女王の妖魔術V 第1話
地球の最上部、極寒の地・北極。
氷に覆われた無人の地、その誰も寄り付かないような場所の地下深くにその帝国はあった。
機械帝国ブラックマグマ。狂気の天才科学者・ヘルサターン総統が結成した悪の帝国。世界征服を目論み、暗躍を繰り返す。機械生命体モンガーを生み出し、機械兵士マシンマンを送り込むが、その作戦は悉くサンバルカンに阻止されていた。
「…ぬうううううううううううううううう…ッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
大広間のようなところの真っ黒な玉座に深く腰掛けるヘルサターン。その機械の手がブルブルと震えている。
「…おの…れ…ッ!!…おのれおのれおのれええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
不意にカッとなったヘルサターンは俄かに立ち上がると、その大広間にある様々な機械、モニターやモンガー製造マシーンなどを手当たり次第に殴り付け始めた。
バアアアアンンンンッッッッ!!!!ドガアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
様々な機械がショート、スパークを繰り返し、爆発し始める。
「「「総統閣下ッ!?」」」
ゼロガールズの3人・ゼロツー、ゼロスリー、ゼロフォーが慌てて止めに入る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
だが、ヘルサターンは狂ったように暴れ、とてもではないが手を付けられる状態ではなかった。
「「「きゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」」」
あっと言う間にゼロガールズの3人は吹き飛ばされる。
「何をやっておるのじゃッ、ヘルサターンッ!?」
何事かと大広間にやって来たヘドリアン女王が目を大きく見開き、ズカズカとヘルサターンのもとへやって来た。
「うるさいッ!!」
「お、落ち着くのじゃッ、ヘルサターンッ!!」
「うるさいと言っておるッ!!」
真っ赤な目を更に真っ赤にし、ヘルサターンはヘドリアンを激しく睨み付けた。
「そもそもはヘドリアン女王、お前のせいだッ!!」
「…は?」
突然、何を言い出すのかと言うような表情で、ヘドリアンはヘルサターンを見上げた。
「お前が妙な作戦ばかり立ておるから、せっかく造り出したモンガーが役立たんではないかッ!!」
「…な、…何じゃとッ!?」
この言葉には、ヘドリアンも目を丸くした。
「…わッ、…私の作戦が役に立たぬじゃとッ!?」
「そうだッ!!お前の道楽三昧の作戦では、我々ブラックマグマがこの世界を支配することなど出来んのだッ!!」
「どッ、どの作戦のことじゃッ!?」
するとヘルサターンはフン、と笑い、
「ナウマンモンガーを誕生させた時には国立銀行の金塊を盗み出したり、サソリモンガーを誕生させた時には海水から金を精製しようとしたり」
と言った。
「それに、ダイヤモンガーの時にはお前のために『キングソロモンの星』を奪わせ、挙句の果てにお前はそれを飲み込んで喉を詰まらせたり…」
「うぐッ!?」
「まだまだあるぞ、ヘドリアン女王ッ!!タイムモンガーの時には海賊が残した財宝の在り処を探ろうとしたり。…どうもお前さんが立てた作戦には金や金銀財宝が絡むようでいかんなぁ…!!」
「なぁんじゃとおおおおッッッッ!!!?」
さすがに顔を真っ赤にしたヘドリアンが遂に大声を上げた。
「…そッ、…それもこれも全てはヘルサターンッ、そなたを喜ばせるためではないかッ!!」
「…ククク…。…それは本当のことなのか?」
「何じゃとッ!?」
「フフンッ!!ヘドリアン女王、私には分かっているのだ。プライドの高いお前のことだ。金銀財宝を身に纏い、自らの美しさを見せびらかそうとしたのではないのか?だが、そもそも我々は機械。機械におしゃれは要らぬのだッ!!」
