女王の妖魔術 第7話

 

「…ッ!?パンサーッ!!

 生け贄にされそうになった女性2人が取り残されていた洞窟。いや、バルパンサー・豹朝夫が襲われた洞窟と言った方が説明が早いだろうか。その薄暗く、冷たい空気が流れるその奥からゆっくりと歩いて来た豹を見つけて、バルイーグル・大鷲龍介とバルシャーク・鮫島欣也が駆け寄った。

「どこへ行っていたんだ、パンサーッ!?心配したじゃないか!!

「そうだよ!!俺達がここへ来てみれば、攫われた2人の女性が呆然と座り込んでいた」

「それで俺達が聞いてみれば、ブラックマグマの黒い太陽神の生け贄にされそうになったって言うし…」

「それをお前が助けてくれたって…。…なのに、お前の姿が見えないし…」

「…あ、…ああ…」

 この時、豹はバルパンサーのマスクまでしっかりと装着していた。

 

 あの時――。

 マジンモンガーとヘドリアン女王の妖魔術によって、生け贄のエネルギーを捧げた豹。

「…さぁ…、…バルパンサー…。…仲間のもとへ帰れ…。…そして、…仲間を誘き出し、サンバルカンを内部からバラバラにするのだ…!!

 女王の言葉に、

「…は…、…い…」

 と、コクンと頷いた豹。

「ンハハハハハハハハ…!!

 女王は満足気に笑うと、

「この者達を解放せよ!!

 と、生け贄として鎖に繋がれている2人の女性を解放するようにマシンマン達に言った。すると、ガチャガチャと言う音を立て、マシンマン達は2人の女性の拘束を解いた。

「…良いか…」

 冷たい眼差しを2人の女性へ向けるヘドリアン。

「…お前達を助けに、残りのサンバルカンが必ずやって来る。そうしたら、お前達はバルパンサーに助けられたと言うのだ。…良いな?…バルパンサーが我々に操られたと、決して言ってはならぬぞ?…言ったらどうなるか、分かっておろうな?」

「…ククク…!!

 凄むヘドリアンの横で、マジンモンガーが低い笑い声を上げていた。

 その時だった。

「パンサーッ!!

「おーいッ、パンサーッ!!

「サンバルカンじゃッ!!思ったより早かったの…」

 ヘドリアンが目配せをすると、マシンマンをはじめ、ゼロガールズまでもが一斉にそこを立ち去った。その去り際に、ヘドリアン女王は地面に座り込んでいる豹に近付いたかと思うと、

「良いな?上手く誤魔化すのじゃぞ?」

 と言うと、洞窟の奥へ逃がれ、そして、消えた。

 

「で、ブラックマグマはどうした?」

 大鷲が尋ねると、豹は、

「…悪い…。…取り逃がした…」

 と言った。

「でも、2人の女性とお前が無事で良かったぜ!!

 鮫島が豹の肩をポンと叩く。

「良しッ!!じゃあ、帰ったらカレーパーティーだッ!!

 大鷲が陽気に言う。すると豹は、

「ひょひょ~ッ!!

 と、素っ頓狂な声を上げた。

 

『…よ…。…バルパンサーよ…』

 しんと静まり返った部屋。どこからともなく聞こえて来る不気味な声。

『…バルパンサーよ…。…目覚めるのじゃ…』

 静かに寝入っている豹。その耳がピクピクと動く。

『目覚めるのじゃ、バルパンサーッ!!時は来た。今こそ、行動を起こすのじゃッ!!

 その時だった。

「…」

 豹の目がカッと見開かれ、ゆっくりとベッドの上に起き上がった。そして、静かにそこを下りると、ゆっくりと部屋を出て行った。

 

「…」

 豹はその時、鮫島の部屋にいた。

「…鮫島…」

 ぽつりと呟く。

「…」

 目の前の鮫島はそんな豹の気配に気付くことなく、すぅすぅと心地良い寝息を立てている。

 ドクンッ!!

 その時、豹の心臓が大きく高鳴り、

「…ッッッッ!!!!

 と、豹は目をカッと見開き、胸を押さえてその場に蹲った。

「…あ…あ…あ…あ…!!

 ドクンッ!!ドクンッ!!

 心臓がそれまで以上に大きく高鳴っている。

『…ぉぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉ…』

 ヘドリアンの声が聞こえて来る。

『そうか。そなたが心を寄せる相手はバルシャークじゃったのか…!!

「…あ…あ…あ…あ…!!

 目を大きく見開き、額に汗を滲ませている。その右手が鮫島の首へ伸びて行く。

 その時だった。

『まだじゃッ!!

 ヘドリアンの強い口調が豹をビクリとさせる。

『まだじゃッ!!殺すには早すぎるッ!!

 

 ブラックマグマでは水晶で2人の様子を見ながら、ヘドリアンがニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた。

「…気が変わった。…バルパンサーよ、バルシャークをも罠にかけるのじゃ!!

 ヘドリアンの目がギラギラと輝いている。

「…明日、この間の場所にバルシャークを連れて来るのじゃ。…良いな、決して他の者にこのことを知られてはならぬぞ?」

『…は…、…い…』

 水晶越しに、豹が頷くのが分かった。

「よし。ならば、今夜は部屋へ戻るのじゃ。お前が心を寄せる相手は分かった」

 ヘドリアンがそう言うと、豹は静かに鮫島の部屋を出て行った。

「…ンハハハハハハハハ…!!

 ヘドリアンが低い笑い声を上げる。

「明日はバルシャークの生け贄のエネルギーをいただくとするかの。…ただし、…最も屈辱的な方法で、な…、…アァッハハハハハハハハ…!!

 目をギラギラと輝かせたヘドリアンが大声で笑ったのだった。

 

「…なぁ、鮫島…」

 のんびりと独りの時間を寛いでいた鮫島に、豹が声をかけた。

「…?…どうした、豹?」

 これがブラックマグマの罠であることを知らない鮫島は、きょとんとした表情で豹に声をかけた。

「…あの…、…さ…」

 どこか気まずそうな表情をしている豹。すると鮫島は苦笑して、

「どうしたんだよぉ、豹ぉ?」

 と尋ねた。

「…ちょっと…、…相談があって…さ…」

 

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