殿御乱心! 第3話
「…たッ、丈瑠を犯すぅッ!?」
閑静な住宅街の一角から、素っ頓狂な声が響き渡った。と同時に、
「わあああッッッ!!!!」
と言う、やや甲高い少年の声も。
「…はぁ…、…はぁ…!!」
武家屋敷のような建物の一室で、緑色のジャンパーを羽織った一人の少年が荒い息をしている。シンケングリーン・谷千明。
「…んんッ!!んんん―――ッッッ!!!!」
そんな千明に口を手で押さえられ、もがもがと変な声を上げている、金色のジャンパーを羽織った青年。シンケンゴールド・梅森源太。
「…」
千明は辺りを窺うように息を殺している。やがて、源太の口から手を離した。
「ぷはッ!!」
源太が大げさな音を立てる。そして、
「…あぁ、…死ぬかと思ったぁ…!」
と、その場にへなへなと座り込んだ。
「ばっか!声がでけえよッ!!」
千明はそう言うと、源太の頭を思い切り引っ叩いた。
「痛ってッ!!」
源太はそう声を上げると、思い切りひっくり返った。
「誰かに聞かれたらどうすんだよッ!!」
千明が倒れ込んだ源太を仰向けにし、その腹の上にどっかと座り込んだ。
「ぐえッ!?」
予期しなかったことが起こったため、源太がカエルの潰れたような声を上げる。
「…ちッ、…千明ぃッ!?」
自分の腹の上で腕組みをして自分を睨み付けている千明を、怯えた表情で見上げる源太。
「源ちゃあん。オレにまたお仕置きされてぇのかなぁ?」
ニヤッとすると、指をポキポキと鳴らす千明。すると源太は、
「…わッ、悪かったッ!!…千明ッ!!…ごめんッ!!」
と目の前で両手を合わせた。
「…よしッ!!」
千明は大きく頷き、ようやく源太の腹の上から下りた。
「…で?」
暫くの後、源太がようやく口を開いた。
「あん?」
千明がきょとんとした表情で源太を見つめる。
「どうして、いきなりタケちゃんを犯す、だなんて…?」
「決まってるだろッ!?」
千明が酷く興奮した様子で、源太の顔に自身の顔を近付ける。その勢いに、源太は思わず仰け反る。
「あの野郎、散々オレを痛め付けやがってぇッ!!いくら手合わせとは言え、もう少し手加減しろってんだッ!!」
「…」
顔を真っ赤にして息巻く千明を、目を点にして見ている源太。
(外道衆と戦っているんだし、手合わせが厳しいのは当たり前じゃねぇの?)
源太は胸の内でそう思っていても、決して口には出さないでいた。
「それにあの野郎、オレにだけ滅茶苦茶やりやがってぇッ!!もう、我慢ならねぇッ!!」
(いやいや、それは千明、お前のレベルが低いだけだ。現に、オレや流ノ介、茉子、ことはは受け止めているぞ?)
源太は、千明や自身と同じように丈瑠に仕える3人の剣士を引き合いに出し、冷静に考えていた。流ノ介とは、シンケンブルー・池波流ノ介、茉子とは、シンケンピンク・白石茉子、そして、ことはとは、シンケンイエロー・花織ことはのことである。
(…それに千明。それはお前の単なる被害妄想にしか過ぎないぞ?…まぁ、…タケちゃんも私情が絡んでいると言ったらそうかもしれないが…)
「聞いてんのッ、源ちゃんッ!?」
ふと我に返った時、
「うわあああッッッ!!!!」
と源太は大声を上げて、背後へずざざっと後退りする。目の前に、千明のどアップの顔があったからだ。
「…はぁ…、…はぁ…!!…びッ、…びっくりしたぁ…ッ!!」
普段からクリクリとしている目を、今にも眼球が飛び出して来そうなほどに大きく見開く源太。そして、胸を大きく上下させている。
「…聞いてなかったなぁ、源ちゃあん?」
じりじりと自分のもとへにじり寄って来る千明に恐怖を覚える源太。
「…んなッ、…んなことァねぇよ?…ちゃんと、聞いてたさ…!!」
慌てて言う源太。そして、
「で?どうやってタケちゃんを犯そうってんだ?」
と逆に千明に聞いてみた。すると千明は、
「オレ独りじゃ、丈瑠を犯せねぇよ?」
とあっけらかんとして言う。
「…ま、…まさか…!?」
俄かに顔を青ざめさせる源太。すると千明は大きく頷き、
「もちろん、源ちゃんにも手伝ってもらうからな!」
と源太の肩をポンと叩いた。
「はあああッッッ!?」
また大きな声を上げる源太。
「わああああッッッッ!!!!」
そして再び、千明も大声を上げ、源太の口を塞いだ。
「んんん―――ッッッ!!!!」
もがもがと変な声を上げる源太。
「…」
再び息を殺し、辺りを窺う千明。暫くの後、源太の口から手を離す千明。
「ぷはッ!!」
再び変な声を上げる源太。
「…で?」
更に暫くの後、息を整えた源太がようやく口を開いた。
「…どうやってタケちゃんを犯すって?」
変なことに巻き込まれたと、不安に駆られる源太。不機嫌な顔をして千明を見る。
「簡単なことだよ!」
そう言う千明の瞳は、悪戯っ子のようにキラキラと輝いている。
「2人で同時に飛び掛れば、丈瑠に隙が生じる。そこを狙ってだな…!」
千明はそう言うと、源太の両腕を掴み、立ち上がらせた。
「?」
突然のことに戸惑う源太。すると千明は、源太の体に自身の体をピッタリとくっ付けた。
「…ち、…千明…?」
一瞬、ドキッとする源太。
「丈瑠に近付いた瞬間、こうするんだよッ!!」
千明が言った途端、
「あッ!!」
と源太が艶かしい声を上げ、腰を後ろへ引いた。
「…あッ!!あッ!!…ちッ、…千明…ぃッ!?」
千明の右手が、源太の股間を静かに撫でていたのだった。