力、絶体絶命! 第1話

 

「行くぜッ!!

 眩しく輝く太陽。その下で動き回る真っ白なユニフォームに包まれた選手達。体にぴったりと纏わり付くようなそのユニフォームが風になびき、その動きに合わせるかのように、太陽の光がそのユニフォームの上で踊る。

「食らえッ!!消える魔球ウウウウウウウウッッッッッッッッ!!!!!!!!

 筋肉質な右腕が大きく、宙高く突き上げられる。そして、それが物凄い勢いで振り下ろされた時、

 ブウウウウウウウウンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と言う音と共に、手のひらの中に納められていた野球ボールが物凄い勢いで宙を舞っていた。

 ギュウウウウウウウウンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 軽く茶色く汚れたそれはその形を変え、視界から見えなくなったかと思うと、次の瞬間、

 ドオオオオンンンンッッッッ!!!!

 と言う物凄い音と共に、キャッチャーのミットの中に減り込んでいた。

「ストライイイイイクッッッッ!!!!ゲームセエエエエッッッッ!!!!

 球審の大きな声と共に、

 ピイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、ホイッスルがけたたましい音を立てて鳴り、それと同時に大歓声が湧き起こった。

「ヤッタぜエエエエエエエエッッッッッッッッ!!!!!!!!

 相手バッターの三振を奪い、勝利に貢献したその青年は眩しいほどの笑顔を輝かせ、ガッツポーズをして仲間達とその勝利の余韻に浸っていた。

「やっぱり、野球をしている時が一番幸せだぜッ!!生きてるって感じがするッ!!

 

 炎力。都立武蔵野学園高校3年A組。出席番号17番。野球部に所属し、毎日、汗を流している。

 力が所属しているこの野球部は都内でもかなりの実力を持つチームで、毎年、大会では好成績を納めるほどのところだった。部員達はいつもストイックに体力作りと練習に励み、どんなに厳しいメニューもそつなくこなしていた。

 その原動力となっていたのが、このチームの絶対的エース・力だった。爽やかなイケメン。エースにして4番打者と言う申し分ない存在。更に頭脳明晰。正義感が強く、冷静な判断力も持ち合わせている。まさに、パーフェクトな男だった。

 多くの女性達が力との甘い生活を夢見、近寄ろうとした。いや、近寄ろうとしたのは女性だけではない。いわゆる、男性に恋をする男性も力に憧れ、恋焦がれ、少しでも力の近くのポジションを狙おうとしていた。

 だが、力はそんな者達に目もくれず、ただ、ひたすら真っ白なボールを追い続けていた。それよりも、力には誰をも寄せ付けないオーラがあったのだ。

 

「行くぜッ!!レッドターボッ!!

 それは力が両腕に装着しているブレスレットに秘密があった。

 学生服姿意外では白いジーパンに赤いポロシャツ姿の力が叫ぶ。すると、力の体が眩い光に包まれ、次の瞬間、力の体を光沢のある鮮やかな赤色のスーツが身に包んでいた。

 レッドターボ。それが、力のもう1つの姿。

 そのキラキラと輝くスーツ。それは力の体に密着するように纏わり付き、その腕、その脚、その胸、その腹筋などの肉付きを隆々と見せ付けていた。

 その中で、ひと際その存在を浮き立たせるもの。

 力のガッシリとした2本の足の付け根に息づく、力の男としての象徴・ペニス。それがレッドターボの赤いスーツの中で臍へ向かって真っ直ぐに伸び、静かにその膨らみを形成していた。

「行くぜッ!!

 力がそう叫び、剣型の武器・GTソードを振り翳し、宙高くジャンプする。そして、

「GTクラアアアアアアアアッシュッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と叫んだかと思うと、その剣を目の前にいる暴魔獣に向かって一気に振り下ろした。そして、その剣に込められたエネルギー波をぶち込んだ。

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 その暴魔獣が甲高い悲鳴を上げたかと思うと、

 ズババババッッッッ!!!!バアアアアンンンンッッッッ!!!!バアアアアンンンンッッッッ!!!!

 と言う物凄い衝撃音と共に、体のあちこちから爆発が起こる。そして、その暴魔獣は無言のまま、地面に倒れたかと思うと、

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンンッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 と言う爆発音と共に、その体が辺りに爆散したのだった。

「ビクトリイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!

 力は右手を大きく突き出し、Vサインを決める。

「見たかッ、オレ達の力ッ!!

 勝ち誇った笑みを見せ、目をキラキラと輝かせた。

 

 レッドターボ。それが、力のもう1つの顔。

 最近、と言うより、少し前からだろうか。混沌とした社会の片隅に禍々しく蠢く集団が現れた。

 今から遡ること2万年前。世界は人と妖精と暴魔が存在していた。人間は妖精と協力して暴魔に勝利し、妖精達の守護獣である聖獣ラキアによって暴魔は封じられる。しかし、人間は妖精の存在を忘れ、妖精も度重なる自然破壊によって滅んで行く。そして、守護獣ラキアの力が弱ったことで暴魔の封印が解かれてしまい、暴魔は侵略を開始した。

 妖精最後の生き残りであるシーロンは、妖精を見ることが出来る力達、東京都立武蔵野学園高校の3年A組の5人の生徒に地球の未来を託すことにしたんだ。そのうちの1人が、炎力だった。

 突如、現れたそれらの生命体に恐怖し、絶望に突き落とされる人々。

 そんな人々を守るべく、立ち上がったのが力を始め、未来ある高校生5人組だった。力をはじめ、同じクラスの山形大地はブラックターボに、浜洋平はブルーターボに、日野俊介はイエローターボに、そして、森川はるなはピンクターボに変身する。

「…この世界を…ッ、…守りたい…ッ!!

 レッドターボになることを決意した力。ただ、その思いだけが、彼を突き動かしていた。

「でも、学生生活との両立はやっぱり厳しいなぁッ!!

 命懸けで戦う力達をサポートしてくれるのは、妖精シーロンと、様々なターボマシーンを開発した太宰博士だけ。同じ武蔵野学園高校の同級生達は力達がターボレンジャーであることを知らない。

「ああっと!!悪りィッ、急用が入った!!後は頼むなッ!!

 そう言って物凄い勢いでその場を離れることもしばしば。レッドターボ、いや、ターボレンジャーの正体が力達であることは、誰にも知られてはならない禁止事項だったのである。

 だが、その禁止事項が、彼を絶望の淵へ追いやるなど、この時の力には想像だに出来なかった。

 

「…ふ〜ん…」

 武蔵野学園高校の学内、その奥の方にある小さな部屋。

 一人の男が皮の深々とした椅子に体を埋めるように腰掛け、1枚の書類を見つめていた。

「…彼が…、…レッドターボだと…?」

 冷たいイメージの、薄いフレームのメガネをかけ、そのガラスの奥から更に冷たい瞳をのぞかせている。

「…3年…。…野球部所属…。…炎…、…力…」

 その時、その男はフンと鼻で笑った。

「野球部だと?下らないッ!!ただ、球を追いかけるだけの部活がッ!!

 そう言った時だった。その男はふと顔を上げると、

「予算表を見せてみろ!!

 と、目の前に佇んでいた部下のような男に声をかけた。そして、渡された1枚の書類をひったくるようにして奪うと、じっと目を通した。

「…ククク…!!

 暫くすると、その男は低い声を上げて肩を少し震わせて笑い始めた。

「…いいことを思い付いた…!!

 その目がギラリと光る。

「…こいつを…、…俺の玩具にしてやろう…!!

 

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