ジグザグ青春ロード 第20話

 

 僕の夏が終わった――。

 体操の大会に出場した僕。でも、成績は散々だった。まぁ、ターボレンジャーの一人・イエローターボとして暴魔百族と日々戦って、練習する時間も少なければ、そりゃ、体操の腕だって落ちると言うもの。

「まぁ、しょうがないよな〜。日頃からあんまり練習してなかったし、そんなに自分も期待してなかったし〜」

 と僕はのほほんとしていた。

 そして、時を同じくして、洋平の夏も終わってしまった。

 水泳の選手として、学校中から期待されていた洋平。インストラクターの資格まで持つ彼は当然、上位の成績を期待されていた。僕だって、洋平が表彰台に立つのを夢見ていたくらいだから。

 でも…。

 洋平の夏は、呆気ないほどに終わってしまったんだ。

 

「…何で…だよ…!!

 僕の家の自室で、洋平と一緒にベッドの上に腰掛け、しゃくり上げる僕。

「…暴魔百族の、…アホぉ…!!

 涙が後から後から溢れて来る。

 洋平の大事な大会の日。街に暴魔百族が現れた。僕やレッドターボの力、ブラックターボの大地、そして、ピンクターボのはるなの4人で食い止めるから、洋平は試合に集中しろと僕らは洋平に言い聞かせたはずだった。それなのに、洋平はわざわざ大会をすっぽかし、ブルーターボに変身して僕らと一緒に戦い、Vターボバズーカで暴魔獣を倒したんだ。当然、洋平は試合放棄ってことで資格剥奪。呆気ないほどに洋平の夏が終わってしまったんだ。

「だってぇ、オレがいなきゃ、Vターボバズーカだって使えねぇだろ?」

 明るく言う洋平。でも、僕は悔しくて仕方がなかった。

 水泳をやっている時の洋平が一番輝いていたのもちゃんと知っていた。逞しい体を曝け出してプールに飛び込み、水と一緒にまるで遊んでいるかのように楽しく泳いでいる洋平が眩しくて仕方がなかった。

「まぁ、しょうがないよな〜。終わっちゃったものは仕方がないんだし〜」

 僕の横でカラカラと笑う洋平。

「それにさ、暴魔と戦って世界を守っているんだって言った方が、カッコいいだろ?」

 その言葉に、僕の中で何かがキレた。

「…洋平は、…それで、…いいのかよ…!?

 ブルブルと体が震えている。次の瞬間、僕は洋平を見上げると、思わず胸倉を掴んでいた。

「大事な試合が暴魔に滅茶苦茶にされちゃったんだぞッ!?洋平の人生が狂ったって言ったっていいんだぞッ!?それなのに、…何でそんなに笑っていられるんだよッ!?

 そう言って僕は再びしゃくり上げ始めた。

「…何で、…何で、…こんな時に、…暴魔…なんか、…出て来るんだ…よぉ…ッ!!

 ぐしぐしと泣く僕を、洋平が静かに抱き締めてくれた。

「…ありがと、…俊介…」

 洋平の真っ黒に焼けた腕が僕を優しく包み込んでいる。

「…正直言えば、オレだって悔しいよ。…せっかくの大会だったのに、…その大会で優勝するためにオレは一生懸命に練習して来たのに…。暴魔のせいで、一瞬でパーさ」

 そう言うと洋平は僕と向かい合った。

「でも、それも時の運だよ。タイミングが悪かっただけのことさ」

 いつもの優しい眼差し。僕だけに見せる、洋平の物凄く優しい眼差しが今、目の前にある。

「…洋…平…ぇ…!!

 ぐしぐしと泣き続ける僕。その時、洋平の顔が近づいて来て、

 チュッ!

 と言うくすぐったい音が響いた。

「俊介ぇ」

 洋平が再び僕を抱き締める。そして、

「オレ、すっげぇ嬉しいよ」

 と言った。

「俊介が、まるで自分のことのように、オレのことでこんなにも泣いてくれて」

「…だって…、…だぁ…って…ぇ…!!

 涙、止まれ!って言っても全然、止まってくれない。本当に悲しくて悲しくて。

「それに、これでようやく、俊介と一緒にいる時間をもっと取ることが出来るようになったし!」

「…ふえ?」

 泣き腫らして真っ赤になった目で、洋平を見つめる僕。

「今まではお互いに部活動で忙しくてさ、なかなか一緒にいる時間って取れなかっただろ?でもこれからは、お互いに部活動も引退したことだし、学校にいる時も、こうやって学校から帰ってからも、ずっと一緒にいられるなって思うと嬉しくてさ!」

「…あ…」

 考えてもみなかった。と言うか、洋平の試合がダメになってしまったことで頭がいっぱいだったから。

「なぁ、俊介ぇ」

 ニッコリと微笑む洋平。

「終わってしまったことを悔やんだってしょうがねぇんだ。前向きに行かなきゃな!今は、オレの試合がダメになってしまったことよりも、これからをどう過ごして行くか、それだけを考えようぜ?」

「…洋…平…ぇ…!!

 また、僕の目からはボロボロと涙が溢れた。

 洋平、本当は滅茶苦茶悔しくて悲しいはずなのに、どうしてここまで強いんだろう。すると洋平はやれやれと言った表情で苦笑して、

「なぁんだよぉ、俊介ぇ!オレが彼氏になった途端、物凄く泣き虫になったよなぁ?」

 と言った。

「んなッ!!

 そう言えば、僕は洋平が彼氏になった途端、物凄く泣き虫になったように思う。

「そッ、それはッ、洋平が僕を泣かすからだろうッ!?

 顔を真っ赤にして言う僕。そんな僕の唇に、洋平の唇が重なった。

 …チュッ!!…チュルッ!!…クチュクチュッ!!

 くすぐったい音が僕の耳に響く。

「…んッ!!…んん…ッ!!

 洋平の舌が僕の口の中を蹂躙する。僕は洋平の舌を捉えようと、一生懸命に自分の舌を絡ませる。

 息が苦しくて、口の隙間から涎が零れた。

「…はぁ…、…はぁ…!!

「…はぁ…、…はぁ…!!

 お互いの顔が真っ赤になっている。

「…俊介…」

 洋平が僕の名前を呼ぶ。

「…オレはもっと、俊介を泣かせたい…!…俊介が大好きだから、…もっといろんな俊介を見たいよ…!!

 そう言うと洋平は、再び僕にキスをして来た。

 …チュッ!!…クチュクチュ…!!…クチュクチュ…!!

 そして、洋平が僕の体をグイッと押す。

 僕達は折り重なるようにして、ベッドに倒れ込んだのだった。

 

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