ジグザグ青春ロード 第1話
また夏がやって来た。
今年は高校最後の年。大会に出られるのも最後だ。だから、練習にも自然に力がこもる。
「行っくぞぉっ!!」
四角く囲われたマットの上、その一角から僕は大きく飛び出した。
「おりゃああッッ!!!!」
大きく跳ね、体をグインと捻らせる。物凄い勢いで落下する瞬間、僕は手を付き、その反動でばねのように再び跳ね上がる。
「はあああッッッ!!!!」
高く飛び上がり、クルクルと体を回転させ、スタン、と地面に着地した、…はずだった。
「っとと…!」
僕の体がよろめいたと思った瞬間、
「うわあああッッッ!!!!」
と僕は叫び声を上げて思い切りひっくり返った。そして、後頭部を床にしたたかに打ち付けた。
「…ってぇ…ッ!!」
目尻に涙が滲む。僕は頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がった。そして、
「…はぁ…」
と、大きく溜め息を吐いた。
僕の名前は日野俊介。実は僕は、武蔵野学園高校に通う普通の高校生のはずだった。何が「はず」だったかと言うと…。
実は僕、「高速戦隊ターボレンジャー」と言うヒーローで、その中でイエローターボとして、地球を侵略しようとする暴魔百族と言う魔族と戦っているんだ。
何がきっかけだったかと言うと、幼い頃に浴びた妖精の光。当時はその光が何を意味しているのか、知るはずがなかった。夢かもしれないとも思っていた。でも高校3年になった途端、それが現実のものとなったんだ。
太古の昔、妖精達は力を合わせて、この世界を侵略しようとする暴魔百族と言う恐ろしい魔物を封じた。でも地球上の環境破壊がどんどん進み、それが暴魔百族を蘇らせてしまったんだ。そして、やつらは世界の各地に封印されている暴魔獣を蘇らせ、この地球を支配しようと企んだんだ。
その時、妖精の生き残りであるシーロンが、暴魔百族と戦う戦士を選んだ。その条件が、妖精の光を浴びた5人の若者。つまり、その中にちゃんと僕も含まれていたってわけ。
「…たくぅ…ッ!!」
暴魔百族が待ってくれるわけはなく、僕らはやつらが現れるたびにその場所へ駆け付け、死と言う恐怖と隣り合わせになりながら必死に戦っていた。当然、学校にもそんなことを言えるわけはなく、出席日数もかなりギリギリになっていたりする。当然、部活にも参加する機会が激減し、いつもなら難なくこなせる技も、さっきみたいに失敗する。これが、僕の「1つ目の」悩み。
「こんなんで大会に出られるのかな…」
と、その時だった。
ピーッ!!
体育館に隣接するプールでホイッスルの音が響いた。
「!?」
僕はその方向を向いた途端、思わず目を見開いた。
ちょうどそこに、プールから出て来たばかりの洋平がいたんだ。すると洋平も僕を見つけ、ニッと笑いかけて来た。僕は、慌てて視線を逸らした。
浜洋平。僕のクラスメイトで、水泳部のキャプテン。そして、僕と同じくターボレンジャーで、洋平はブルーターボ。実はターボレンジャーは全員、僕のクラスメイトだったりする。レッドターボは野球部のキャプテンで、熱血漢の炎力。ブラックターボは陸上部でかなりスイトイックで、優等生の山形大地。そして洋平と僕がいて、ピンクターボは生徒会副会長の森川はるな。僕らは全員、幼い頃に妖精の光を見た。その頃から、僕らは不思議な縁で繋がっていたんだ。
で、この洋平が僕の「2つ目の」悩みだった。
実は僕、この洋平を物凄く意識している。洋平と話す時も、洋平がブルーターボとして戦う時も、そして、今みたいにアソコの部分だけを覆う、ブーメランタイプの水着を着ている時も。洋平を見れば、洋平のことを考えれば、僕の胸はドキドキと高鳴って、気までおかしくなりそうだった。特に、部活中は洋平の、程よく筋肉が付いた裸体を見た時は!
いや、それだけじゃない!水着の中に収められている、洋平の男の子としての象徴がこんもりと山を作っているのを見た時は!
「…僕、…洋平に恋してるんだろうな…」
でもそんなこと、言えるわけない!相手は僕と同じ男だぞ!?クラスメイトだぞ!?一緒に暴魔百族と戦う仲間だぞッ!?言ったら最後、絶対に不気味な目で見られるに決まってる!!
僕が洋平を意識するようになったきっかけは、本当に偶然なものだった。
「俊介ぇッ!!危ねぇぇぇッッッ!!!!」
ある日、いつものように暴魔獣と戦っていた時のことだった。イエローターボに変身した僕は無我夢中になり過ぎて、周りが見えていなかったことがあった。そんな時、暴魔獣が僕に向けて銃弾を飛ばして来た。
「!?」
気づいた時には、それが目の前に迫っていた。
(やられるッ!!)
僕は思わず目をギュッと閉じる。その時、僕の体がフワリと宙に浮いたのが分かった。
(…え?)
考える暇もなく、僕は地面へゴロゴロと転がった。暴魔獣が放った銃弾は僕の体の上を通過し、遠くの岩場で爆発した。
「大丈夫かッ、俊介ッ!?」
僕に覆い被さるように、ブルーターボに変身した洋平がバイザー越しに僕を心配そうに見ていたんだ。
「…あ…、…あぁ…。…ありがとう…」
少しずつ落ち着いて来て状況が把握出来た時、僕はようやく頷いた。
「…良かった…」
洋平がほっとした表情をしたのか、バイザーの中の目が細くなった。と次の瞬間、ちょっと困惑した視線を投げかけて来た。
「…洋平?」
同時に、僕も右手に違和感を感じた。
「…しゅ、…俊介ぇ…!」
洋平の視線が下の方へ下りて行く。と同時に、僕の視線が洋平の視線を追う。そして、僕の右手の違和感の原因が分かった途端、僕も顔を真っ赤にした。
「…うわあああッッッ!!!!」
叫ばずにはいられなかった。助けに飛び込んだ洋平が僕を押し倒して地面に転がった時、僕の右手は無意識に洋平の下半身、2本の足の付け根部分を静かに包み込んでいたんだ。
「ごごご、ごめんッ!!洋平ぇッ!!」
僕は慌てて手を離し、洋平の下から抜け出すように起き上がった。
「…あ、あのッ!!…ぐ、偶然だからなッ!!」
何で言い訳なんかしてるんだろう?相当、頭の中がパニックになっているみたいだ。
「…あ、あぁ。分かってるって!」
すると洋平はニッと笑うと、再び戦いの中に戻って行った。
それからだ。僕が洋平を意識するようになったのは。
(…あの時の洋平のアソコ、…かなり大きかったよな…?)
部活が終わり、更衣室で制服に着替えていた。
「(平常でもあの大きさだったら、大きくなったらどのくらいになるんだろう?)…って、何を考えてるんだッ、僕はッ!!」
僕は大きく頭を振り、さっさと着替えると荷物を引っ掴み、更衣室を出た。
「…あれ?」
もう全ての部活が今日の練習を終えているはずなのに、水泳部の部室だけは入口の扉が少しだけ開き、電気が煌々と付いているようだった。でも、何の物音もしない。
(…誰かいるのかな?)
僕は部室の扉を少し開けてみた。
「!?」
その時、僕はもう少しで声を上げそうになった。
水泳部の部室の真ん中にベンチがあり、その上には、足を少しだけ開き、競泳水着を穿いただけの姿で眠っている洋平がいたのだった。