大義名分 第9話
頬を吹き抜ける冷たい風。シャイダーの銀色のマスクの左側が割れ、中から鬱血した沢村の顔が見える。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
どんな不思議獣と戦っても、どんなにヘスラー指揮官やギャル軍団と戦っても決して壊れることがなかったマスク。だが今、ダイの鋼鉄の拳に殴られただけで、あっと言う間にそれは割れてしまっていた。
「…フフッ!!」
呆然とする沢村の表情を見て、神官ポーが笑みを浮かべる。
「シャイダーはどうやら、あなたの力が信じられないものと思っているのでしょう。そして、その心の中には恐怖と言う言葉が湧き上がって来ているのかもしれません」
「…ククク…!!」
そんなポーの言葉を聞き、ダイは目をギラギラと輝かせ、不気味な笑みを浮かべる。
「これだけのことをしてやりゃ、アイツだってそろそろ戦意を喪失するだろうよ」
「侮ってはなりません」
その時のポーは、再び厳しい目付きをしていた。
「どんな窮地に追い詰められても決して挫けない。それがシャイダーの心情。たかがマスクを粉砕しただけで、戦意を喪失するとは思えません。侮ってはなりません」
「…じゃあ…」
すると、今度はジンがゆっくりと歩き始める。
「…次は、オレが相手をするとしようか…!!」
「…ぐ…ッ、…うううう…ッッッッ!!!!」
マスクが割れたせいだろうか。体中を走る悪寒と激痛が激しさを増している。
「だがッ!!」
レーザーブレードを杖にするかのようにして、沢村はゆらりと起き上がる。
「…オレは…。…負けるわけには行かんッ!!…全銀河をフーマの魔の手から救わなければ…!!」
「…へぇぇ…」
ザッと言う地面を蹴る音が聞こえた時、沢村は厳しい眼差しで目の前の男・ジンを睨み付けた。
(…こいつ…!!)
瞬時にして、ジンが今まで戦った4人とは違うと言うことを感じ取った。
「…ククク…!!」
真っ赤に光る剣を持ち、ニヤニヤと笑っているジン。
「この不思議時空に引き摺り込まれたことを、運がなかったと思うんだな!!」
ジンがそう言った時、沢村はニヤリと笑い、
「お前は不思議時空にいなくとも、他の4人と比べて格段にレベルが違うと思うがな」
と言いながらレーザーブレードを構える。その言葉に、ジンはフフッ、と笑うと、
「さすが宇宙刑事。一発で見抜くなんてな…!!」
と言いながら、その真っ赤に光る剣を構えた。
「…」
「…」
お互いがじっとお互いを見つめ、微動だにしない。その気迫に、ポーをはじめ、ダイ達も何も言えずにいた。
「「行くぞおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」」
お互いの目がカッと見開かれ、一斉に飛び出す。
「とぅぅぅぅぅッッッッ!!!!」
「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
気合いと共にお互いに剣を振り上げると、
ギイイイイイイイインンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う鋭い金属音と共に、お互いの剣から火花が飛び散る。
「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「とぅぅぅぅぅッッッッ!!!!」
そして、お互いの体を捕らえ、
ズガアアアアンンンンッッッッ!!!!
と言う音と共に、お互いの体から火花がスパークする。
「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「とぅぅぅぅぅッッッッ!!!!」
ズガアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「とぅぅぅぅぅッッッッ!!!!」
バアアアアンンンンッッッッ!!!!バアアアアンンンンッッッッ!!!!
お互いが剣を振るい合い、お互いの体をスパークさせる。
「ポッ、ポー様ッ!!このままじゃ、ジンが…」
ブンが焦って言う。だがポーは、
「我々が出る幕ではありません」
と静かに言った。
「ジンは自身の信念に従い、武士道に則ってシャイダーと戦っているのです。ここで我々が力添えなどしようものなら、非道と誹りを受けるでしょう」
その目はじっと沢村とジンを見つめていた。
どのくらい時間が経っただろう。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
沢村も、ジンも、相当息が上がっていた。目の前にはお互いに剣を突き出し、その先にいる相手をじっと見つめている。
「…そろそろ…、…ケリを付けようか…」
「…ああ…!!」
お互いにニヤリとすると、沢村はレーザーブレードをスゥッと撫でる。
「レーザー、ブレードッ!!」
すると、その剣が眩い青白い光に包まれる。
「…はぁぁぁぁああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ジンの体は真っ赤なオーラに包まれ、そのオーラが手にしている剣に移って行く。
「…」
「…」
ジリッ、ジリッ、と間合いを詰めて行く2人。そして、
「「はああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」」
と言う掛け声と共に、お互いの剣が流線形を描いた。
ズバアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
お互いが背を向け合い、剣の切っ先を宙に投げている。
「「「「…」」」」
ダイ、ブン、ダン、ボーイはその気迫に圧され、声を上げることも出来ない。だが、ポーは目を輝かせ、口元を綻ばせていた。と、次の瞬間、
バアアアアンンンンッッッッ、バアアアアンンンンッッッッ!!!!ズガアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う耳を劈くほどの衝撃音と共に、
「がああああッッッッ!!!!うぅわああああッッッッ!!!!ひがああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と言う沢村の絶叫が辺りに響き渡り、コンバットスーツからは夥しい量の火花が散っていた。そして、沢村の周りが煙に包まれた時だった。
…ガンッ!!…ガラ…ン…!!
鈍い音が聞こえた時、その煙の中からシャイダーの銀色の、いや、既に黒く焦げ、あちこちが割れたマスクが転がった。
「…やッ、…やった…!!」
ブンが目を輝かせる。暫くして煙が収まって来る。
シュウウウウッッッッ!!!!シュウウウウッッッッ!!!!
沢村のコンバットスーツからは夥しい量の煙が立ち込め、あちこちが破壊され、回路が剥き出しになっていた。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
剥き出しになった沢村の顔。頭から血を流し、あちこちが鬱血している。
「…勝った…!!」
ポーが安堵の表情を浮かべる。その時、沢村は、
「…う…ッ!!」
と一言だけ呻くように言うと、膝をガクリと折り、前のめりにドサッと倒れたのだった。