おにぃさんの性教育 第1話

 

 喫茶店スナックサファリ。

 閑静な住宅街の一角にある、古びた純喫茶。そこから漂うコーヒーのいい香りに誘われるかのように、近所の人達がやって来る。大人も、子供も。そして、大人達はマスターが淹れるコーヒーを飲み、ほんの束の間の心の平和を満喫する。そして、子供達にとってはもっと別の意味があった。

「へい、らっしゃいッ!!

 髪を長く伸ばしたマスター・嵐山大三郎。

「おうッ!!今日も食ってくか、坊主ッ!?

 恰幅の良い、いかにも江戸っ子気質の彼は大声でそう言うと、楕円形のお皿に炊き立てのご飯を盛り、その上に厨房の大きな寸胴鍋からいい香りのするカレーをたっぷりとかける。

「うちのカレーは絶品でな、50種類のスパイスを混ぜ合わせ、3日がかりで作っているんだ。サファリカレーは、うちの店の名物になんだぞッ!!

 カッカと笑い、

「よぉしッ!!カレーを食ったら、今日も勝負すっか!?今日も負けねぇぞぉッ!!

 と、子供達とベーゴマに興じていた。

 その時だった。

「マスターッ!!

 店の中から1人の若者がスプーンとお皿を手に出て来た。その皿にはカレーが黄色の線を引くように付いていた。

「マスターッ!!カレー、お替わりィッ!!

 すると、大三郎は、

「おうッ!!好きなだけ持ってけ!!適当にかけていいぞッ!!

 と言うと、ベーゴマに真剣になる。

「ひょひょおおおおッッッッ!!!!いいのッ!?

「ダメよッ、お父さんッ!!

 ガランッ、ガランガランと店の入口にかけてあるカウベルが大きな音を立て、1人の女性がぷぅっと顔を膨らませて出て来た。

「豹さん、もう5杯目なのよ!?これ以上、ただ食いさせる気ッ!?

「5杯なら、まだ少ない方だにぃ?」

「アンタは黙ってなさいッ!!

「はっはっはっは…!!

 2人の夫婦漫才のようなやり取りを見ながら、大三郎は笑う。

「いいじゃねぇか、美佐。食わせてやれよ!!

 大三郎がそう言うと、その若者・豹朝夫は、

「さっすが、マスターッ!!オレのこと、よく分かってますにぃッ!!ひょひょひょひょ…!!

 と笑う。するとすかさず、

「お父さんッ!?

 と、大三郎の娘・嵐山美佐が大声を上げる。だが、大三郎はニヤリとすると、

「ただしッ、料金は豹の給料から天引きだがなッ!!

 と言い放ったのだ。

「…え?」

 それには豹もきょとんとする。

 その時だった。

「当たり前だろ、豹?」

「そうだそうだ!!世の中、ただ食いが出来る店なんてあるわけないだろう?」

 店の中から長身の男性が2人出て来た。

「お前、今月は何杯食ったんだ?」

 ニコニコとしながらも、どこか意地悪そうな雰囲気を漂わせている黒いブルゾンを着た男・飛羽高之。そして、

「あ〜あ、これじゃあ、お前の今月の給料、全てカレーライス代に吹っ飛ぶだろうなぁ…!!

 と、意地悪く笑いながらもどこか優しい眼差しの白いシャツを着た男・鮫島欣也が言った。その途端、豹は顔を真っ青にして目を大きく見開き、

「…ひょッ、…ひょひょおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!?

 と素っ頓狂な声を上げると、後ろへ引っくり返った。

 

 喫茶店サファリのマスター・嵐山大三郎とその娘・美佐。それからこの喫茶店の常連客である飛羽高之、鮫島欣也、そして、豹朝夫。これは表向きの顔。

 彼らには裏の顔があった。

 太陽戦隊サンバルカン。北極を拠点とする機械帝国ブラックマグマの脅威からこの世界の平和を守るために結成された秘密組織なのだ。

 普段はひょうひょうとし、明るいマスターである嵐山大三郎も、一度、サンバルカンの長官としての顔になるとガラリと変わる。

「サンバルカンッ!!出動せよッ!!

