大義名分 第3話

 

「おーい、ジンくーん!!

 それから暫く経って、沢村はしんと静まり返る校舎の中を一人彷徨っていた。

(…一体、…どこへ…?)

 

「じゃあ、僕達、準備をして来ますから、お兄さんはここで待っていて下さい」

 ジンと言うコードネームの少年がニコニコしながら沢村に言った。

「準備って?」

 沢村が尋ねると、

「いろいろあるんですよぉ、準備が!!

 と、今度はブンと言うコードネームの少年が言った。

「準備が出来たら迎えに来ますので、暫くお待ち下さい」

 ジンが再びそう言った時、ジンを先頭にダイ、ブン、ダン、ボーイが校舎の中へ消えて行った。

 

 それからいくら待てど、ジン達が再び戻って来る様子がない。いや、それどころか、人の気配さえも消えてしまっている。

(…まさかッ!!…フーマッ!?

 沢村を誘き寄せるために、フーマがジン達5人を攫い、人質にしているのかもしれない。

「ジン君ッ!!ダイ君ッ!!ブン君ッ!!ダン君ッ!!ボーイ君ッ!!

 それが、自身を誘き寄せるための罠だと言うことに気付かずに、沢村は校舎の中へ駆け出していた。

 

「…」

 じっと耳を澄まし、神経を集中させる。

 コツーン、コツーン…。

 だが、聞こえて来るのは自身の心臓の音と呼吸の音、そして、足音だけだ。

(…みんな、…一体、どこへ…?)

 その時、沢村は校舎の裏側へ出て、その先にある体育館のような大きな建物の前へ辿り着いた。そこには重々しい鉄の扉がある。

「…」

 意を決し、沢村はそれに手を掛ける。そして、それを力を入れて左右に引っ張った。

 …ギッ!!…ギイイイイ…ッッッッ!!!!

 鉄が軋む音が耳を劈く。それと同時にその鉄の扉が床に擦れる鉄サビのような臭いが鼻を掠めた。

「…?」

 しんと静まり返ったその建物内。

「ジン君ッ!!ダイ君ッ!!ブン君ッ!!ダン君ッ!!ボーイ君ッ!!

 埃臭い臭い。太陽の光を浴びてキラキラと輝く小さな屑。辺りを警戒しながら、ゆっくりと中へ入ったその時だった。

 ギイイイイッッッッ!!!!ガシャアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 突然、背後の重い鉄の扉が物凄い音を立てて閉まったのだ。

「ッッッッ!!??

 ぎょっとなって背後を振り返る。と、その時だった。

 クスクスクスクス…!!

 どこからともなく笑い声が聞こえて来る。

「…みんなかい?」

「あ〜あ。待てって言ったのに…!」

「何で入って来ちゃったのかねぇ…!」

「でももう遅いよ!ここからはもう出られないよ!」

「あと、お前が出来ることと言えば…!」

 聞き慣れた声。ジン、ダイ、ブン、ダンだ。だが、その声がどこか禍々しいことにも気付いていた。そして、

「お前が死ぬことだけだッ、シャイダーッ!!

 と、ボーイの声が聞こえたその瞬間、沢村に向かって無数のバスケットボールが飛んで来たのだ。

「…な…ッ!?

 それらのボールを避ける。両手で叩き落したり、真っ白なジーンズに包まれた両足で蹴り上げたりを繰り返す。だが、それらのボールは一度は遠くへ飛んで行くものの、次の瞬間、時間が巻き戻されるかのようにバックスピンが掛かり、再び沢村へ向かって飛んで来るのだ。

「はッ!!

「てやッ!!

「ふんッ!!

 何度も何度も叩き落し、蹴り上げる。だが、何度叩き落しても、何度蹴り上げても、それらのボールは時間を巻き戻されたかのようにバックスピンが掛かって沢村へ飛び掛かって来る。

 ドガッ!!

 バキッ!!

 バシッ!!

 そして、それが沢村の腹、足、腕、顔などに容赦なくぶつかる。

「…く…ッ!!(…フーマの罠かッ!?)」

 何度かバク宙をして何とか、間合いを取る。そして、

「焼結ッ!!

 と叫んだ。その途端、沢村の体は眩い青い光に包まれ、その光が消えた時、沢村の体を銀色と青色を基調とした装甲が包み込んでいた。

 宇宙刑事シャイダー。沢村が母艦バビロス号から放たれるプラズマ・ブルーエネルギーで構成されるコンバットスーツを身に纏った姿だ。その装着に要する時間は僅か1ミリ秒だ。

「とぅッ!!

「とぅッ!!

 沢村は剣型の武器・レーザーブレードを取り出すと、次々に襲い掛かって来るバスケットボールを一刀両断する。

「とぅッ!!

「とぅッ!!

 だが、いくつか叩き切ったその時だった。

 ズガアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 そのうちの1つが突然、爆発を起こし、その中から無数の触手が飛び出し、沢村に襲い掛かって来たのだ。

「…な…ッ!?

 その触手はあっと言う間に沢村の両手、両足に絡み付き、身動きを封じた。

「…ッ!!

 そんな沢村目掛けて、更なるバスケットボールが飛び掛かって来る。

 ズガアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 バアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 そして、それらは沢村のコンバットスーツにぶち当たり、次々に爆発する。

「があッ!!

「うわあッ!!

「ぐわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

「ヒイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その時、沢村の両手、両足を拘束していた触手がスゥッと解かれ、沢村の体が宙を舞った。と同時に不思議獣が甲高い声を上げて襲い掛かって来た。そして、手にしている巨大な槍状の武器を沢村へ叩き付けたのだ。

 ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!

 鈍く重い痛みが沢村を襲う。

「ぐはああああッッッッ!!!!

 物凄い勢いで吹き飛ばされ、沢村は地面をゴロゴロと転がった。

 その時だった。

「あははははははははッッッッッッッッ!!!!!!!!

 再び、聞き慣れた声が聞こえて来た。

「あ〜あ〜、ざまあねぇなぁ!」

「フフッ!!オレ達がフーマに捕まったとでも思った?」

「いやいや、オレら、フーマに捕まってないからさ!」

「だって、オレ達…!」

「もとからフーマだからさッ!!

 その声がした時、沢村の目の前に、見慣れた顔付きの少年5人が現れた。

「…ま…さ…か…!!

「そうです。そのまさかです」

 その声に沢村はその場で凍り付いた。

「…神官…ポー…!!

 

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