僕だけのヒーローU 第3話
タイムファイヤーにクロノチェンジして戦う滝沢直人さん。タイムレッドにクロノチェンジして戦う竜也さんと同じく、20世紀の人間です。
直人さんは、タイムグリーンにクロノチェンジする僕、タイムイエローにクロノチェンジするドモンさん、タイムブルーにクロノチェンジするアヤセさん、そして、タイムピンクにクロノチェンジするユウリさんの輪の中には絶対に入って来ないような人でした。
「俺はお前らとは違う。俺は一人だ」
僕や竜也さんが直人さんを僕達の輪の中に入れようとどんなに頑張っても、直人さんはいつもつっけんどんにそう言い、スタスタと歩いて行ってしまうような人でした。それに関してアヤセさんやユウリさんは何も言わなかったものの、ドモンさんに至っては、
「放っておけよッ、そんなヤツッ!!」
とあからさまに不機嫌な顔をしていました。
直人さんがこうなってしまったのには、ちゃんと理由がありました。
これは竜也さんに聞いたことなんですが、直人さんは高校と大学時代の竜也さんの空手のライバルで、大企業の御曹司である竜也さんとは違い、ご両親をサラリーマンに持つ、普通の家庭で育った人だったそうです。そんな直人さんは、空手のインターハイ決勝で竜也さんを破り優勝、大学にも推薦入学したんですが、金持ちの傲慢さと汚さ、そして、普通の家庭に育った自分が取り巻き程度にしか扱われず、道を金持ちに無理矢理閉ざされてしまったんだそうです。それに嫌気が差した直人さんは大学を退学。そして、竜也さんのお父さんが組織した「シティガーディアンズ」と言う組織に所属していました。
力が全てと言う直人さんは、あることをきっかけにブイコマンダーを入手し、タイムファイヤーへ変身するようになったんです。
そんなものだから、周りからは嫌なやつに見られるようになり、血の気の多いドモンさんとはすぐに衝突するようになってしまったのです。
「…そんなところばかりじゃないのに…」
実は僕は、直人さんのいいところをたぁっくさん知っていました。見た目はつっけんどんだけど、本当は僕達や直人さんの周りを取り囲む人達のことをちゃぁんと考えている人でした。良く言えば、照れ屋さんと言ったところでしょうか。
例えば、ご自身で飼っていらっしゃる小鳥を世話している時の直人さんの表情は愛情に溢れ、本当に優しい顔をしています。それに、僕達が生業としているトゥモローリサーチが倒産の危機に陥った時、ブイレックスの清掃を依頼して大金を出して僕達を救ってくれたんです。
「…素直になればいいのに…。…勿体無いです…」
僕は心底、本当にそう思っていました。本当は誰にでも物凄く優しくて、竜也さんやドモンさんと協力してロンダーズファミリーと戦えば、鬼に金棒なのに。
「…寂しいですよ、…直人さん…」
何か、僕に何か出来ることはないでしょうか。何とかして、僕達の輪の中に溶け込ませてあげたい。みんなと一緒に笑い合えるようにしてあげたい。
「…よし!」
僕は立ち上がると、直人さんが所属する「シティガーディアンズ」がある建物へと向かいました。
「直人さん!」
警察官のような、青い服、青い帽子を被った長身。直人さんと言うことは一目で分かりました。
「…」
背後から呼び止められた直人さんはゆっくりと僕の方を振り向くと、怪訝そうな顔をしました。
「…お前、…一人か…?」
竜也さんやドモンさんの姿を探したのでしょうが、見つかるわけありません。
「はい!僕、一人です!」
ニコニコと直人さんを見上げて、僕は元気に答えました。その声に、直人さんがちょっと驚いたような表情を見せました。でもすぐにゴホンと咳払いをして、
「…何の用だ?」
と僕に聞いて来ました。
「僕のヒーローになって下さい!」
その瞬間、直人さんの目が点になったのが分かりました。そして、
「…今、何て言った?」
と聞いて来たのです。
「だから、僕のヒーローになって下さい!」
「何だ、それは?」
明らかに僕を馬鹿にしたように笑う直人さん。
「竜也さんやドモンさんは僕のヒーローになってくれたんですよ?いつも一緒にいて、いつも僕を守ってくれるんですよ?だからぁ!」
僕はニコニコとそう言うと、直人さんの腕をギュッと掴みました。
「んなッ、何をするッ!?」
顔を真っ赤にして、辺りをキョロキョロとしています。僕はお構いなしに、
「だから、直人さんも僕のヒーローになって下さいッ!!」
と言いました。と、その時でした。直人さんが、僕の腕を思い切り振り払ったのです。
「…直人…さん…?」
直人さんは明らかに照れていました。物凄く慌てた様子で、
「…なッ、…何を馬鹿馬鹿しいことを言ってる…?…ヒ、…ヒーローごっこをやるなら、…たッ、…竜也やドモンにやってもらえ!」
と言い、クルリと踵を返すと物凄い勢いで歩いて行ってしまいました。
「…予想通り、…想定内…か…」
僕はそう呟くと、
「…やっぱり、…あの方法しかないですかね…」
と言い、シティガーディアンズの建物を後にしました。
翌日――。
ピンポーン!
僕以外には誰もいないトゥモローリサーチの事務所のインターホンが鳴りました。
「はぁい!」
僕の心臓はドキドキと高鳴っていました。来るはずがないと思っていた人が来てくれたのですから!
「…」
ドアを開けると、そこには物凄く不機嫌そうな顔の直人さんが立っていました。直人さんに僕のところへ来て欲しいと、電話でお願いをしておいたんです。まさか、本当に来てくれるとは思いませんでしたけど。
「…今日は、…何の用だ…?」
「まぁまぁ!立ち話も何なので、中に入って下さいよッ!!」
僕はそう言うと、直人さんの体の横をスルリと抜け、直人さんの背後に回りました。
「んなッ!?」
直人さんが驚いて声を上げます。
「はいはい!!中に入って入って!!」
僕はそう言うと、グイグイと直人さんの背中を押しました。
「ちょッ、シッ、シオンッ!?」
明らかに直人さんが慌てています。それでも僕は直人さんに有無を言わさず、グイグイと背中を押して直人さんを僕の部屋へ招き入れました。
「暑いですよねぇ、今日も!!」
僕はそう言いながら、直人さんに冷たいお茶を差し出しました。
「…」
怪訝そうに僕を見る直人さん。その額には汗が滲んでいます。
「どうしました、直人さん?」
僕が尋ねると、直人さんは、
「…何か入れていないか?」
とお茶を眺めながら僕に言いました。
「…何か入ってると思いました?」
僕はその時、悲しげな表情を直人さんに見せました。
「…外があまりに暑いから、…直人さんに、…少しでも涼しくなってもらいたかったのに…」
その時、直人さんは大きく溜め息を吐き、手にしていたお茶を一気に飲み干しました。
「…うま…か…っ…た…ぜ…」
そう言った直人さんの体がグラリと前のめりになり、次の瞬間、直人さんは床へ大きな音を立てて倒れたのでした。