女王の妖魔術V 第16話
「もういいでしょうッ!!」
アマゾンキラーの溜め息混じりの声が響き渡った。その溜め息は深く、まるで、自身は全く興味ないと言う様相を呈していた。アマゾンキラーは、ややうんざり気味な表情で周りを見回すと、
「さあッ、お前達ッ!!元の場所へ戻って、思い切り暴れて来なさいッ!!…そして…」
と言ってニヤリと笑い、
「バルシャークのダークQはバルカンベースへ行き、中から破壊するのですッ!!」
と言った。その途端、
「やッ、止めろオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
大きな木の幹に体を押し付けられ、身動きが取れない豹が懸命に叫ぶ。
「そッ、そんなことをしたら、街中が大変なことになっちまうだろうッ!?」
すると、アマゾンキラーはフンと鼻で笑うと、
「それが目的よ。ペッタンモンガーの呪いの仮面を付けられた者はね、心の奥底で思っていることを全て引き出されるの。そして、暴れ回り、やがては人間関係も破綻する…!!」
と言った。
「人間なんて、所詮は醜い生き物よ。心の奥では何を考えているかは分からない。所詮は疑心暗鬼。その感情を引き出されてしまえば、ペッタンモンガーの呪いの仮面を付けられた者の人間関係は全て破綻する。それが狙いよッ!!」
叫ぶようにそう言うと、
「さあッ、お前達ッ!!街へ戻り、思い切り暴れ回りなさいッ!!」
と言い放った。その瞬間、
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
と、それまで鮫島や豹を押さえ付けていた人々が蜘蛛の子を散らすように一斉に駆け出したのだ。
「止めろオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
豹が絶叫する。そして、
「さッ、鮫島ッ!!退けよッ!!みッ、みんなを止めなきゃ!!」
と叫び、必死に体を暴れさせる。だが鮫島は、
「…へぇぇ…」
と言ったきり、豹の頭上へ上げた両手を掴んだまま、放そうとしない。
「…さッ、…鮫島ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!退けったらああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!このままじゃッ、バルカンベースまで破壊されちまうんだぞおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「知ったことか!!」
きっぱりと言い放った鮫島の言葉が冷たく響く。
「…鮫…、…島…?」
その言葉に、豹の体から一瞬、力が抜けた。
「…そもそも、お前一人で何が出来るって言うんだ?飛羽も来ないし」
そう言えば、と豹は思った。
これだけ大騒ぎになっていれば、バルイーグル・飛羽高之が颯爽と飛び込んで来るはずなのに、来る気配すらない。
「…なッ、なら…ッ!!」
豹はそう言うと、顔を頭上へ向けた。そして、
「長官ッ!!ブラックマグマが出現して大変なことになってますッ!!」
と、右手のブレスレッドに向かって叫んだ。だが。
「…あれ?」
ブレスレットがうんともすんとも言わない。
「…なッ、なら…ッ!!」
そう言うと、豹は今度は、
「飛羽ッ!!飛羽ああああッッッッ!!!!」
と、飛羽の名前を叫んだ。だが、応答はない。
「…ど、どうなってんだ!?」
内心、パニックになっていたその時だった。
『ンハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!』
地の底から不気味に聞こえて来るようなヘドリアンの声が響き渡る。
『無駄じゃ、バルパンサー。私の妖魔術で、お前達のブレスレットが機能しなくなるようにしてあるわ!!』
「なッ、何だってええええええええッッッッッッッッ!!!!!!??」
『フンッ!!今頃、気付きおったのか?いつもならお前達がピンチになった時、真っ先にバルイーグルが駆け付けて来るであろう?だが、どうじゃ?今日は未だに駆け付けても来ぬ。それが何よりの証拠じゃッ!!』
ヘドリアンの声が俄かに興奮し始め、徐々に甲高くなって行く。
『さあッ!!バルシャークのダークQよッ!!そのままバルカンベースへ戻り、自爆して、バルカンベースごと木っ端微塵にするのじゃッ!!アアッハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!』
そう言った時、ダークQの鮫島はニヤリと笑い、コクンと頷いた。そして、その場を立ち去ったのだ。
「んまッ、待てええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
はっと我に返った豹はそう叫ぶと、
「…こッ、…こんのおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と、鮫島に押さえ付けられている体を思い切り暴れさせ始めた。
「…ちッ!!」
その時、鮫島が俄かに不機嫌そうな表情をした。と、次の瞬間、
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
と言う鈍い衝撃音が聞こえた。
「…ぐふ…ッ!?」
豹の体がくの字に折れ曲がっている。その腹部には、鮫島の右拳が深く減り込んでいた。
「…さ…、…め…」
「いちいち、手間を掛けさせるんじゃねぇよ…!!」
その力が普通の人間のものとは違う。それに、バルシャークに変身していてもこの力は出せないだろうと言うほどに強烈な打撃だった。
「…さ…、…め…じ…ま…」
その時、豹のバルパンサーのマスクが光ったかと思うと、中から豹の頭が現れた。そして、
「…う…」
と一言呻いたかと思うと、そのまま全身を脱力させ、首をガクリと垂れたのだった。
「…ようやくおとなしくなったか…」
やれやれと言うように苦笑する鮫島。すると、そこへアマゾンキラーがやって来て、
「ご苦労様でした」
と言った。
「最早、ここにいる必要はない。さっさと移動しますよッ!!」
「どこへ?」
鮫島が尋ねると、アマゾンキラーはニヤリと笑い、
「…その坊や…。…バルパンサーにとっておきの場所を用意してあります。そこへ連れて行って、バルパンサーのエネルギーを一滴残らず搾り出し、その後はあなたと大介の好きになさい!!」
と言ったのだった。
「…ん…」
少しずつ、目の前がはっきりとして来る。
「…こ…、…ここ…は…?」
…ピチャン…。…ピチャン…。
何かが滴り落ちて来るような音が、物凄い間隔で聞こえて来る。
「…寒ッ!!」
思わずブルッと身震いをした。ゴツゴツした岩肌が目の前にあり、その部分だけやけに大きな空間が作られている。
「…ここは…、…どこだ…?」
やけに視界が高い。
「…オレ…、…立ってる…?」
立っている、と分かった時、
「…ひょッ、…ひょひょおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!??」
と、豹は思わず素っ頓狂な声を上げていた。