女王の妖魔術 第8話

 

 バルシャーク・鮫島欣也。サンバルカンの中で中間的ポジションにいる。熱血で単独行動しやすいリーダーのバルイーグル・大鷲龍介をサポートする傍ら、年齢的にも年下のバルパンサー・豹朝夫の面倒を見ている。

 鮫島は、死んだ弟・勝に豹を重ねていた。

 考古学者の父、母、そして勝の4人でアフリカに住んでいたことがあった。だがその時、その国の内紛によって両親と勝が命を奪われた。それゆえ、人間を人間とも思わないブラックマグマに対してはこの上ない憎悪を抱いていた。鮫島がバルシャークになったのも、自ら志願してのことだった。その時、自分よりも年下の豹と出会うことになる。

「…はぁぁ…」

 ある時、豹が珍しく落ち込んでいた。

「…?…どうした、豹?」

 普段から素っ頓狂な声を上げたり、変顔をするのがお得意な豹なのに、この時は部屋の片隅に膝を抱えて座り込んでいたのだ。すると豹は、

「…オレは…、…ダメだなぁ…」

 とぽつりと零した。

「…オレは大鷲みたいにカッコ良くもないし、あんなに戦闘力も高くない。…それに…、…お前みたいに泳ぎも得意ではないし、頭も良くない…」

「どどど、どうしたんだ、急にぃッ!?

 変なものでも食べたのではないかと心配になり、鮫島は思わず豹の額に手を載せた。

「…ふむ…。…熱はなさそうだな…」

「何だよッ!?人が本気で落ち込んでるのにさあッ!!

 目を大きく見開き、ぷうっと顔を膨らませる豹。そんな豹を見て、

「…フッ!!

 と、鮫島は思わず苦笑していた。

「何がおかしいんだよッ!?

「あ、すまんすまん」

 鮫島は笑うと、豹の頭にポンと手を載せ、その横に腰を下ろした。

「…俺は、…お前の方が凄いと思うけどな」

「…え?」

 静かに微笑んでいる鮫島を不審に思ったのか、豹は思わず鮫島を見つめていた。

「いつも明るくて前向きで、物事の大小に関わらず、くよくよしない。そんな大らかな性格が羨ましいよ。…それに、大地を駆けることと言ったら、俺も大鷲も敵わないしな!!

「…そう…、…かな…?」

 豹の口元が少しだけ綻んだ。

「そうそう。誰にだって得手不得手はあるものさ。だから、俺達は3人一緒なんだろう?」

 そう言うと、鮫島は豹の左肩へ腕を回し、グイッと引き寄せる。その拍子に、

「ひょ…」

 と、豹が少しだけ声を上げた。

「…なッ、…何…だよ…、…鮫島…?」

「昔から言うだろ?三人寄れば文殊の知恵、三本の弓矢は決して折れない、ってな!!何かあれば、今みたいに俺達が傍にいるんだからさ!!

「…そっか…。…うん…ッ!!そうだよなッ!!

 突然、豹が明るい声を上げ、ぱっと立ち上がった。

「よぉしッ!!オレッ、頑張るぞおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

「…ああ…」

 単純。この立ち直りの早さも、豹だからこそのものだった。

 

「…ちょっと…、…相談があって…さ…」

 どこか気まずそうな表情をしている豹が今、鮫島の目の前にいる。昔のことがあったものだから、鮫島はそれがブラックマグマの罠だと言うことに全く気付かなかった。

「…何か…、…あったのか…?」

「…うん…」

 その時、豹が辺りを気にかけるようにキョロキョロと視線を送った。その気配を敏感に察知したのか、

「…こっちだ、豹」

 と言うと、豹を連れてその場を後にした。

 

「…で?…何があった?」

 2人がやって来たのは巨大空母ジャガーバルカンが置かれている巨大空間だった。そんなジャガーバルカンに凭れ掛かるようにして2人は話を続けている。

「…実は…。…あの洞窟の奥に、ブラックマグマの本拠地へ通じる抜け穴があるのを発見したんだ」

「何ッ!?

 豹の言葉に、鮫島が耳聡く反応する。

「…そ、…それは本当なのかッ!?

「ああ。お前や大鷲が助けに来てくれた時、オレがその場にいなかったのも、その抜け穴を見つけていたからなんだ」

「何でそれを先に言わないッ!?

 2人だけの声が辺りに響き渡る。思わず豹に掴み掛かっていた。すると豹は、

「…だって…。…その奥へはさすがに独りでは行けないだろう?…それに、あの時には生け贄になった女性もいたわけだし…」

 と言った。すると鮫島も、

「…そ…、…っか…」

 と納得したかのように、豹に掴み掛かっていた両腕を下ろした。

「…なぁ…、…鮫島…」

「うん?」

 心細そうな豹の表情が妙に気になった。鮫島はニッコリと微笑むと、

「大丈夫だ。俺が長官と大鷲に掛け合うよ」

 と言った。

 

 作戦は前回と同じだった。ただし、鮫島の配置が変わった。

 大鷲は前回と同じく、ブラックマグマの空からの攻撃に備えてコズモバルカンでブラックマグマの拠点があった島の上空を旋回し続ける。そして、鮫島と豹は2人の女性が生け贄にされそうになったあの洞窟へ入って行く。

 だが、それが全てブラックマグマの計画通りに進んでいるとは、この時のサンバルカンには分からないでいた。

 ただ一人、豹を除いては…。

 

 コツーン…。コツーン…。

 バルシャークに変身した鮫島、そして、バルパンサーに変身した豹の足音が響く。

「…相変わらず、気味が悪いな…」

 鮫島が辺りを警戒しながらゆっくりと歩く。バルシャークの光沢のある鮮やかな青色のスーツが、漏れ入って来る太陽の光に照らされ、キラキラと輝く。

「…ああ…」

 言葉少なな豹。バルパンサーの光沢のある鮮やかな黄色のスーツが、鮫島のそれと同じように漏れ入って来る太陽の光に照らされ、キラキラと輝いている。

「大丈夫だ、豹。今度は俺もいる」

「…ああ…」

 その時だった。

 ドウンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 突然、2人が歩いている辺りの地面が眩しく光ったかと思うと、衝撃音と共に爆発が起こった。

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その衝撃に鮫島と豹が吹き飛ぶ。

「…ッッッッ!!!!

 その時、鮫島ははっとなった。

「ンハハハハハハハハ…!!

 目の前には、不気味に笑うヘドリアン女王の姿があった。

「出たなッ、ブラックマグマッ!!

 鮫島はそう言うと、

「はあッ!!

 と、サメの口のように両手を大きく上下に広げた。

「…ようこそ、バルシャーク…。…地獄の一丁目へ…!!

 

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