ジグザグ青春ロード 第8話

 

「…なッ!!…なッ!!

 まるで魚河岸に釣り上げられた魚のように、目を見開き、口をパクパクさせる僕。

「…ななな、何やってんだよッ、洋平ッ!?

 僕は思わず叫び声を上げた。目の前にいる僕の彼氏、洋平が、鮮やかな青い競泳水着1枚で爽やかな笑顔を浮かべて立っていたんだ。

 ここ、屋上だぞッ!?階段を使えば、普通に他の生徒に見られるんだぞッ!?

「今から朝練!」

 そう言いながら洋平は僕のもとへ歩み寄って来る。

「…あ…あ…あ…!!

 洋平のことを考えて、ただでさえヤバい状態になってここまで来たって言うのに、洋平が更に追い討ちをかけるようにその逞しい体を曝け出している。

「どうしたんだよ、俊介ぇ?」

 コイツ、絶対、全て分かっててやってやがる!腰が抜けたかのように立ち上がれない僕の目の前に、ズイズイとその体を差し出して来る。僕の目線の先には、洋平の程よく膨らんだ股間が。

「やッ、止めろよッ、洋平ッ!!ってか、何でそんな格好でここに来んだよッ!?

 僕の顔は真っ赤になり、心臓がドキドキと早鐘を打っていた。

「だぁかぁらぁ、朝練…」

「それは分かってるっつーのッ!!

 思わず声を大きくする僕。だが、洋平はニヤニヤとして僕を見ているだけだ。

 コイツ、絶対、分かってやってやがるな!?

「…プ、…プールは下だろ!?…何で、そんな格好でここに上って来んだよッ!?

 すると洋平は更にニヤニヤとして、

「え~?だって、オレの俊介が屋上へ物凄い勢いで走って行くのが見えたからさぁ?」

 と言い、更に僕との距離を縮めて行く。

「…や、…止めろよ…!」

 僕の顔の前に、洋平のふくよかな膨らみがどんどん近付いて来る。僕の体は火照るように熱く、股間は痛いくらいに盛り上がり、制服のズボンを押し上げている。

「…へ、…変なモノ近付けんじゃねぇよッ!!

「あれ?あれあれ?」

 突然、洋平が素っ頓狂な声を上げた。

「俊介、これが欲しいんじゃなかったのか?」

「…え?」

 ドクンと心臓が大きく跳ねた。

「俊介が屋上に走って行ったってことはさぁ、オレと2人きりになりたかったってことで、そうすれば、あの日の部室みたいにオレのこれを好きに出来るからかなぁって思ったんだけど…!」

「うわああああッッッッ!!!!

 思い出したくもないことを思い出させてくれた。僕は思わず頭を両手で抱え込み、叫び声を上げた。

「ほら、俊介」

 不意に、洋平の声の調子が変わっていたことに気付いた僕は、思わず洋平を見上げた。

「…洋…平…?」

 その目に惹き付けられる。今の洋平はニヤニヤしていなかった。僕をじっと見つめる、真面目で、でもどこか切なそうな目。

「…触ってくれよ、…俊介…!」

 そう言う洋平の股間が少しずつ形を形成し始めていた。

「…ここなら、…誰にも憚られることはない…!」

 鮮やかな青い競泳水着の中で、その存在を現して行く洋平のそれ。

「…あぁ…!」

 その時、僕の下着の中でひんやりとした感触があった。僕も、洋平のそれを見て興奮してしまっているようだ。

「…洋…平…!!

 僕は、洋平の競泳水着に手を伸ばし、その存在に触れた。

「ん…!!

 僕の目の前で仁王立ちになっている洋平がピクリと反応し、目を閉じた。

「…あぁ…!!

 僕はきっと、うっとりとしていたと思う。ずっと欲しかったものを大切にするかのように、優しく洋平の股間を撫でる。

「…洋…平…!!

 クッキリと形を現して行く洋平のそれに、僕は顔を近付けた。その時だった。

「おっと!」

 突然、洋平が素っ頓狂な声を上げ、腰を引いた。

「…え?」

 僕は驚いて洋平を見上げる。その途端、僕の顔は再び真っ赤になった。

「フフッ!」

 洋平が意地悪い顔付きで僕を見ていたんだ。

「触ってくれとは言ったけど、食べてくれとは言ってない!」

 そう言うと洋平はクルリと踵を返し、

「んじゃ、また後でな~!!

 と言って屋上から出て行った。

「…あぁ…!」

 僕はがっくりと項垂れた。

 

 放課後――。

「…うぅ…!」

 物凄く疲れた。朝から悶々とし、授業も身が入らなかった。

(…洋平のやつぅッ!!

 洋平はしれっとして、今朝のことは頭からキレイさっぱりなくなっているように、普通に授業を受けていた。

(…帰ろ…)

 部活にも顔を出す気になれない。げんなりとして通学カバンを抱えたその時だった。

「しゅ~んすけッ!!

 あの軽そうな声が背後から聞こえた。僕は思わずギクリとなって肩をすくめる。

「あれ?部活は?」

 洋平が僕の肩を抱きながら聞いて来る。

「…今日は、出る気にはなれないよ…」

 僕がそう言うと、洋平はニヤリとして、

「よぉし!」

 と言った。

「…?」

 僕は半ばイライラしながら洋平を見上げる。すると洋平はニヤニヤしながら、

「じゃあ、一緒に帰ろう!」

 と言って来た。

「はぁ?お前、部活休んでいいのかよ!?インターハイ、期待されてんだろッ!?

 そうなんだ。僕なんかと違って、洋平は学校中の期待の星。すると洋平は、

「今日は休む!たまには、休息も必要だ!」

 と平然と言う。

「…それに。…大事な俊介君が元気ないみたいだし、傍にいてやりたいって思うからさ!」

 と言うと僕の腕を掴み、半ば強引に僕を学校から引っ張り出した。

(誰のせいだと思ってんだよッ!?

 腕をグイグイ引っ張られながら、僕はそう思っていた。

 

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