殿御乱心! 第5話
そして、話は最初に戻って――。
「いざッ!!」
シンケンレッドに一筆奏上した丈瑠が、シンケンマルを構えた。柄を握り締める丈瑠の拳。真っ白なグローブに包まれたそれがギリギリと音を立てている。そして、光沢のある鮮やかな赤のスーツからは、ただならぬオーラが漂っていた。目の前にいる獲物を確実に仕留めようとするような、そんな気迫が篭っていたのである。
「「「参るッ!!!!」」」
丈瑠の叫び声と同時に、あと2人の声も混ざっていた。
「うおおおおッッッッ!!!!」
少年のような叫び声を上げながら、光沢のある鮮やかな緑のスーツに身を包んだ男が駆け込んで行く。シンケングリーンに一筆奏上した千明だ。
「行くぞぉッ、千明ぃぃぃッッッ!!!!」
丈瑠が千明に向かって飛び出して行く。普段はとても冷静な、ちょっとやそっとでは動じない丈瑠が、この時ばかりは違っていた。外道衆が襲来して来ない、丈瑠にとっては束の間の平和を楽しんでいた昼下がりを千明によって掻き乱された。そして、普段はやる気がないくせに、手合わせを自ら申し込んで来た。それはそれでいいことなのだが、その千明の態度が気に食わなかった。
一体、どう言う風の吹き回しなのだと戸惑っていると、千明が丈瑠を挑発するような行為に出たのだ。普段はでかい口を叩いているくせに、本当は手合わせが怖いんだろうとか、単なる見掛け倒しなんじゃないのか、とか。ただでさえ、不機嫌な状態にそんなことを言われては、さすがの丈瑠も我慢の限界を超えた。そして、今に至る。
「はああああッッッッ!!!!」
千明がシンケンマルを振り翳し、丈瑠に突っ込んで行く。
「甘いッ!!」
丈瑠は千明の剣先の動きを読み、素早くそれを交わした。
「俺に対して生意気なことを叩いたその根性ッ、徹底的に叩き直してやるッ!!」
もう既に、このような言葉を吐くこと自体が、丈瑠が冷静さを失っていることを周囲にばらしていることなど、当の丈瑠は分かってはいなかった。
「…どうかなァ?」
「木」の文字をあしらったマスクの中で、千明は余裕の笑みを浮かべている。そして、
「オレ以外にもう1人いるってこと、忘れないで欲しいんだけどね!」
と呟き、丈瑠の懐に入るように身を低くした。
キーンッ!!
次の瞬間、鋭い金属音がして、丈瑠と千明のシンケンマルが音を立ててぶつかった。そして、そのぶつかったところからは、衝撃の激しさを窺わせる火花が飛び散ったのである。
「ぬううううッッッッ!!!!」
自身の懐に入り込んでいる千明に力を加えるように、丈瑠がシンケンマルをぐいぐいと押さえ込む。「火」の文字をあしらったマスクが、その凄まじさを語るかのように。
「…千…明ぃ…ッ!!」
「…フフッ!!」
だが、片膝をつきながらも、千明はニヤニヤと笑っている。と、その時だった。
「あ〜あ〜、タケちゃんはいつもアツいねぇ…!!」
もう1人の男性が声を上げた。光り輝く金色と青のスーツを身に纏った、シンケンゴールド・源太だ。「参る」と言いながらも丈瑠と千明の成り行きを見守っているかのように、サカナマルを頭の後ろで抱え込み、呑気そうに突っ立っていたのだ。
そんな源太が、丈瑠の背後に回り込む。
丈瑠の懐に入り込んでいる千明のせいで、丈瑠の体が少し屈んでいる。そして、どっしりと腰を落としているせいか、足もかなり開いている。つまり、そんな丈瑠の姿勢は、源太からすれば、自身に向かって丈瑠が尻を突き出しているようにしか見えなかった。無防備な丈瑠の尻。それは太陽の光に照らされて、その膨らみを黒いズボンの中でクッキリと存在感を現していたのである。
「タぁケちゃんよぉ、もう少し力を抜かねぇと、体が保たねぇよぉ?」
「…うるさいッ!!」
丈瑠の体からは全く力が抜けて行かない。
「…こいつは、…千明だけは、…根性を叩き直さなければ、いけないんだッ!!」
シンケンマルを押さえ付けながら、丈瑠が呻くように言う。その声を聞いた源太は、
「やれやれ」
と大きく溜め息を吐き、丈瑠の背後に立った。
「?」
丈瑠は源太の雰囲気を感じ取る。
「タケちゃんよぉ…。…真面目なのはいいことだけどよ、もう少し楽に行こうぜぇ?」
そう言いながら、源太は丈瑠の両方の尻に手を伸ばしたかと思うと、思い切り鷲掴みしたのである。
「んあッ!?」
突然のことに、丈瑠が素っ頓狂な声を上げる。
「…んな…ッ、…げ…、…源太…ッ!?」
「うほー!!タケちゃんのケツ、すんげぇ、筋肉質なのな!!」
そう言いながら源太は、丈瑠の尻を何度か揉み込み始めたのだ。
「んあッ!!あッ!!あッ!!」
丈瑠の神経が源太の方へ注がれる。そして、千明を押さえ付けているシンケンマルの力が緩んだ。
「チャ〜ンスッ!!」
すかさず、千明は丈瑠の剣を弾いた。
「うわッ!!」
それに気付いた時には既に遅く、丈瑠は後ろへよろめいた。
「おぉっとッ!!」
急いで源太が丈瑠を羽交い絞めにするようにして抱え込んだ。
「…げ…源太…ッ!?」
未だに状況が把握出来ていない丈瑠。
「大丈夫かぁ、タケちゃん?」
「光」の文字をあしらったマスクの中で、源太もニヤニヤしながら声をかけた。
「…はッ、…離せぇッ!!」
丈瑠が源太の両腕を振り解く。
「げッ、源太ぁッ!!」
クルリと踵を返し、源太を睨み付ける丈瑠。だが、そんな丈瑠にお構いなしに源太は、
「ほい、怒りの矛先はそっち!」
と言いながら千明を指さした。
「あれえ?もう終わりぃ?」
千明の軽い声が響く。
「…きっさまぁぁぁッッッ!!!!」
怒り狂った丈瑠が、再びシンケンマルを構える。
「覚悟しろおおおおッッッッ!!!!」
そして、千明に向かって、物凄い勢いで突進して行く。
「…こ、…これは…!」
ニヤニヤしながら言う千明。
「…ちょっと、…ヤバイかもね…!!」
丈瑠の気迫に、千明は冷や汗を垂らしながら、ニヤリとした。