殿御乱心! 第10話
翌日――。
「…痛っ…てぇ…ッ!!」
夕暮れに差し掛かった頃、屋敷の中に戻って来たシンケンゴールドに一貫献上する源太とシンケングリーンに一筆奏上する千明。源太が顔を思い切りしかめ、腰に手を当ててよろよろと部屋に入って来た。
「…丈瑠の野郎、…今日はいつになく手加減なかったじゃねぇか…ッ!!」
涙を目に浮かべ、
「それもこれも、千明ッ!!てめえのせいだぁッ!!」
と一緒に源太の部屋に入って来た千明に掴み掛かった。ところが、千明は、
「…そう?」
とけろっとした表情をしている。
「おまッ!!あんだけボロボロにやられておいて、その言いぐさは何なんだよッ!!」
泣きそうな表情になって千明に言う源太。
「…確かに、今日の鍛錬はキツかった、…と思う。今までにないくらい、丈瑠との手合わせも激しかったしな。実際、流ノ介が物凄くびっくりしていたしな…」
流ノ介とは、シンケンブルーに一筆奏上する池波流ノ介のことである。千明とは正反対に、自ら進んで鍛錬を行うほどの実力の持ち主で、シンケンレッドに一筆奏上する丈瑠の攻撃を楽しむほどの余裕があった。
「ちぃあぁきぃッ!!おまッ、本当にどうしちまったんだよぉッ!!」
源太が千明の両肩を掴み、首がもげるのではないかと言うほどガクガクと千明を揺さぶる。
昨日までの千明だったら物凄く怒るはずだった。丈瑠は自分にだけ厳しくする、これはきっといじめじゃないのか、など、ぶつぶつ言うのが常だった。
「知らねぇよッ!!でも、今日の鍛錬は自分でも信じられねぇけど、乗り切れちまったんだよッ!!」
(…もしかして、…千明は何かの目的があれば、…滅茶苦茶、強くなれんのか…?)
源太がそう考えた、その時だった。
源太の部屋の扉の前に、シルエット上の人影が浮かんだ。
「源太。千明。いるか?」
その声に、源太と千明は思わず顔を見合わせる。
「…ほ、…本当に、来やがった…!!」
源太が目をカッと見開き、信じられないと言う表情をしている。千明は驚きながらも笑みを零し、
「さっすが、殿様だ。ちゃぁんと男の約束を守りやがる!」
と言い、源太の部屋の襖を思い切り開けた。
「…約束通り、…来たぞ…!」
そう言いながらも、どこか緊張の面持ちの丈瑠。
「入れよ、丈瑠」
千明がそう言うと、ムスッとした表情のまま、丈瑠が源太の部屋へ足を踏み入れた。
「…約束だもんな…?」
「…ああ。…俺は、…逃げも隠れもしない…!」
真剣な表情の丈瑠だったが、フッと笑い、
「逃げ出したりしたら、お前に何をされるか、分かったものじゃないからな…!」
と言った。すると、千明もニヤリと笑い、源太の携帯電話をちらつかせながら、
「へっ!!そう言うこと!!」
と言った。
「…さて、…じゃあ、オレの質問に答えてもらおうか…?」
千明はそう言うと一息置き、
「…丈瑠、…オナニーって知ってっか?」
と丈瑠に尋ねた。
「…ああ…」
「嘘ッ!?」
その時、2人の成り行きを見守っていた源太が素っ頓狂な声を上げ、
「丈ちゃんッ、オナニー知ってんのッ!?」
と物凄い勢いで聞いて来た。
「あ、あぁ…」
その勢いに気圧されながら、丈瑠が答える。
「…丈瑠、…お前自身はオナニーをしたこと、あんのか?」
すると丈瑠は、再びフッと笑い、
「ああ。オナニーくらい、したことあるさ」
と言った。
「週に何回だ?」
「そこまではないが、…週1〜2回くらい…か?…鍛錬や外道衆との戦いで、疲れて寝てしまうことが多いからな」
「そのネタは?」
その時、丈瑠はふむ、と少し考え込むような仕草を見せた。
「…特に、…これと言ったものはない…」
「え?」
その言葉に、今度は千明が思わず聞き返した。すると丈瑠は自身の股間を右手で覆い、
「ここを弄っていたら、何だか気持ち良くなって、気が付いたらオナニーしていただけのことだ」
と言った。
「…た、…丈…瑠…」
何だか、つまらなくなって来た、千明はそう思い始めていた。
最初は、丈瑠をからかって終わりのつもりだった。だが、ここまで真剣に、しかも自慰行為をすることに対して何の材料もないと言う丈瑠の言いぐさが、あまりにも面白くなかったのだ。
「…お前、…女の子とか、…想像しねぇのかよ…!?」
逆に何だかイライラして来た千明。少しずつ顔が赤くなって行く。
「…女、…か…?」
再び、丈瑠がふむ、と考え込む。
「俺達の周りに、女と思えるやつはいたか?」
「ぶッ!!」
その言葉に源太は吹き出し、腹を抱え、火が点いたように笑い始めた。
「…た、…丈瑠…」
千明はと言うと、顔を引き攣らせ、眉をピクピクとさせている。
「…お前、…茉子とかことはとか、…薫とかどうなんだよッ!?」
千明が言い放った3人の女性、茉子とはシンケンピクに一筆奏上する白石茉子、ことはとはシンケンイエローに一筆奏上する花織ことは、そして、薫とは、志葉家第18代当主で、シンケンレッドに一筆奏上する志葉薫のことである。
と、その時だった。丈瑠が物凄く嫌そうな顔をしたのだ。
「…な、…何だよッ、…丈瑠ぅッ!?」
ぶっきらぼうに尋ねる千明。すると、丈瑠は大きく溜め息を吐き、
「あいつらは女とは思えん!」
ときっぱり言い放ったのだ。
「ぎゃははははははははッッッッッッッッ!!!!!!!!」
源太は床をゴロゴロ転がるかのようにして、涙を流して大笑いしている。
「…たッ、…たッ、…丈…ちゃん…ッ!!!!」
そう言いながら丈瑠の両肩を掴み、ようやく立ち上がった源太。
「…分かるッ!!…すっげぇ、よぉっく、分かるぜぇッ!!…あんな奴ら、…女とは思えねぇよなぁッ!!」
源太がそう言った時だった。
「あ〜あッ、つまんねぇッ!!」
千明がそう言ったかと思うと、
「丈瑠ッ!!」
と言って、再び、丈瑠を見つめたのである。
「…今度は、…何だ…?」
同じように、じっと千明を見つめる丈瑠。と、その時、千明の口から突拍子もない言葉が飛び出した。
「…オレの目の前で、オナニーしてみせろよ!」