宮殿の大広間で首だけの姿で鎮座しているのだった。
そんなクビライの孫娘にあたるのが神官ポー。中世的なイメージで、作戦立案や様々な宗教的儀式を執り行う。1万2000歳と言う年齢にも拘らず眉目秀麗な顔立ちである。
「…私は…、…あなたのエキスが欲しい…!!…シャイダー…、…あなたの、…その若々しい雄としてのエキスが…!!」
そう言った時、ポーの顔は醜悪な鬼女になっていた。