女王の妖魔術 第2話
地球平和守備隊。機械帝国ブラックマグマの世界征服に対抗すべく結成された特殊軍隊である。ブラックマグマの狙いは火山国である日本の地熱。そのエネルギー・マグマエネルギーを使って強力な力を得ることで、日本はおろか、世界を征服しようと企んだのだ。
地球守備隊日本支部の長官・嵐山大三郎はそのメンバーの中から3人の若者を選んだ。彼らこそが、太陽戦隊サンバルカンなのである。
バルイーグル・大鷲龍介、25歳は元・地球平和守備隊の空軍将校。普段はとても穏やかで冷静沈着。まさにリーダーと言う言葉が良く似合う男だ。だが、一度怒りを覚えると、凄まじい力を発揮する。
バルシャーク・鮫島欣也、23歳は元・地球平和守備隊の海軍将校。わりと一匹狼的な存在で、常にクールに振舞っている。また、彼は海洋学者でもある。
バルパンサー・豹朝夫、19歳は元・地球平和守備隊のレンジャー部隊将校。明るくひょうきんで、細身ながら大食漢。
嵐山は2人の女性が誘拐された事件に対し、ブラックマグマの影を見た。そして、誘拐された2人が同じ月の、同じ日に生まれていることを突き止めた。しかも、彼女達の誕生日は誘拐された日の翌日。そして、その日は皆既日食の日にあたっていた。
皆既日食。太陽と地球の間に月が入り込み、太陽が月によって覆われ、太陽が欠けて見えたり、あるいは全く見えなくなったりする現象である。かつて、マヤ帝国やインカ帝国では、皆既日食で作られる“黒い太陽”を恐れ、生贄を捧げる儀式が行われたと言う。
彼らが行動を起こした時、皆既日食まであと数時間しかなくなっていた。
(急がなきゃ…!!)
バルパンサー・豹朝夫は、ブラックマグマの拠点があるとされる島をひたすら駆けていた。急がなければ、誘拐された女性2人の命が危ない!
(…あれは…?)
その時、崖沿いに歩く黒い物体を見つけた。
(マシンマンだ…!!)
動物のヒョウそのもののように足音と気配を消し、豹は駆けて行く。そして、そっと物陰に身を潜めた。そんな豹のすぐ近くで、数体のマシンマンが警戒にあたっている。
(…入口は…、…あそこか…)
遠くの岩陰に窪みがあり、そこでマシンマン達が出入りを繰り返している。
その時だった。
「だッ!!」
様子を伺っていた豹の右手を、マシンマンの足が踏み付けていた。
(痛ってえなあッ、この野郎ッ!!)
そのマシンマンが足をどけた時、豹はそのマシンマンの右足を掴み、思い切り引っ張った。
「…ッッッッ!!!?」
不意を突かれたマシンマンが物陰に引っ張り込まれる。
ドガッ!!
鈍い音と共に、豹はそのマシンマンを叩きのめしていた。
(急がなきゃ…!!)
その時、豹はヒョウのように素早く駆け出していた。
その頃――。
ひんやりと冷たい洞窟の中では、誘拐された女性達が白装束を着せられ、太い柱に縛り付けられていた。その目の前には薪が置かれ、多くのマシンマン達が右手に松明を持ち、整列していた。
「ンハハハハハハハハ…」
そこへご機嫌な、いや、不気味な笑みを浮かべたヘドリアン女王がスタスタと歩いて来た。だがすぐに厳しい顔付きになったかと思うと、
「…儀式の舞を…」
と静かな声で言った。すると、某民族音楽のような楽器の音と共に、マシンマン達が一斉に踊り始めた。
(…音…?)
時折、耳に手を当てながら、豹はその洞窟の中を駆けて行く。そして、マシンマン達を見かければ物陰に身を潜め、静かに近付いて行ってそれらを叩きのめして行く。
(…こっちか…!!)
その音を頼りに、奥へ奥へと駆けて行く豹。
(…助けなきゃ…!!…オレ一人で…!!)
バルイーグル・大鷲とバルシャーク・鮫島はブラックマグマの外からの攻撃に備え、コズモバルカンとブルバルカンで待機していた。
(…音が大きくなって行く…!!)
某民族音楽のような楽器音はその音量を大きくして行く。と同時に、
「…太陽の神よ…。…黒い太陽よ…!!」
と言うヘドリアンの低い声が聞こえて来た。
「ンハハハハハハハハ…!!」
その頃、ヘドリアンは生け贄の女性2人の目の前で、その体よりも大きいのではないかと言うほどの大きな刀を持っていた。その冷たく銀色に輝く刃には鋭い刃先が付いていた。
「…さぁ…、…時間じゃ…!!」
目をギラギラと輝かせ、不気味に笑うヘドリアン。そして、
「生贄の血を以て、洗い浄めたまえええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と叫び、その大きな刀を振るったその時だった。
「…ん?」
何かの気配に気付いたのか、ヘドリアンが訝しげな表情を浮かべた。
(…音が…、…止んだ…!?)
その時、バルパンサー・豹は生け贄の女性2人がいる祭壇の近くに辿り着いていた。
ドクンッ!!
(…こ…れは…!?)
音が突然止まったと言うことは、もしかすると、自身の潜入に気付かれたのか?もしくは、生け贄の女性が既に生け贄にされてしまったのか…?
ドクンッ!!ドクンッ!!
相変わらずな小走りをしながら、豹は駆けている。その足が少しだけ震えた。
その時だった。
「…ッッッッ!!!?」
目の前に眩しい明かりが見え、そこにいた2人の女性と目が合った。
(取り敢えずは、間に合った…!!)
バルパンサーのヒョウをあしらったマスクの中で、豹は安堵の表情を浮かべた。だが次の瞬間、
ドウンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う衝撃音と共に、豹の周りが爆発した。
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!?」
その衝撃で、豹は思わずうつ伏せに引っくり返った。と同時に、バタバタと言う足音が聞こえ、視界に真っ黒な足が何本も飛び込んで来た。
「…ッッッッ!!!?」
やはり気付かれていた。急いで身を起こす豹。
そこには凍り付くような色の唇と、顔よりも大きいのではないかと言うほどの丸い冠をかぶった女性・ヘドリアン女王がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「ようこそ、バルパンサー…、…ンハハハハハハハハ…!!」
その言葉を合図にしたかのように、数体のマシンマン達が一斉に豹に襲い掛かった。
「はああああッッッッ!!!!」
「うおおおおッッッッ!!!!」
「オルアアアアッッッッ!!!!」
素早い身のこなしでマシンマン達を蹴散らして行く豹。とは言え、多勢に無勢とはこのことだ。あっと言う間に劣勢に追い込まれた。
ドガッ!!
「うおッ!?」
ドガガガガッッッッ!!!!
「うわああああッッッッ!!!!」
「モンガアアアアッッッッ!!!!」
民族のお面のようなけばけばしい色の顔を持つ機械生命体・マジンモンガーが叫び声を上げ、さす股のような武器で豹の腹部を思い切り突いた時だった。
ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!
「…ぐふ…ッ!?」
鈍い音が聞こえた時、豹はバルパンサーのマスクの中で大きく目を見開いていた。