ジグザグ青春ロード 第4話
「…あ…、…あぁ…ッ!!」
多分、震えていたと思う。顔が熱い。多分、真っ赤になっていたと思う。それに冷や汗のようなものが体中に流れているのが分かった。
目の前がぼんやりとしている。多分、泣いてるな、僕…。
「…」
洋平がゆっくりと起き上がって、ベンチの上に腰掛けた。
「…」
僕はその横に無言のまま、腰掛けた。
水泳部の部室のベンチの上で、何故か、ブルーターボに変身して寝ていたはずの洋平。本当は「寝たふり」をしていたってわけ。そうとは知らずに、僕はイエローターボに変身し、洋平の股間に顔を埋めるなんてことをしてしまった。
(…終わったな…)
僕の目の前は真っ暗、と言うか、真っ白、と言うか…。
「…いつから?」
かなり長い時間、沈黙が続いていたように思う。その沈黙を破ったのは洋平だった。
「…え?」
僕は洋平の方を向いた。でも、洋平は僕を見てはいなかった。
「…いつから、…オレのこと…。…そんなふうに、…思ってた…?」
洋平が言葉を絞り出すように言う。
「…分からねぇよ…」
次の瞬間、僕は洋平の目の前に立っていた。
「…俊介?」
洋平は僕を下から上へゆっくりと見上げた。その視線が、僕のとある一点で暫く止まったのを、僕は見逃さなかった。
「…そうだよ…!…僕は洋平が好きなんだよッ!!…洋平のことを考えるだけで、こんなになっちゃうんだよッ!!…いつからなんて、分からねぇよッ!!…力でもないッ!!大地でもないッ!!僕はッ、僕はッ!!」
僕の目からは涙が後から後から溢れていた。その雫が、部室の床へポタポタと零れた。
「僕は洋平のことが好きなんだッ!!」
一気にまくし立てた。その間、洋平は身動ぎもせず、ただ、僕をじっと見つめていた。
「…オレ、…何となく、気付いてた…」
暫くして、洋平がポツリと呟いた。
「…俊介が。…オレに接する時の俊介が、力や大地の時のそれとちょっと違っていたのを。…だから、…ひょっとしてと思って…」
次の瞬間、洋平の口から凍り付く言葉が吐き出された。
「…俊介。…この間、…オレのアソコ、…食べただろ?」
僕の胸がドキンと高鳴った。洋平、気付いてた!?
「…ッ!!」
僕が何も言えずにいると、洋平は小さく溜め息を吐いて、
「…やっぱりな…」
と言った。
「あの時、確かに、夢の中でオレのアソコが食べられている夢を見ていたんだ。でもその時、目が覚めたんだ。薄目を開けてみたら、俊介が荷物を掴んで慌てて部室を出て行った姿を見たんだ…」
そこまで気付かれていたのか…。…もう、…完全に終わりじゃないか…。
「…だから、今日も同じようにしてみたんだ。ドアを少しだけ開けて、お前が来るのを待ってた。でも、今回はブルーターボに変身してみた。お前が、どんな動きをするのか、知りたかったんだ」
「…そうだよ」
僕は思わずフッと笑った。もう、逃げようがない。言い訳なんて出来ない。
「…オレが、…洋平のアソコを、…食べたんだ…」
僕はそう言うと、荷物を掴んだ。自然に僕の体が光り、イエローターボから制服姿に戻っていた。と同時に、洋平もブルーターボから制服姿に戻っていた。
「…気持ち悪い思いさせて、…ごめん…」
僕は洋平を見ずに部室を出た。
翌日――。
僕は学校を休んだ。いや、体調が悪いわけではない。ただ、洋平に会いたくない、そう思っただけ。
(…皆勤賞、狙ってたのにな…)
高校に入学してから、一度も休んだことなかったのに…。
(…あ、…皆勤賞なんて、とうの昔に消えているか…)
暴魔百族が現れて、僕がターボレンジャーになってから、高校もまともに行けていない日が多いか…。
ピンポーン!
夕方近くになって、家の呼び鈴が鳴った。
「…お袋ォッ!!」
2階の自室に篭っていた僕は、階下にいるであろう、お袋を呼んだ。だが、返事がない。
ピンポーン!
また呼び鈴が鳴った。
「お袋ォッ!!」
僕は立ち上がると、自室のドアを開け、再び叫んだ。だが、階下では物音1つしない。
ピンポーン!ピンポーン!
呼び鈴が何度も鳴り続ける。
「…あぁッ、もうッ!!」
僕は階段をドタドタと下り、玄関のロックを外した。
「はぁい!」
僕は思い切りドアを開けた。
ガツン、と言う鈍い音がし、同時に、
「痛てッ!!」
と言う声が聞こえた。
「…あ…!」
その瞬間、僕はその場で固まった。目の前には、今、一番、会いたくない人、洋平がいたんだ。
「…痛ってぇ…!!…お前なぁッ、もっとゆっくり開けろよぉッ!!」
目尻に涙を浮かべて、洋平が僕を睨み付けた。
「…あ…、…あぁ…!!」
多分、震えていたと思う。顔が熱い。多分、真っ赤になっていたと思う。それに冷や汗のようなものが体中に流れているのが分かった。
目の前がぼんやりとしている。多分、泣いてるな、僕…。
「…入るぞ…!」
洋平はそう言うと、僕の両肩を掴んだ。そして、僕を家の中へ押し込むようにして、玄関の扉を閉めた。