「…お、…おのれええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!ヘルサターンッ!!言いたいことばかり言いおってええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
怒りにブルブルと体を震わせるヘドリアンがステッキを振り上げようとしたその時だった。
「お止め下さいッ!!」
突然、厳しい声がヘルサターンとヘドリアンの耳を劈き、2人はビクリと体をさせた。
「…ア、…アマゾンキラー…!?」
鋭い目付きの女性・アマゾンキラーが仁王立ちになっている。
「…な、…何じゃ、アマゾンキラー…!?」
心なしか、ヘルサターンの声が震えている。
「…総統閣下…。…女王様…。…情けなく思います…!!」
怒りに体を震わせ、顔を真っ赤にしている。普段から吊り上がっている目付きが更に吊り上がっているように見える。
「…女王様が造り出したモンガーは、下らぬ作戦を実行するために作り出されたものではありませんッ!!全ては作戦が不十分だったために起こったことでございますッ!!それに、そのような馬鹿げた下らぬ作戦ばかりではなかったはずですッ!!オオダコモンガーは太陽戦隊の基地を内部から破壊するため、ウミヘビモンガーはマグマエネルギーの採取のため、ハラペコモンガーは人間を鉄人間にし、戦闘力にするため、バラモンガーはバルイーグル・飛羽高之の飛羽返しとサンバルカンロボのオーロラ・プラズマ返しをやぶるために造り出されたモンガーでございます。私が知っているだけでも素晴らしいモンガーもいるのでございますッ!!」
「…ア、…アマゾンキラー…」
だが、ヘドリアン女王は何とも複雑な表情をしている。
「それに総統閣下。女は美を追求する生き物でございます。金銀財宝に目が眩むのも無理はございません」
「…」
その頃には、ヘルサターンも目を点にしていた。
「…アマゾンキラー…。…そなたは私を擁護しておるのか、それとも、バカにしておるのか…?」
「何を仰いますッ、女王様ッ!?」
アマゾンキラーが目を剥いて半ば叫ぶように言う。
「私のどこが、女王様をバカにしているのでしょうッ!?先ほども申し上げました。せっかく立てた素晴らしい作戦も詰めが甘く、その結果、サンバルカンに阻止されてしまっただけのことッ!!」
だがその時、アマゾンキラーはニヤリと笑うと、
「ですが、女王様。ご安心下さい。私は素晴らしい作戦を思い付きました」
と言うと、
「総統閣下。モンガーを誕生させて下さい」
と言った。するとヘルサターンは、
「モンガーじゃと?」
と不思議そうな顔をした。アマゾンキラーはニヤリと笑い、
「はい。サンバルカンの本性を引き出すモンガー・ペッタンモンガーを誕生させますッ!!」
と言った。
「こちらをご覧下さいッ!!」
その時、アマゾンキラーは1枚の設計図のようなものをヘルサターンとヘドリアンに見せた。
「ペッタンモンガーの胸の部分にあるスタンプ台。ここにサンバルカンの顔を押し付けます。すると、顔を押し付けられた者は心の本性を露わにし、手に負えなくなるほどに凶暴化致します。更に、そこには顔を押し付けられたもののマスクが出来上がるのです。そして、そのマスクをダークQに貼り付けるのです。そのダークQの顔に貼り付いた顔のマスクはそのダークQが機械であることをも隠します。つまり、バルカンベースに容易く入り込むことが出来るのです。そうなれば、あとはそのダークQを爆破すれば…」
「…ぉぉおおおおぉぉ…!!」
ヘドリアンが満足げに笑う。
「バルカンベースを内部から破壊し、サンバルカンをも分裂させることが可能でございますッ!!」
アマゾンキラーがニヤリと笑うと、
「素晴らしい作戦だ、アマゾンキラー。今度こそ、サンバルカンを葬るのだッ!!」
とヘルサターンが俄かに興奮したかのように言うと、
「はッ!!」
とアマゾンキラーが大きく頷き、その場を立ち去った。
「…そう言えば…。…アマゾンキラー…。…我々を諌めるための言葉だったのじゃろうが、どう聞いても、あれは私をバカにしているようにしか思えなんだのじゃが…」
そう言いながら、ヘドリアンは苦虫を潰したような表情を浮かべたのだった。