 大三郎は飛羽、鮫島、豹に変身ブレスレッドを与え、彼らはサンバルカンに変身する。

 バルイーグル・飛羽高之、25歳は元・地球平和守備隊の空軍将校。平和守備隊時代はヘリコプターのパイロットを務めており、その腕前はかなりのものだった。普段から剣道をたしなみ、性格は明るく、誰にでも優しい。

 バルシャーク・鮫島欣也、23歳は元・地球平和守備隊の海軍将校。わりと一匹狼的な存在で、常にクールに振舞っている。また、彼は海洋学者でもある。

 バルパンサー・豹朝夫、19歳は元・地球平和守備隊のレンジャー部隊将校。明るくひょうきんで、細身ながら大食漢。

「バルッ、イーグルッ!!

 飛羽は光沢のある鮮やかな赤色のスーツに身を包まれる。その両肩から胸の中心部にかけて真っ白なV字のラインが施され、短いスカーフを巻いている。その頭部は鷲をあしらったデザインが施されていた。

「バルッ、シャークッ!!

 鮫島は光沢のある鮮やかな青色のスーツに身を包まれる。その両肩から胸の中心部にかけて真っ白なV字のラインが施され、短いスカーフを巻いている。その頭部は鮫をあしらったデザインが施されていた。

「バルッ、パンサーッ!!

 豹は光沢のある鮮やかな黄色のスーツに身を包まれる。その両肩から胸の中心部にかけて真っ白なV字のラインが施され、短いスカーフを巻いている。その頭部は豹をあしらったデザインが施されていた。

 そして、3人で力を合わせ、襲い来るブラックマグマの脅威を次々に払っていたのだった。

 

「おい、鮫島ッ!!見ろよッ!!

 あるのんびりとした昼下がり。近所の住民も子供達も店にいない静かな昼下がり。1冊の週刊誌を見ていた飛羽が目を輝かせ、鼻息をやや荒くして鮫島を呼んだ。

「この子、いいプロポーションしてるよなあッ!!

「何だ、また女の子のこと、…かああああ…ッッッッ!!!?

 そう言うことになるとはしゃぎ出す飛羽にうんざりしたのか、鮫島はそう言ってその週刊誌を覗き込んだ瞬間、目を大きく見開いて声を大きくした。

「どったの、2人共?」

 相変わらずカレーを頬張っている豹が呑気そうにやって来るとその場に立ち止まった。

「へぇぇ!!最近の女の子の水着っつぅのは、生地が少ないんだなあッ!!

 いつの間にか、大三郎までもがやって来て目を輝かせている。

「…こ、…これ、…ヤバいぞ?…ちょっとでも動いたら…!?

 飛羽はそう言って、両手を胸の辺りで円を描くように動かした。すると、鮫島もコクコクと何度も頭を上下に振り、更には大三郎までもが目を大きく見開いて3人は息を飲み込んだ。

 その時だった。

「ちょっとッ、アンタ達ッ!!

 ドオオオオオオオオンンンンンンンンッッッッッッッッ、と言う爆発音が聞こえたように、目の前には仁王立ちしている美佐がいた。

「…み、…美佐…ッ!?

「…こっちも、…ヤバい…!!

 大三郎と飛羽が同時に顔を引き攣らせ、作り笑いをしている。

「本っ当に、男ってオオカミなんだから…!!

「おうおうッ!!歌にもあるじゃねえかッ!!♪男はオオカミなの〜よ〜、ってな!!あんななぁ、ないすばでーなおネエチャンを見てみろッ!!そりゃあ、もう…」

 その時だった。

「…おい、豹。…どした?」

 鮫島が別の意味で顔を引き攣らせている。

「…あ…、…え…、…え…っと…ぉ…」

 モジモジとし、腰をくの字に折り曲げている豹。

「…豹…さん?」

「のわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 美佐が近付いたその瞬間、豹は素っ頓狂な声を上げ、

「…オッ、…オレッ!!…へッ、…部屋に戻りますううううううううううううううううッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 と悲鳴に近い声を上げると、4人の間をすり抜けるように駆け出して行ったのだった。

 

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